重量とコストを考えると軽自動車のメリットを損なう

 軽自動車規格の変遷において、ディーゼルエンジンではいけないという記載はない。だが、直噴ターボディーゼルが誕生するまでのディーゼルエンジンは、大排気量で、低回転で大きな力を出し、なおかつ低回転域を常用するうえで効率の良いエンジンとされてきた。このため、まず産業用の定置型や船舶などで使われ、のちに鉄道や貨物自動車で使われてきた歴史がある。

 日本の軽自動車史を振り返ると、スバル360は、中島飛行機を母体とする富士重工業で開発され、中島飛行機での技術や知見がさまざまに活かされたはずだ。ディーゼルエンジンの歴史を振り返っても航空機用エンジンには当初向かなかったとの史実があり、スバル360もおのずとガソリンエンジンになったのだろう。

 ホンダN360でいえば、本田宗一郎は旧陸軍の放出エンジンを活用して原動機付自転車を開発した経緯があり、その無線機用発電エンジンはガソリンであったはずだ。そもそも手元にあった技術が、ガソリンエンジンであったということができる。

 1950〜60年代に花開く初期の軽自動車は車体が今日よりはるかに小さく、それに搭載されるエンジンは小型軽量で高出力であることが求められた。ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べ高圧縮で熱効率に優れるが、その分、ガソリンエンジンに比べ頑丈で重たくなる。このことは、軽自動車の小型軽量には不向きだ。

 軽自動車の初期のエンジンは、2ストロークが多かった(ホンダは当初から4ストロークを選んだ)。それは、2ストロークのほうが機構は簡素で、部品点数が少ないことから小型軽量に作れるためであった。それでいて、高回転で回せば高出力が得られる。あらゆる側面から、ガソリンの2ストロークエンジンが軽自動車にとって最適であったと言える。

 今日、燃費向上とともに排ガス規制も厳しい時代に、もし軽自動車にディーゼルエンジンを採用したら、熱効率の点では確かにガソリンに比べ優れるかもしれない。だが、エンジンが重くなることはもちろん、排気浄化のため尿素SCR(選択触媒還元)などの後処理装置を搭載しなければならず、原価に厳しい軽自動車の負担になっていくだろう。

 現在、リチウムイオンバッテリーの原価がなお高い状況にはあるが、いずれ価格が下がっていけば、軽自動車にこそ電気自動車(EV)が最適と考える。実際、軽乗用車は日常の足として利用されることが多く、軽商用においても短距離での配送や運搬が主体であろう。一充電走行距離が100kmでも、100万円で手に入る軽EVがあったらどうだろう。家庭で充電できる「100km100万円軽EV」の誕生を心待ちしている。