明暗が分かれたマウス((下)老化マウス(上)若返りマウス)

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不労酵素で「夢の若返り」の真贋(2/2)

 酵素をマウスに投与することで、“若返り”を実現――?。詳しくは前回記事「不労酵素で夢の若返り!? 50代を20代に戻す『NAD』とは? 研究チーム教授が解説」を参照いただきたいが、ワシントン大学医学部の今井眞一郎教授らのチームは、「eNAMPT」という酵素と、若返りの鍵となる「NAD」の関連に注目。「eNAMPT」の量が減らないようにしたマウスは、若返ると共に寿命も延びたというのである。

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 NADの元となるのは、NMNという物質。今井教授は「MNMはサプリメントや機能性食品として服用できるように思います」と、社会実装の可能性に言及する。

「NADワールド(※NADを共通項とする臓器間ネットワーク)の関連では、NMNとeNAMPTについて社会実装をめざしています。NMNは経口摂取することで、NADにすばやく変換されることがわかっている。こちらはマウスを使った実験はすでに終わり、ヒトへの臨床治験が進行しつつあって、その成果は来春にも論文として報告できるのではないかと思います。ゆくゆくは毎日口から摂取できる機能性食品にできれば、と思います」

明暗が分かれたマウス((下)老化マウス(上)若返りマウス)

 一方、eNAMPTは、

「マウスで証明されたので、次はヒトの臨床研究に移っていきたいです。マウスの場合は週に1回、腹部から注射していました。ヒトに応用する場合も、注射か鼻からの吸引で摂取することになるでしょう。こちらは持続的に体内に留まるので、週単位の投与になると思います」

 こんな話を聞けば、期待する人は数知れないようで、俳優の石田純一氏は、

「認可なんか要らないから、早く実現してほしいです」

 と、熱望する。

「実験のマウスは毛づやがよくなったそうですが、髪が生えるようになったらいいですよね。肌がきれいになるのも喜ばしい。寿命も切実な問題で、長いに越したことないです。今回の研究が実用化されて、サプリなり施術なりで若返るのなら、何億でも出したいです。そんなに払えるわけじゃないけど、本当に効果があるならそれでも安いと思う人は、僕以外にも結構いるんじゃないですか。一刻も早く、僕が生きているうちに実用化してほしいです」

1粒5千円

 評価にやや慎重なのは、大阪大学大学院医学系研究科教授で、日本抗加齢医学会副理事長の森下竜一氏だ。

「今井教授の研究、マウスにおける現象としてはとても興味深い。ただ、研究成果をそのまま人間に応用できるのか、という点ではまだ不明なところがあります。老化や寿命に関する研究では、カロリー制限や、GDF11というたんぱく質を使った抗老化も注目されましたが、効果が証明されたのはせいぜいサルまで。なにをもって若返ったと評価できるのか、という問題もあります。脳年齢や血管年齢ならわかりやすいですが、老化そのものが止まったことの証明は、非常に難しい。ヒトでの臨床実験の結果を待ちたいところです」

 もっとも、NMNに関しては、今井教授は、

「国内の2社が高純度、高安定性のNMN製品の開発と大量生産に成功しています。これらはヒトでの臨床治験でも使われ、安全性が確保されています」

 と語る。その1社、新興和製薬の製品は純度の高さによって、60カプセルで10万6920円とか31万1040円。ザッと1粒5千円で、1日2カプセルが標準だそうだから、だれでも手を出せるシロモノではない。今後、安価に提供できるようにしたい旨を今井教授も語るが、それでも、

「すばらしい発見が論文として発表されて嬉しい」

 と表明する同社によれば、すでに人気だそうだ。

「一般の方から経済、スポーツ、芸能界等のだれでもご存じの方々まで、多数ご愛顧いただいています。ビジネスマンの方からは“疲れにくくなった”“疲労を感じなくなった”等の声をいただいています。女性は“ほかになにもしていないのに、化粧品替えた?と言われた”といった声が多いです。“運動能力が上がった”“代謝がよくなってやせた”“白髪が減って髪が増えた”という声もある」

 でも、一番多いのは、

「“早く価格を下げてほしい”というご意見です」

 抗加齢分野のさるウォッチャーによると、

「ホリエモンはこのサプリを、もっと安く提供するためのプロジェクトを自ら進めていると公言していますね。タレントのマイケル富岡は、自分の若さの秘訣は、NMNを愛用しているからだと言っています」

小太りのほうがいい

 さて、今井教授の近未来の構想だが、

「専門のクリニックを立ち上げ、性差や年齢を考慮しつつ、人それぞれのNADの量のコンサルティングと、NMN、eNAMPTの投与ができるようになれば理想的だと思っています」

 夢の若返りが実現する日が本当に訪れるなら、「老いを受け入れよ」という昭和的な達観に耳を傾ける人が、どれだけいるだろう。「若さ」という誘惑の前に超然としていられるほど、人間は強くはあるまい。

 だが、カネや手間はあまりかけたくない人のための情報も、今井教授は用意してくれていた。

「ある程度歳をとると、老化予防には小太りのほうがいい。BMIの理想値は男性22、女性21と言われてきましたが、実は男性は24〜26、女性は22〜23くらいが、統計的に老齢でも病気にかかりにくく、死亡率も低いのです。余分に脂肪がある分、eNAMPTの分泌量が増え、結果的に全身のNADが増え、視床下部の神経活動を支えてくれるからではないかと思います。また、NMNは枝豆やアボカド、トマトなど種や実のような野菜や果実によく含まれている。定期的に運動する習慣があるほうが、体内のNADの量が増えることもわかっています」

 もう一つ大事なのは、体内のリズムだという。

「体内のNADの合成量は昼間上がって夜下がる。このリズムに合った生活を送ることが、NADを保つために重要です。大事なのは、なにを食べるかより、いつ食べるか。NADの合成が行われているときによく食べ、少なくなってきたら食事も軽くする。私たち夫婦は、朝食で一般的な夕食並みにたっぷりと食べ、お昼はそこそこ、夕食は8時までに軽く食べ、その後は間食もしません」

 それができない人にとっては、やっぱり若返りは夢のまた夢、ということか。

「週刊新潮」2019年6月27日号 掲載