サークルKサンクスからファミリーマートに変わった店舗(世田谷区若林一丁目店/編集部撮影)

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今年4月、伊藤忠商事がユニー・ファミリーマートHDを子会社化すると発表した。7月から株式公開買い付けを実施している。その狙いはどこにあるのか。UBS証券の守屋のぞみアナリストは、「子会社化の決定を聞いたときは驚いた。3つの新しい事業展開の狙いがあるようだが、既存のコンビニ事業という観点では、両社に大きな相乗効果が生まれるとは思えない」と分析する――。

■持分法適用会社の範囲で十分と考えていた

伊藤忠商事は4月、これまで持分法適用会社だったユニー・ファミリーマートホールディングス(以下、ファミマ)を子会社化することを発表。7月17日から株式公開買い付け(TOB)を実施している。期間は8月16日まで。上限は1200億円分で、出資比率を現行の約41.5%から50.1%に引き上げる。

伊藤忠がファミマを子会社化するという決定を聞いたときは驚いた。以前、伊藤忠の経営陣は「コンビニという、現場が臨機応変に動いて対応するべき事業では、下手に商社が関わるとマイナスに働く恐れがある」といった趣旨の発言をしており、ファミマとの連携を深めていくとしても、持分法適用会社でできる範囲で十分だと考えていた。

それでも、1200億円もかけてわざわざ子会社化したのは、eコマースの取り組み強化、金融プラットフォームの構築、そしてそれらを統合した「次世代コンビニ」を見据えた、新しい事業展開という大きく3つの狙いがあるようだ。

■全国津々浦々の物流網を活用したい

コンビニの強みの一つは、日本全国津々浦々に張り巡らされた物流網だ。eコマースの分野では、新鮮さが求められる生鮮食品が遅れているが、「Amazonフレッシュ」などの新しいサービスも始まっており、これからより広がっていくことが予想される。そこで商機を見いだすために、どうしても必要なのが生鮮食品を保管、管理する倉庫だ。コンビニはその「物流拠点」としての機能を持つことができる可能性を秘めている。

もちろん、現状の体制で生鮮食品を含めた物流、宅配を全面的にコンビニで担おうとすれば、スペースの不足やスタッフの負担などさまざまな問題がある。しかし、これからテクノロジーによる自動化やAIなどの代替が進めば、そういった課題はクリアされていくだろう。一部では移動型コンビニなどの「次世代コンビニ」に向けた動きや各社の思惑があり、その中でファミマがキープレイヤーの一角となることは間違いない。今すぐどうこうというわけではないだろうが、伊藤忠は将来を見据えてファミマとの連携強化、一体化に踏み切ったのではないか。

さらに、コンビニにはもう一つ“宝の山”がある。圧倒的な数の顧客接点があることから得られる、顧客の消費行動などのビッグデータだ。ファミマはこれまでカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が手掛ける「Tポイント」と連携してきたが、貴重な情報を外部に出してしまっていること、またそれゆえのデータの使い勝手の悪さや利用料の支払いなどの問題があった。

伊藤忠は子会社化を機に、CCCとの契約見直しも検討していると見られる。政府は2025年までにキャッシュレス比率を40%に上げ、さらに80%を目指すという目標を掲げている。この流れの中で、現状のポイントカードを廃止、スマホアプリへと代替し、キャッシュレス決済機能を高めていく狙いもあるのではないか。こうした、ビッグデータと絡めた金融プラットフォームの構築を目指して動いていくだろう。

一方で、既存のコンビニ事業という観点で見たとき、この子会社化によって両社に大きなメリットや相乗効果が生まれるとは思えない。商品の仕入れなどが親会社である伊藤忠に偏るようなことが起きれば、ほかの取引先から距離を置かれることも起こりえる。もし仕入れ先が限定されるようなことがあれば、それは商品力の低下にもつながりかねない。事実、一足先に三菱商事の子会社となったローソンも、その後業績が向上したような側面は見られない。コンビニという業態において、商品戦略の自由度が下がるリスクを招く行為は、決してプラスとはみなされないのだ。

■日販ではいまだセブンに追いつけず

コンビニ事業でメリットとして挙げられる部分があるとするなら、海外戦略は考えられる。コンビニにとって、原材料調達は経営を考えるうえで重要なポイントだ。また店舗の拡大といった面でも、ここ数年はサークルKサンクスの店舗をファミマに転換させていくことなどで忙殺され、海外展開に人材を割く余裕はなかった。原材料調達はまさに商社の得意とするところであり、海外戦略でも伊藤忠のノウハウやネットワークを活かせるのであれば、これはファミマにとって大きなサポートとなるだろう。

2016年にサークルKサンクスと合併したことにより、店舗数は約2万店のセブン−イレブンに迫る、約1万7000店という規模にまで拡大した。しかし日販では1店舗あたり平均65万円といわれるセブンに対し、ファミマは52万円程度と見られている。まだまだ大きな差があると言わざるを得ない。

伊藤忠は、既存のコンビニ事業については海外展開でサポートする程度にとどめ、現場には余計な口出しをするべきではないだろう。今回の子会社化は、あくまで将来を見据えた、長期戦略にのっとって行われたもの。成功かどうかの可否は、10年後20年後を見てみなければ判断できなさそうだ。

(UBS証券アナリスト 守屋 のぞみ 構成=衣谷 康)