クルマの高性能化がMTの採用率を下げている

 2000年代までスーパーカーのトランスミッションは「パワーに対応できるATがない」などの理由もあり、MT車が多かった。しかし現在MTでスーパーカーのジャンルに入るクルマと言われてもなかなか浮かばない。では、スーパーカーのほとんどがATとなった理由を考えてみたい。

1)クルマの速さにドライバーのシフト操作が追い付かない

 速さの一例として筑波サーキットのラップタイムを挙げると、日産GT-R NISMOが1分フラットといったところだ(姉妹誌CARトップのテスト)。筑波サーキット1分フラットというと、ツーリングカーレースの歴史を変えたR32スカイラインGT-Rのなかで、もっとも改造範囲の広いグループA仕様がレース中に走ったラップタイムと同等である。

 つまり現代のスーパーカーは、30年近く前に市販車ベースで頂点だったレーシングカー並みの速さを持っていることになる。それだけ速いクルマになるとプロドライバーでない限り、MTで正確かつ素早いギヤチェンジを行うことはほぼ不可能だろう。スーパーカーのトランスミッションがミスなく即座にシフトするDCT(デュアルクラッチトランスミッション)などの2ペダルに移行しているのもよくわかる。

スーパーカーは純粋に走りの楽しさを追求するモデルではない

2)スーパーカーを望むユーザー層の大きな変化

 かつてスーパーカーというと「クルマひと筋だった人がクルマ人生のゴール」として買うケースも多かった。そういった人であればいろいろなクルマを乗り継ぎ、経験も積んでいるため、運転技術も相当高いと想像できる。しかし、現在のスーパーカーユーザーはそのような層に加え、「富裕層のキャラクターシンボル」として乗っている人も少なくない。後者のようなユーザー層であればATを求める人も多く、需要に対応してスーパーカーのトランスミッションがATばかりとなっているのも当然だろう。

 個人的にスーパーカーというのはスポーツカーよりもドライビングプレジャーというプライオリティは小さく、その代わりに美しいスタイルやそのクルマならではの世界観を与えてくれるジャンルのクルマだと思う。といったことを考えると、シフト操作も含めドライビングプレジャーを追求したいというなら、日産フェアレディZやポルシェ・ケイマンあたりのミドル級のスポーツカー(このクラスでもMTは珍しくなっているが)に留めるほうが、スーパーカーを買うよりも賢い選択なのではないだろうか。