『エンタの神様』に出演し「チクショー」の決め台詞でブレイクしたコウメ太夫さん。最近ではTwitterに「#まいにちチクショー」のハッシュタグで新ネタを毎日投稿していますが、その方向性はエンタ時代とは一線を画すシュール…というかもはや猟奇的なもの。

また、『水曜日のダウンタウン』や『全力!脱力タイムズ』にたびたび起用され、テレビマンたちに企画の想像力を掻き立てる素材として見出されているところがあり、単なる一発屋に留まらないさまざまな側面を見せています。

そんな多面性のあるコウメさんですが、今回注目したのは「大家さん」としての一面。

実は、アパートを一棟購入して家賃収入で家計を支えているという彼に、不動産経営についてききました。

〈聞き手=渡辺紺〉


コウメ太夫ことアパートオーナーの赤井貴(あかい・たかし)さん

「これから仕事なくなるよ」何もできない自分がすがったのがアパート経営だった

渡辺:
不動産経営を始めたのはブレイクした2005年からですか?

コウメさん:
勢いが落ち着きはじめた2008年くらいですね。

そのころマネージャーさんから「コウメさん、そろそろ仕事なくなってくるからね」って言われて、何かしようって思って。



渡辺:
厳しい…

もともと不動産経営に興味があったんですか?

コウメさん:
いやいや全然。たまたまマネージャーさんのご実家が不動産関係のお仕事をされてて、「アパート経営とかいいんじゃない?」って。

渡辺:
本当にマネージャーさんきっかけなんですね。

コウメさん:
そうですね。俺、一発屋ってものを知らなかったんですよ。

エンタで売れたときにもう生涯安泰だと思ってたんです。だからまた仕事がなくなるって先に言ってくれてよかったです。

渡辺:
芸人さんが「一発屋」を知らないことあります?

コウメさん:
ただ、貯金がけっこうあったので、アパートの購入費用の5000万円のうち3000万円くらいは自分で払えちゃったんです

で、残りは銀行から融資を受けて、今もローン返してます。あと20年分くらいあるかな。



渡辺:
芸人さんってアルバイトしてる人が多いイメージですけど、それは考えなかった?

コウメさん:
僕は間抜けですからね。本当に、どんな仕事をしても言われた通りに動けないんですよ。1つやると別の1つを忘れちゃうし、時間通りにどこかに行くこともできない。

渡辺:
なんというか、そういうことがとても苦手なタイプなんですね。

コウメさん:
仕事がなくなってきたとき、1回だけバイトに行ったんですけど、そこですごくいやな思いをしちゃって。

学生のころにもやっていた、ドラマのエキストラのバイトにもう一度行ってみたんですけど。

渡辺:
いやな思いの詳細、伺っていいですか?

コウメさん:
コウメ太夫だってバレちゃったんですよ。

ディレクターさんから「ここに戻ってきちゃったんだ、芸人さんも大変ですね」なんて言われちゃって。ちょっとあれは…ショックでしたね。

渡辺:
ああ…なるほどそれは…。ちなみにどういう役だったんですか?

コウメさん:
街中で大道芸をやってるピエロの役でした。


なんでよりによって白塗りの役を…

コウメさん:
そういうことがあったんで、ちょっともう人前に出るバイトはしんどいなって。

渡辺:
人から指示を受けて動くのが難しい、人前に出ると傷つく、というのを避けてお金を稼げるやり方として、不動産経営はベストな選択だったってことですね。

コウメさん:
そうですね。こんな俺でもやれてますから。



コウメ太夫はどのようにアパート経営をしているのか?

渡辺:
経営されているアパートについて詳しく教えてください。たとえば部屋数とか。

コウメさん:
6部屋だったかな。椎名町駅徒歩5分くらい。築10年とか。家賃は1階が5万5000か5万4000円、2階が6万5000か6万4000円?

渡辺:
すべての数字があやふやだ…

ちなみに今って満室ですか?

コウメさん:
今は満室ですね。あれ? 1つ空きがあったかな?

渡辺:
あやふやだ…

コウメさん:
すいません。たぶん満室だったと思います。

渡辺:
やっぱりいかに満室の状態をキープするかがポイントだと思うんですが、空き室を埋めるためにしていることってありますか?

コウメさん:
空き室ができたら必ず見に行くようにはしてますね。掃除したり、できる範囲で補修したり、消臭剤を置いたりして。

あんまり長い間人が入らないと、不動産屋さんにお金を払って宣伝してもらうんですよ。不動産サイトの目立つところに表示してもらったりね。

渡辺:
おお、大家さんっぽい!


「至って真面目に不動産経営を語るコウメ太夫」、世界観が狂っててよかったです

コウメさん:
あとのことはほとんど業者さんにお任せしてるんですけど、最近ちょうどその業者さんを変えたんですよ。

今までお願いしていたところが方向転換して、物件を持ちたい人向けの仕事に力を入れるようになったので、空き室を埋めることにはあんまり力を入れてくれなくなり、これはよくないなと。なので、空き室を埋めることを専門的にやってる業者さんに変えました。

それでも埋まらなかったら、空き室の分の家賃を肩代わりして払ってくれる「家賃保証」っていうのをやってる業者さんがあるので、そういうところに変えようと思ってたんですけど、今のところ満室なので。

あっ、今満室ですね!

渡辺:
さっきあやふやだったけど答えが出てよかったです。

ちなみに、今後不動産経営を考えている人にアドバイスするとしたら?

コウメさん:
今はあんまり買うときじゃないと思いますよ。今いろいろ物件見てると、俺が買ったときよりだいぶ高い気がします。

オリンピックの影響じゃないかとか不動産関係の人たちが噂してるのを聞きますけど、おれはちょっとわかんないですね。


わかんないんですね

渡辺:
ちなみに、住民の方は大家がコウメ太夫だって知ってるんですか?

コウメさん:
いやー、俺からは絶対言わないです!

それを知ったうえで部屋にいてくださるなら別にいいですけど、コウメが大家っていうことで恥ずかしいって思われちゃう可能性があるので。

渡辺:
気にしいなんですね。僕だったらうれしくてまわりに言いまくりますけどね。「自分ちの大家がコウメ」おもしろいですもん。


「そうですかね…」

もう子供と離れたくない。手に入れた堅実な3人暮らし

渡辺:
物件購入費のうち3000万円は自分の口座から支払ったとおっしゃってましたし、堅実に貯金されるタイプなんですね?

コウメさん:
そんなに使い道もないですから。大きい家に住みたいとか、いい車に乗りたいとかないんです俺

ブレイクしたときに初めて新車を買ったんですけど、おばあちゃんから「せっかく稼いでるのになんでこんな車買うんだ!」って怒られたくらいで。(某国内メーカーのコンパクトカー)っていう、100万円ちょっとくらいの車なんですけど。

渡辺:
いいですね、ファミリーカーって感じの。

おばあちゃんっていうのはコウメさんのお母さんのことですか?

コウメさん:
あっ、そうです。つい息子目線の言い方になっちゃうんですよね。一緒に住んでますし。

渡辺:
コウメさんはシングルファザーと伺ったんですが、おばあちゃんと同居で3人暮らし?

コウメさん:
はい、3人です。息子は今12歳ですね。


息子さんの話になり、つい表情がほころぶ(多分)コウメさん

渡辺:
これから中学生ですね。立ち入ったお話で恐縮ですが、公立なのか私立なのか、高校は、大学は…と考えると、蓄えが必要になってきますよね。

コウメさん:
家賃収入から何割か抜いて、教育費の貯金をしてます。

それに、おばあちゃんと話し合いをして、必要になったら2人で出し合って、行きたい学校に行かせてやろうなんて言ってますね。

渡辺:
「うちはお金ないから公立に行ってね」みたいなやりとりってけっこうあるあるだと思うんですが、そういうことはなく?

コウメさん:
そうですね。それこそアパート経営をしてなかったらもっときつくて、不自由させちゃってたかもしれませんけど。

渡辺:
アパート経営があるから、子供を育てられていると。

コウメさん:
うちはもともとすごく教育熱心な家系なんですよ。

親戚がお医者さんとか政治家とかそういう感じだったから、俺も子供のころは家庭教師を4人ぐらいつけられてました


コウメ太夫は家庭教師を4人つけられていた

コウメさん:
でも俺は全然だめで、授業を理解してないと怒られるからわかったふりしてどうにか乗り切るって感じでした。

息子は俺と全然違って、やったぶんだけできるようになる子。学校は行きたいところに行かせてやりたいですね。

渡辺:
おお、じゃあ息子さんはけっこう勉強ができる?

コウメさん:
おかしいですよね、俺の子なのになんでこんなに、とは思うんですけど。



コウメさん:
うち、親権の関係で子供が2歳のころしばらく離れて暮らしていた時期があって、そのときはつらかったですね。

俺、親権って言葉も知らなかったんですけどね。

渡辺:
「親権」を知らないことあります?

ともあれ、お子さんと暮らせる今の生活を手に入れるまではけっこう苦難の道だったと。

コウメさん:
子供が赤ちゃんのころにね、よく子供を乗せて熱海のほうまでみんなでドライブに行ってたんですよ。

離れて暮らしていたときはその熱海のマップを車に常備して、「また一緒に暮らせるようになったらドライブに行きたい」って、願掛けみたいなことをしてました

もう絶対離れたくないんで、そのマップはまだ車に置いてあります。

渡辺:
泣いちゃう…

コウメさん:
すいません、なんか。



渡辺:
ちなみに、現在お子さんとの関係はいかがですか?

コウメさん:
いいと思いますけど…息子とは必ず週に1回サイゼリヤに行くんです。

順番待ちの名前書くやつあるでしょ? 息子があれに毎回「コウメ太夫」って書くんですよ。

渡辺:
めっちゃくちゃいいエピソードじゃないですか。

コウメさん:
書き直すのもなんなんで、そのまま「コウメ太夫様〜」って呼ばれるのを待ちます。

渡辺:
じゃあ、お子さんはコウメ太夫というお父さんのキャラをポジティブに受け入れてるというか。

コウメさん:
そうみたいですね。

渡辺:
お子さんのまわりの人、たとえば学校の保護者の人とかには自分がコウメ太夫だってことは隠してないんですね?

コウメさん:
どうしようかなと思ってたんですけど、嘘つくのが本当に苦手なんで、最初は「不動産関係」って言ってました。

渡辺:
確かに嘘はついてない


でもすぐに「コウメじゃん」とバレたそうです

芸人としてもいい風が吹いてきた

渡辺:
ここからは「芸人として」のお話をききたいんですが…

Twitterで毎日更新している「#まいにちチクショー」、どんどんシュールな方向に行ってますよね。

コウメさん:
最初は『エンタ』でやってたようなやつを投稿してたんですけど、最近はもうほぼ意味がわかんないようなことばっかり言ってますね。


ずっと帯が苦しそうだったコウメさんが立ち上がって話しはじめた

渡辺:
あ、自分でもわかんないんですねあれ。

コウメさん:
自分でもわからないまま作ってます。

でも、エンタに出てたころからああいうのはあったんですよ。エンタに合わないから出してなかっただけで。

渡辺:
元々そういうシュールな側面というか、狂気みたいなものは持っていたと。


疲れに勝てず「赤井貴」に戻っていくコウメ太夫さん

コウメさん:
そうですね。最近になって(くりぃむしちゅー)有田さんなんかが「そういうのもっとやってくれ」って言ってくださるようになったりして、じゃあTwitterでは意味わかんない系でいこうかなって。

渡辺:
有田さんや『水曜日のダウンタウン』のディレクターさんなどの業界人のほか、「#まいにちチクショー」を哲学の切り口で解釈する「哲学者コウ・メダユー」みたいな一般人からもイジられるようになってきてますよね。

コウメさん:
いますよね。傷つくこともあるんで、あんまりリプライとか見ないようにしてるんですけど、その人は知ってます。

でも最近、まわりの人が優しくなってきた気がします。ネットの人たちもそうだし、ライブのお客さんも。実はライブでけっこうウケるんですよ、最近。



渡辺:
そうなんですか! いや、驚くのも失礼なんですけど。

コウメさん:
営業ではエンタでやってたようなわかりやすいネタをやるんですけど、ライブにはお笑い好きの人が来るので、そういう人には意味わかんない系のネタがいいかなと思ってやりはじめたらウケて。

本当にうれしかったですね。しばらくこのまま続けていこうと思ってます。



渡辺:
いいですね! お笑い通には伝わるわけですね。そういう芸ってどんな芸人さんから影響を受けたんですか?

コウメさん:
なんだろうな、子供のころは志村けんさんとか大好きでしたし、『ダウンタウンのごっつええ感じ』は何度もビデオを借りて繰り返し観てましたけどね。

観ながらゲラゲラ笑って、お笑いってなんなんだろうなって考えたり。

渡辺:
ああ、コウメさん、コントが好きなんですね?

コウメさん:
本当はそうなんです。お笑いを仕事にするならやっぱりコントやりたいですからね。

俺はやっぱコウメしかできないみたいな感じじゃないですか。それけっこうつらいですから。





渡辺:
そんな思いがあったんですね。でも、今って『めちゃイケ』も『みなさんのおかげでした』もなくなって、コントをやる番組がほとんどなくなってしまって。

コウメさん:
トーク番組の時代ですよね。俺はもう、ひな壇でおもしろいお喋りなんて全然できませんから。

もう一度コントの時代が来てくれたら俺、がんばっちゃうんですけどね。


赤井貴さん(47)不動産関係

渡辺:
おお、となると今後の目標としては、コントに挑戦?

コウメさん:
いやあ、自分から売り込むっていうのはしないですけどね。

渡辺:
締まらないなあ。では、大家さんとしての目標はいかがでしょう?

コウメさん:
すみません、こっちも締まらないんですけど、とりあえず現状維持ですね。これから息子の学費にお金かかってきますし、まだローンも20年くらいあるので、だいそれたことはできないかなと。

でも、もし芸人としてまたお仕事が増えてくるようなことがあれば、もう1棟買っちゃおうかななんて思ってますけどね。



バイトでうまくいかなかった経験をもとに、自分にマッチした不動産経営という稼ぎ方と出会ったコウメ太夫さん。

副業で家計を支えることで安心して芸人としての活動も持続でき、再度じわじわと注目を集めています。

働くうえでどうしても苦手なことのある人が、仕事とのマッチングを工夫して継続的に働いていくために、何かヒントになるかもしれません!

〈取材・文=渡辺紺(@matenrou_kids)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

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