日本企業はかつてロスジェネの採用を渋ったせいで、現在、中堅世代の人材不足が深刻化している。特に30代以下は収入格差を痛感して「生まれた時代が違うだけで……」と考えてしまうだろう。『モチベーション3.0』などで、時代に先駆けて「10年後の現実」を書いてきたダニエル・ピンクは、最新刊『When 完璧なタイミングを科学する』(講談社)で時間生物学の知見からその疑問に答えている。訳者の勝間和代氏が「タイミング」の重要性を解説する――。

■大切なのは「何をするか」より「いつやるか」

林修さんの「いつやるか? 今でしょ!」がブームになったのはもう5年前ですが、まさしく、私たちはいつでも

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mykeyruna)

「いつ何をやるか」

という決断に迫られ続けています。

いつ結婚すればいいのか、いつ転職すればいいのか、いつ家を買えばいいのか、いつパソコンやスマホを買い換えればいいのか、いつ重要な決断をすればいいのか、いつトレーニングをすればいいのか、まさしく、日々の生活が「いつ○○すればいいのか」の連続です。

それにもかかわらず、世の中の多くの指南本は「何をすればいいのか」ということについて、常に私たちに指摘をしてきましたが、「いつ」すればいいのかということについてはほとんどノウハウを提供してくれていません。

ある意味、私たちの行動に対するさまざまなアドバイスというのは「何をすべき」という50%の要素しか捕捉してないということになります。しかし、ここでいつすべきという残る50%の要素が入れば、ぐっと私たちの人生の決断は正確になるし、簡単になるのです。

■生涯年収は就職の「タイミング」で決まる

イエール大学経営大学院のリサ・カーン教授の研究によれば、就職時期に不況か、好況かでなんと自分たちの生涯の年収が決まってしまうということも分かりました。

この「いつ就職するのか」というタイミングの影響が、生涯にわたる不公平をもたらす可能性があるのです。

また、私たちは中年期になると幸福度が下がり中だるみになりますが、これは生涯にわたって中間地点がたるむのと同じように、もっと短いスパンのさまざまなプロジェクトや試合も中間の辺りはだいたいみんなたるんでいます。

この中間時点のモチベーションをいかに高めるかということも、タイミングの科学としては考えなければいけないのです。

■生涯年収は就職の「タイミング」で決まる

さらに、「正月だから、これから○○しよう」と考えるのも日本だけではなく、世界共通のようです。ピンクはランドマーク効果と呼んでいますが、私たちは普段の生活でさまざまな区切りの日を意識し、そこからリスタートをしようとするのです。

ですので、三日坊主を恐れずに、そのようにリスタートをできるタイミングがあれば、どんどんした方がいいということになります。

これの逆がラストスパート効果でして、例えば私たちは29歳や39歳、49歳の時には「新しくフルマラソンに参加しよう」など、今しかできないと考えると、やる気になります。これはまさしく締め切りが私たちにやる気を与える効果と同じです。締め切り間際しか結局なかなかやる気が出ないのであれば、その締め切りを上手に使えばいい訳です。

これまで、いつやるかということについて、私たちは「何をやるのか」に比べると、ずっと低い優先順位で考えてきました。しかし、今後は「何をやるのか」よりは、「いつやるか」について、同等か、それ以上に高い優先順位で取り組む必要性があることを、ピンクは科学的エビデンスに基づいた強力な証拠とともに示唆しています。

■日本が中国に追い越された理由

現代において日本は中国に追い抜かれ、追い越されました。これは日本が中国より劣っているということではなく、正しくタイミングの問題として日本がすでに発展しすぎていたから、新しいものを取り入れることができなかったのです。

中国の最新都市の1つ、深センはほんの30年前まで人口の少ない漁業を中心とした地方都市でした。それが、わずかの間に人口が1500万人余りとなり、タブレットやスマホで有名なファーウェイや、ドローンの世界最大のシェアをもつDJIなど、著名な企業が立ち上がっています。

そして、何よりも深センではキャッシュレス化が進み、屋台や小さな商店を含めて、ほとんど誰も現金を使いません。それはまさしく、その都市が発展した「タイミング」がそのような文化と先進インフラ状況をもたらしたのです。

■日本がオリンピックに盛り上がらないワケ

ダニエル・ピンク(著)/勝間 和代(翻訳)『When 完璧なタイミングを科学する』(講談社)

2020年には東京オリンピックがやってきます。もうあと2年を切りました。

このタイミングで、なぜここまで日本がオリンピックに盛り上がっていないのか、それもまさしく

「日本がどのような発展のタイミングにあるか」

ということで説明が付くでしょう。

私たちはある意味、この本で指摘しているような「中だるみ」状態なのです。だからこそ、未来をもっと見つめてしっかりと連結をし、ランドマーク効果でも、あるいはエンド効果でもいいのですが、モチベーションを高めて「タイミング」を味方につけていく必要があるでしょう。

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勝間和代(かつま・かずよ)
経済評論家。1968年東京生まれ。中央大学ビジネススクール客員教授。慶應義塾大学商学部卒業、早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA。当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。現在、株式会社監査と分析取締役、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。
ダニエル・ピンク(Daniel H. Pink)
1964年生まれ。米国ノースウエスタン大学卒業後、イェール大学ロースクールで法学博士号取得。米上院議員の経済政策担当補佐官を務めた後、クリントン政権下でゴア副大統領の首席スピーチライターなどを務める。フリーエージェント宣言後、経済変革やビジネス戦略についての講義を行うかたわら、「ワシントン・ポスト」「ニューヨーク・タイムズ」などに寄稿。著書に、『ハイ・コンセプト』(三笠書房)、『モチベーション3.0』『人を動かす、新たな3原則』(ともに講談社)など。

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(経済評論家 勝間 和代 写真=iStock.com)