変わり果てた「山水画」の世界に、中国の開発ラッシュの功罪を見た
1/17賀蘭山脈は、中国の乾燥した北部に位置する、寧夏回族自治区と内モンゴルとを隔てる不毛の山岳地帯だ。寧夏回族自治区は、中国の「西部大開発」計画の対象となっている地域のひとつだ。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
2/17蘭州市は拡大しており、周囲の山地が開発されている。山々をつなぐ橋も建設されている。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
3/17蘭州市の新たな造成地を通る、曲がりくねった道路。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
4/17甘粛省の省都である蘭州市の外れの風景。政府は蘭州市の拡大を進めている。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
5/17蘭州市の新しい住宅地区にそびえ立つ超高層ビル。中国中部にある甘粛省の省都である蘭州市は急速に拡大している。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
6/17中国語のタワー。甘粛省の山を貫通するトンネルを示している。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
7/17甘粛省蘭州市の新興地域を通る用水路。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
8/17蘭州市の旧市街と新興地域をつなぐ高速道路。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
9/17蘭州市南部付近の山腹にある、修復中の仏像の傍にそびえ立つクレーン。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
10/17蘭州市には、黄河が流れている。長江に続き、中国で2番目に長い川だ。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
11/17蘭州市を流れる黄河は、甘粛省の水の供給源となっている。開発により黄河は疲弊し、干上がった部分が生じている。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
12/17付近の山から見た蘭州市の風景。都市のスカイラインがスモッグで霞んでいるのがわかる。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
13/17蘭州市は、黄河が流れる険しい谷に位置する。かつては、シルクロードの重要な中継地だった。そうした状態を再現することを、中国政府は目指している。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
14/17黄河の土手で凧を揚げる地元民たち。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
15/17黄河の岸にある、蘭州市の公園。橋に立つ女性と2人の子ども。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
16/17寧夏回族自治区にある寺。背後には山々がそびえている。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 
17/17寧夏回族自治区の広い畑で、子どもと一緒に座る男性。PHOTOGRAPH BY SEBASTIEN TICIER AND RAPHAEL BOURELLY 山水画は、中国の起伏ある風景の美しさを描いた伝統的な中国美術の様式だ。13世紀のある詩人によると、古代の絵描きたちは筆と墨を持って丘陵へ赴き、「数千マイルも続く川や山々」をスケッチしたという。
現在、中国の起伏ある風景は急速に変化しており、いまでは「数千マイルも続く都市や道路」となっている。フランス人写真家のセバスチャン・ティキシエとラファエル・ブレリーは、皮肉がこめられたタイトルの写真集『Shan Shui（山水）』で、このように変化した風景を捉えている。ブルドーザーで整地された山々、迂回させられた水路、有害な炭じんに黒く覆われた空などの、途方もなく広大な風景だ。
この写真集は、巨大な都市膨張と中国の中核地域の形をつくり直すインフラ計画に対する、視覚的な手法による批評となっている。2000年以降、中国政府の「西部大開発」キャンペーンにより、何万マイルもの高速道路や線路、地方を蛇行して走るパイプラインなどが生み出されてきた。
甘粛省の場合は、同省の省都である蘭州市を500平方マイル（約1,295平方キロメートル）拡大することを目指して、数百の山々を切り崩して平らにし、すでに疲弊している黄河から水が引かれた。
新たに生まれた地域は、新しいシルクロードの「ダイヤモンド」になるとされている。新しいシルクロードは、9,000億ドル（約100兆円）の海上交通路網と古代のルートに沿った陸路で構成されるが、そうした陸路はさらに風景を切り刻むだろう。
一変した風景
ティキシエとブレリーは開発に関するニュース記事に注目し、16年に蘭州市や中国中部のその他の都市を訪れた。ふたりは1カ月にわたり、甘粛省から内モンゴルまでの300マイル（約483km）を、バスや自動車、列車で移動。ジオタグ付きのオンライン画像によってすでに目星を付けていた場所を撮影していった。そうして2台のマミヤ製中判カメラと三脚を使用し、ダンプカーやクレーンによって姿が一変してしまった、汚染された灰色の風景を記録していった。
彼らは強引に拡大していく開発を目撃したものの、中国文化において自然環境がこれまでと同様に重要な役割を担っていることも感じた。人々は黄河のそばで凧を揚げたり、神聖な山々へ巡礼の旅に出たりしていた。家庭にはいまでも、山水画が飾られている。
こうした状況は、すべての開発途上国が直面する困惑を示している。何世紀にもわたって人間のインスピレーションの源となってきた自然の美しさを破壊することなく、成長のためにいかに天然資源を使用していけるか、という課題だ。
