■超ハードな環境下でもラクラク快眠できる達人のコツ

自衛官・傭兵──アメリカ軍直伝の「すぐ眠りにつく方法」とは
●高部正樹(軍事評論家)

私は航空自衛隊を辞めた後、1988年から傭兵として約20年間、アフガニスタン、ミャンマー、ボスニア・ヘルツェゴビナの戦地で戦ってきました。300〜500メートル先、近いときは80メートル先で敵が銃を構えて待っている戦闘の最前線では、もちろんまともに寝ることはできません。93年にミャンマーのジャングルで1週間、敵に追われ、不眠不休で逃げ続けた経験もあります。

軍事評論家 高部正樹氏

疲れてくると歩きながらうつらうつらと寝ています。疲労がピークに達すると幻覚が見え始めます。前方の石が銃口を向けている敵の姿に、木と木が重なっていると木の陰に隠れている敵の姿に見えてくるのです。

前線で休憩するときは30分ほど、10人程度の仲間が輪になって全方位を警戒しながら茂みに身を隠し、木や岩に背中をもたせかけて体を休めます。銃は肩にかけたまま、銃弾や手榴弾を入れたベストやウエストポーチ、予備の銃弾や破壊工作のための爆薬などの入ったリュックも身に着けたままです。ベストは5〜6キログラム、リュックは10〜20キログラムくらいです。

どんなに疲れて眠りに落ちても風で草がカサッと鳴るだけですぐに目が覚めます。完全に寝ているのではなくまどろんでいる感じです。でも、眠っていたのがたとえ1分、2分と一瞬でも、目覚めたときは不思議なくらいぐっすり眠った感覚があるのです。

ミャンマーで戦っているとき仲間にアメリカ人がいて、アメリカ軍がベトナム戦争時代に研究したという眠りにつく方法を知ることができました。座ったまま足を投げ出し、手は前にだらんとたらし、首も前方にがくんと落とし、全身を脱力すると眠りにつきやすく、しかも自分がクラゲになって海にプカプカ浮かんでいるイメージを抱くと一層いいと聞きました。私も実践していました。

前線からさらに離れ自軍が支配する安全地帯に戻れば、ゆっくりと眠る時間が与えられます。それでもまだ体が警戒心を解かず、かえって目がさえてしまう場合があります。私がよくやっていた儀式が、甘いものを口に入れることです。チョコレートを一かけら食べるだけで緊張が緩みます。

アフガニスタンで初めて戦闘した際は「恐怖から逃れようと必死だった」。

水のシャワーを浴びるのもリラックスできる方法です。前線では水浴びができません。ジャングルや岩場を歩き回り、汗と泥や砂ぼこりで汚れた体を洗い流すと、脳が「ここは安全な場所だ」と判断し、眠くなってきます。また、女性の顔を見るときも緊張が解けます。女性がいるのは安全のシグナルです。それで、ここは安全だと確認するためだと言い訳し、よく女の子がいる店に行ったものです(笑)。

私が、傭兵をやめるきっかけも睡眠と関係しています。ジャングルの中を若い兵たちと何日も歩き回っていて、5〜6日たったとき、若い兵が足取りを緩めたり、少し先の丘で待っていたりと私に配慮しているのに気づいたのです。

自分では若いときのように一晩寝れば体力が100%戻ると思っていました。ところが90%しか戻っていなかった。ジャングルの中で木に寄り掛かって1、2分寝た後に、昔のようなスッキリ感がなくなってしまった。若い仲間の命を私のせいで危険にさらすわけにはいきません。そのとき引退を決意しました。

傭兵生活をやめ、すでに10年以上になります。今はいつでも枕を高くして眠ることができます。しかし傭兵時代の感覚がどこかに残っているようです。暗闇の中だと神経が張り詰めてしまい、何かカサッと音がするとすぐに目が覚めてしまいます。だから眠るときは部屋の明かりをつけたまま、テレビもつけっぱなしです。静けさが漂う暗闇はジャングルの中を思い起こしてしまいます。夜中でも煌々と明かりがともり、テレビから途切れなく音が流れる。そんな環境のほうが私にとってはリラックスして眠りにつけるのです。

▼こんなにハードだった!
・最前線では80メートル先で敵が銃を持ち、待ち構えていることも
・敵に追われ、1週間不眠不休で逃げ続けた
・休憩するときも30キロ近い装備を身に着けたまま
CA──海外での時差調整を可能にする秘策とは
●谷田部美穂

JAL、ANA、外資系などで制度や文化の違いはありますが、基本的に働き方が大きく変わることはありません。朝3時からのフライトのこともあれば、昼間の14時に始業のこともあり、生活は不規則になりがちです。大手の航空会社では、1〜2年国内線に乗務した後、国際線での勤務が始まります。

働き方が複雑になってくると、例えば15日間は自宅から空港に向かい、残りの半分はフライト先のホテルでの宿泊ということになる。ただでさえ不規則なのに、さらに慣れない海外、しかも時差がある中で睡眠を取ることになります。

谷田部美穂さん

また国際線では、12時間を超えるロングフライトもしばしば。そのときは、機内で3時間ほど仮眠を取ります。あまり知られていませんが、大型機には中2階にレストスペースがあります。2段ベッドが8床程度用意されていて、カプセルホテルのような閉鎖された空間になっています。

そんな空間で、短い中でどう快適な睡眠を取るか。毛布を2〜3枚使い、足先まで体をすっぽり覆った後、頭にも被ってしまう。私は枕にタオルを巻いて高さを調整したり、乾燥対策として、マスクに好きな香りのアロマを染み込ませて使ったりしていました。

また、体が疲れているときはあえて腹筋をしてみたり、脳が疲れていると思ったときはマッサージや深呼吸をしていました。反対に、夜間のフライト中でどうしても眠いときは、親指の指先を刺激したり、つねったり、カフェイン入りの飴を舐めたり。プラスチック製のツボ押しも使っていました。

海外での時差調整については職業柄、何か「秘策」があるのではとよく聞かれます。でも、残念ながら答えは「意志・意識」がすべて。いかに眠いときに我慢して眠らないか。例えば3時間しか寝られないのなら、その睡眠できる時間までを逆算して体を疲れさせて、休む体勢に持っていく。そうして「起きることを目的とした睡眠」をする。目覚まし時計は3つかけていましたが、「必ず1つ目で起きる!」と思って、2〜3個目は実際には使っていませんでした。

最後のフライトはイタリアのアリタリア航空。国内外の航空会社5社で勤務した。

早番、遅番とシフトが変わるタイミングや、時差調整のために、10〜15時間の寝だめをすることもあります。そのときは、「どう寝るかを目的にした睡眠」になる。ストレッチをしっかりやって寝たり、ヒーリングミュージックを聴いたりしていましたね。

CAで辛いのは、体力ももちろんですけど、一番はやはりストレス。誠心誠意サービスに安全に努めているのに、クレーム対応に追われるときもあります。そんなときに睡眠不足が重なると、余裕がなくなって、仕事もうまくいきません。

だからこそ、ストレスをためないための睡眠が大切なのです。

▼こんなにハードだった!
・国際線では、12時間を超えるロングフライトも
・朝3時からのフライトもあるなど、生活は不規則に
・月の半分はフライト先のホテルで宿泊する
刑事──一流の刑事は「眠気の取り方」が決定的に違う
●久保正行

捜査一課は殺人や強盗といった強行犯を扱います。人の命が関わる事件ですから、重大性、切迫性は高い。追跡や張り込み、犯罪事実を確認するときに、眠いなんて言い訳はできませんよね。実際に、私も立てこもり事件のときは3日間眠れなかった。寝ていても枕元には携帯電話。それが日常です。

なかでも、一課は刑事の中でもプロ中のプロ。酸いも甘いも知り、経験も体力も精神力も兼ね備えた人間たちです。自分自身をコントロールする術を持っていて、ある意味で自分の思い通りにことを進める「ずるさ」もある。そうでないと、自分の体をいたわれないですからね。

久保正行氏

私はよく、一流の刑事とは「現地調達」ができる刑事のことだと言っています。犯人のしっぽや事件のネタを入手できるのは、すべて現場。警察官だから、刑事だからと教えられるというよりは、実際の現場で学んでいくことですね。

睡眠法についてもそう。電車の中で寝たり、車で眠るのはしょっちゅう。張り込みでは、公園でダンボールを敷いて寝る刑事もいます。もちろん、日中は捜査本部で会議に出るのですが、夜は現場に出て「ホームレス生活」をする。

布団もないような環境で快適に寝るには、自分に合った毛布、枕を見つけること。新聞紙を何枚も巻いたり、木の板を挟んで硬さを調整したり、自分のやり方を見つける。私自身の睡眠法としては、食事してすぐは眠りづらいですから、2〜3時間後に、ホットミルクや白湯を飲むとぐっすり眠れた。

睡眠の環境を「現地調達」することも大事で、刑事は事件の現場を調べる「ジドリ(地取り)」をしますが、周辺の住民に「檀家」と呼ばれる協力者を得ることがあります。一生懸命捜査をしていると、ご飯や昼寝場所、シャワーなどの提供を申し出てくださる方がいるんです。

オウム真理教事件では5日間不眠不休でサリンの原料を押収、撤去した(写真中央)。(産経新聞社=写真)

眠気覚ましで言うと、3日間張り込みで眠れていなくても、15分の仮眠ではつらつとなります。体はうまくできていて、意識すれば15分で目が覚めるものです。これも先輩たちのやっていることを真似しただけ。長く寝ていると叱られましたから、厳しい現場で、自ずから身につけた。むしろ自分で睡眠法を習得するくらいのセンスがなければ刑事は務まりません。

大切な捜査の会議でどうしても眠たくなったら、突然立ち上がることもあります。士気に影響しますから、幹部は刑事を咎めることもありません。「恥を晒して」目を覚ます。それができる刑事は勇気がある。一流の刑事になりますよ。

自分自身の「眠い」兆候を把握するのも技術のうち。私の場合は、「ものを探す」ことが増える。手帳とかペンをよく探すようになったら自分は眠いんだと把握していましたね。

▼こんなにハードだった!
・立てこもり事件のときは3日間眠れず。携帯電話は常に枕元に
・ご飯や昼寝場所などを提供してくれる協力者も「現地調達」する
・張り込みでは、公園でダンボールを敷いて寝ることも

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高部正樹
軍事評論家
航空自衛隊で戦闘機パイロットとして訓練を積むも怪我が原因で除隊。アフガニスタンなどに傭兵として参戦した。
 

谷田部美穂
CAとして7社に内定し、ANA、JAL、アリタリア−イタリア航空など5社で計11年の乗務経験を持つ。
 

久保正行
第62代警視庁捜査第一課長。67年警視庁入庁。74年捜査第一課に異動、警視正までの全階級で同課に在籍。2008年3月勇退。
 

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(大下 明文、伊藤 達也 構成=大下明文、伊藤達也 撮影=尾関裕士、岡村智明 写真=産経新聞社)