コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスは全国の自動販売機や小売店でコカ・コーラブランドの飲料を展開している。だが7月に豪雨に見舞われた同社は、苦境に立たされている(記者撮影)

例年にない猛暑が続いた今年の夏。道端の自動販売機で思わず冷たい飲み物を買い求めた人も少なくないだろう。炭酸飲料の代表格「コカ・コーラ」に、缶コーヒーの「ジョージア」、緑茶の「綾鷹」。知名度の高い数々の飲料ブランドを製造するのが、国内飲料メーカー首位のコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスだ。

だが同社は、今年6月末から7月初めにかけて山陽地方を中心に襲った記録的な集中豪雨によって、大きな損害を被った。

7月7日未明、広島県三原市を流れる沼田川の堤防が決壊し、氾濫。隣接するコカ・コーラの本郷工場と、中国地方の物流拠点である大型倉庫が浸水した。被害を受けた設備と製品の簿価は約90億円に達する。本郷工場は最大時には水が2.5mの高さまで入り込んだ。生産ラインの被害に加え、パレットと呼ばれる製品を乗せておく板状の台が濁流に流され、使い物にならなくなった。

主力製品の生産ラインがすべて操業停止

本郷工場は、コカ・コーラが全国17カ所に持つ自社工場のうちの1つ。製造能力は全体のおよそ5%を占め、コカ・コーラ、ジョージア、綾鷹など一連の主力商品を製造していた。この浸水によって工場にある3つのラインすべてが操業停止になった。


集中豪雨の被害が出たコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスの本郷工場。パレットが流れ出したり(左)、倉庫では製品が散乱した(右)(写真:コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス)

工場の具体的な稼働再開時期の見込みは立っていない。浸水した製造ラインは修理だけでは済まず、新たに丸ごと導入しなければならない可能性もあり、「相当な期間、操業を停止することになる」(会社側)。

物流倉庫でも、夏場の最盛期に向けて保管していた多くのペットボトル飲料の完成品が流されて散乱した。一部被害が少なかった製品もあったが、ほとんどは廃棄せざるをえなくなった。

被害を受けた物流倉庫は地域の中核拠点となる大型の自動倉庫だった。この倉庫は本来、工場からの完成品の搬入、製品の積み上げといった一連の作業が自動化されていたが、現在は搬入・搬出がすべて手作業で行われている。自動倉庫機能の完全復旧は最短でも年末になる見込みだ。

現在はこの倉庫に、京都工場や佐賀県の鳥栖工場で製造された製品を搬入し、工場の操業停止の影響をカバーしようとしている。だが平時は必要のない他工場から本郷工場への輸送を行うため、トラックが追加で必要になった。

影響は中国地方だけにとどまらない

このことがコカ・コーラの事業全体に影響を及ぼしている。製造と配送の能力が共に逼迫。直接被害のあった中国地方だけではなく、全国のスーパーマーケットなどの小売店に対して、自社製品をチラシなどの広告に掲載するのを中止するよう異例の要請をしている。販売数量への悪影響は避けられない。


コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスの吉松民雄社長は2018年12月期中間決算会見で、「業績への影響は大きいが、着実に復旧を目指していく」と説明した(記者撮影)

コカ・コーラは被災の影響を測るのが困難だとして、2018年12月期の業績予想を「未定」に変更した。11月の第3四半期決算発表時までには開示するとしているが、「今後も製品供給の制約が続く」(会社側)としており、見通しは不透明だ。

くしくも、夏場の猛暑で飲料需要が急増しているタイミングでの被災だった。ただでさえトラックドライバー不足で物流能力が逼迫している状況の中、余波はほかの飲料メーカーにも広がってきた。

飲料業界ではここ数年、配送トラックの不足や物流費の上昇を背景に、鉄道コンテナで輸送を代替するモーダルシフト(輸送手段の転換)を進めてきた。今年4月には、大手ビールメーカー4社(アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ)が、関西・中国から九州への共同モーダルシフトを開始。各グループ会社の飲料メーカーも、そこに相乗りしている。コカ・コーラも物流企業のセンコーなどと組み、2014年から同区間でのモーダルシフトを進めてきた。

だが7月の豪雨によって、JR山陽本線の一部区間が不通になった。8月末からは倉敷から伯備線、山陰本線、山口線を経由して新山口に抜ける迂回ルートでの輸送も行われているが、運転本数が少なく、輸送力は依然不足している。

結局トラック不足がボトルネックに

そのため、トラックでの配送を余儀なくされるという“逆回転”が起こっている。そこにコカ・コーラの工場間輸送も加わり、「配送トラックの奪い合いになっている」(飲料メーカー関係者)状況だ。


東京都内の自動販売機でも商品の遅配の可能性を伝える張り紙が掲示されている(記者撮影)

西日本でトラックがかき集められていることによって、「関東でも配送トラックの数が足りなくなっている」(サッポロホールディングス)。実際に、都内にある飲料メーカー各社の自動販売機の一部では、豪雨や猛暑の影響で商品提供が滞っている旨を説明する張り紙の掲示が9月に入った今も続いている。

配送トラックの慢性的な不足という問題に、猛暑や豪雨などの異常気象というダブルパンチが飲料メーカーを襲った。今回のコカ・コーラの被災は他社にとってもひとごとではない。こうした予期できない状況にどう対応していくのか、飲料メーカーは難しい問題に直面している。