2011年に経営破綻したアメリカ書店チェーン「ボーダーズ」。書店の生き残りの道はどこにあるのか(写真:Jeff Kowalsky/Bloomberg)

多くの人が実感しているだろうが、日本にある書店の数は、この20年ほどで半数以下に減った。かつては駅前や商店街に必ずといってよいほど存在していた「本屋さん」が、人々の生活空間から消えつつあるのだ。なぜ、これほど書店がなくなっているのか。今後、書店という業態はわれわれの前から姿を消してしまうのだろうか。

まず、書店が大幅に減少している背景には、単に本が売れなくなっているという要因だけではなく、日本独特の出版産業の構造がある。

書店調査会社のアルメディアによると、1990年代の終わりに2万3000店ほどあった書店は、2018年には1万2026店にまで減少した。さらに、この数字には売り場のない事務所や雑誌スタンドなども含まれているため、書籍をそれなりに販売している店舗としては、図書カードの端末機を設置している約8800店(日本図書普及の発表による)が実態に近い数字だと思われる。

雑誌が支えてきた出版流通

欧米先進国と日本の書店の最大の違いは、日本の書店は雑誌を多く販売してきたという点である。一般的に日本以外の国の書店は「書籍店(BookStore)」であり、雑誌はニューススタンドやドラッグストアなどで販売されてきた。書店店頭に毎日新しい雑誌が次々に並ぶという風景は、日本にしかないのだ。

それは書店の収益構造の違いとしても表れる。書籍の販売で得る利益で経営を支えている欧米の書店と違い、日本の書店、特に中小規模の書店は、雑誌の販売で利益を上げてきた。

この構造は、出版の流通を担う「取次」によって実現されてきた。日本には日本出版販売、トーハン、大阪屋栗田といった取次会社が存在し、これら総合取次と呼ばれる各社は、書籍と雑誌を両方流通させている。

年間7万タイトルの新商品(新刊)が発売され、代替性に乏しく、基本的に繰り返し購入のない書籍に比べて、大量生産が可能で、計画性のある雑誌のほうが効率がよいことは言うまでもない。

取次とは、その効率がよい雑誌で日本全国の書店やコンビニエンスストアなどへの配送網を作り、そこに書籍を載せることで成り立ってきた仕組みなのである。欧米で出版取次と呼ばれる業態(ホールセラー、ディストリビューター)は書籍専業の流通業者であり、雑誌と書籍の流通を組み合わせた取次システムは、日本にしか存在しないと思われる。

このように、雑誌流通が書籍流通を支える内部補助の構造によって、日本では書店に毎日、1冊から書籍を届ける流通体制が維持され、さらに書籍の流通費用を低く抑えることで、書籍の価格が諸外国に比べて極めて安く設定されてきた。ちなみに、書籍だけで成立させている先に挙げたアメリカやドイツでは、書籍の価格は日本に比べると1.5倍から2倍以上する感覚だ。

雑誌市場縮小が書店と取次に打撃

かつて、日本の出版市場は「雑高書低」と呼ばれていた。雑誌の販売額が書籍を大きく上回っていたためだ。

出版業界の売り上げがピークを迎えた1996年には書籍の販売金額1兆931億円に対して、雑誌の販売金額は1兆5633億円と1.5倍ほどの規模だった。効率のよい雑誌の売り上げが大きかった当時、出版業界の収益性は高く、それが書店の旺盛な出店の原動力にもなっていた。

しかし、その後、出版物の販売量は減少の一途をたどる。特に、雑誌はその頃拡大し始めていたインターネットや、携帯端末の普及に伴って急激に市場が縮小。2017年の雑誌の販売額は書籍の7152億円を下回り、6548億円と最盛期の3分の1ほどに縮小してしまった。

このことが、雑誌の収益に頼っていた中小書店の経営と、雑誌で巨大流通網を回してきた総合取次の経営を直撃した。

書店、とりわけ駅周辺や商店街にあった雑誌販売を中心とした従来型の「街の書店」が急速に姿を消した。今年2月、個性的な品ぞろえなどで多くのメディアから注目されつつ閉店した幸福書房(東京・渋谷区)も、雑誌と書籍の売上比率が逆転したことが、経営に大きな打撃を与えたという。

大手総合取次も日本出版販売とトーハンという上位2社や一部専門取次を除き、業界3位だった大阪屋(2014年に債務超過が発覚し楽天などが出資)、4位の栗田出版販売(2015年に民事再生手続きを開始し、大阪屋と経営統合)、5位の太洋社(2016年に自己破産)が次々と経営破綻するに至った。

雑誌の収益によって成立してきた取次システムと書店経営は、どだい書籍の収益で支えることはできない構造になっている。

総合取次各社は、書籍の販売比率が雑誌を超えると、ほぼ一様に出版流通事業が赤字に転落している。

経営統合で大阪屋栗田となる以前の大阪屋は、2000年代、アマゾンジャパンやジュンク堂書店との取引によって書籍売り上げが増加し、総合取次各社の中で唯一、総売上高も増収で推移した。それにもかかわらず、この間利益は減少を続け、結局、事実上の経営破綻に追い込まれた。

最大手の日本出版販売と2位のトーハンも、ここ数年で出版流通事業が赤字に転落したことを発表しており、日販の平林彰社長は、自身が入社した30年以上前から書籍部門は赤字だったことを明らかにしている。

再生のヒントはアメリカの独立系書店

書店も書籍だけで経営を維持することは不可能だ。大手取次各社が発表している取引先書店の経営指標に基づき、1坪あたりの在庫金額(雑誌を含む)や商品回転率、そして書店マージンを業界で一般的な22%として試算してみると、1坪あたりの年間粗利益額は23万7600円。仮に100坪の書店を営業すると、粗利益額は2376万円になる。

支出をみると、家賃を安く見積もって月坪1万円と設定すると1万円×100坪×12カ月で1200万円。アルバイトを5人、時給1000円で雇い毎日8時間働いてもらうとすると1年間の人件費は8時間×1000円×5人×365日=1460万円。つまり家賃と人件費で2600万円以上かかり、先の粗利益2376万円から経費2660万円を引くと、経営者の人件費や光熱費を引かない段階でマイナス284万円で赤字になる計算だ。

このままの取引構造では、日本では書籍をベースにした取次や書店は存在しえないのである。

では、書店という業態が、世の中から必要とされなくなっているのだろうか。実はアメリカでは、2009年以来、独立系と呼ばれる小規模書店の数が毎年増加している。そうした書店は書店員たちが独自の品ぞろえをし、カフェを備え、地域向けイベントに力を入れるなど、ネットでは味わえないような人々とのつながりを大切にしている。

ただ、日本と違ってアメリカでいまも独立系書店が開業し、成長するのを可能にしている最大の要因は、書籍の価格と粗利益率の高さにある。


ブルックリン地区にある独立系書店「グリーンライト・ブックストア」。開業以来成長を続けている(筆者撮影)

一例を挙げると、ニューヨーク市のブルックリン地区で2010年に50坪で開店した書店「グリーンライト・ブックストア」は、カフェや雑貨などはほとんどなく、ほぼ書籍の販売だけで営業しているが、開業以来成長を続け、2016年に同じブルックリンに2店舗目を開店した。

同店では客単価が28ドルと日本の2〜3倍、粗利益率は40〜50%とこちらもほぼ2倍で、経営者の話から計算すると年間の売上高は約2億円、粗利益額は約1億円に達する。

日本の書店の粗利益率は20〜25%程度なので、1億円の粗利を稼ぐとしたら年商5億円必要だが、書籍の平均価格1200円程度、商品回転率が年間2回転以下という日本で50坪の書店がこの売上金額をあげることは考えられない。


アメリカの独立系書店「グリーンライト・ブックストア」の店内。粗利益が40〜50%の書籍を販売することで経営が成り立っている(筆者撮影)

このように、アメリカの書店はもともと雑誌を扱っていなかったため、書籍だけで経営が成り立つ収益構造がある。このおかげで、アマゾンとの競争で大手書店が店舗を減らす中で、小規模な書店が新たに開業し、成長できるのである。

日本で、直ちにアメリカと同じ価格と利益の水準にすることは難しい。しかし、いくつか現実に粗利改善を果たしているケースはある。

ひとつはアマゾンジャパンだ。2017年に取次へのバックオーダー(取次非在庫品の発注)を取りやめるなど、同社は出版社との直接取引を拡大しているが、公表されている直接取引(e託販売)の条件は出版社の卸値率60%で、アマゾンの取り分は40%だ。

日本を代表する大手書店の紀伊國屋書店も、このところ一部出版社との間で「買い切り・直仕入れ」という新しい仕入れを拡大しているが、こちらも書店の取り分が40%というケースが報告されている。

配本制度の抜本的な見直しを

両社に共通しているのは「返品しない」ことだ。逆に言えば、返品をしなければ、直接取引で書店粗利40%を提供できる出版社はあるということでもある。

いま、日本の書籍返品率は30%台後半で推移している。返品率がこれほど高水準にあるのは、多くの出版物を書店の注文に基づかずに送る「配本制度」があるからだ。この仕組みを根本的に見直し、返品率を大幅に引き下げることができれば、日本でも人々を引きつける魅力を備えた書店なら、まだまだ開店・営業していくことが可能になる。

日本の書店が書籍の取引条件を改善し、これからの時代に対応した新業態に生まれ変われば、書店という業態自体はまだ十分に人々から求められる商売だといえるだろう。