「豪華シート」「座席コンセント」「通路カーテン」など、高速バスのサービスは日々進化し続けていますが、一方で、いまではあまり見かけなくなったサービスも。調べていくと、時代の変遷とともに、古き良き時代の高速バスの姿が見えてきます。

多くの高速バスで提供されていた飲み物サービスはいま…?

 高速バスのサービスは日々進化し続けています。いまでは、全席個室も含めた豪華シートを備えたり、電子機器の利用を想定して各座席にコンセントを設けたりする例、また、個室でなくとも、座席を仕切りプライバシーを重視する「通路カーテン」を備えた車両も増えてきました。


東京〜福岡間の西鉄「はかた号」。1990年代の車両には「サロン席」が設けられていた(須田浩司撮影)。

 一方で、いまではあまり見かけなくなったサービスも存在します。「そういえば昔、あったよね」という高速バスのサービス、どのようなものがあるのでしょうか。

バブル期に見られた「飲み物サービス」、継続している事業者も

 1980年代後半から1990年代前半の「バブル期」に開設された多くの高速バスでは、水やコーヒー、お茶といった飲み物類が提供されていました。車内中央部や最後部に給湯・給水設備を設置し、セルフサービスで提供する方法が一般的でしたが、車内最前部やトイレ上部に冷蔵庫を置き、市販のジュース類を無料で提供する例(西日本鉄道、阪急バス、近鉄バスなど)や、自動販売機を設置して有料で提供する例(ジェイアールバス関東、東急バスなど)も。なかには、飛行機の機内サービスのように、交代乗務員やガイドが手渡しで飲み物を提供する例(西武バス「関越高速バス」、宗谷バス「わっかない号」など)もありました。

 しかしながら、ペットボトルの普及などで利用者が減少。さらに衛生上の理由やコスト削減などの目的で、2000年ごろから飲み物サービスを廃止するバス会社が急増します。現在は数えるほどにまで減ってしまいましたが、給湯・給水設備によるサービスは小田急シティバスや両備ホールディングス、下津井電鉄などで、パック式または缶タイプのお茶やジュース類を無料提供するサービスは、西鉄や近鉄バス、伊予鉄バスなどで、それぞれ継続しています。名鉄バスのように、給湯・給水設備による飲み物サービスから、パック式のお茶を無料提供するサービスに切り替えたバス会社もあります。

あの「エンタメ設備」はどこへ

 車内の時間を楽しむ設備も、時代とともに変わっていきました。

著作権料も影響? 「ビデオ放映と音楽サービス」

 こちらも、「バブル期」に開設された多くの高速バスで採用されていたサービスのひとつでないでしょうか。各座席にはチャンネルの選択と音量が調整できるマルチステレオコントローラが設置されており、乗客はこのコントローラでチャンネルと音量を設定し、ビデオ(DVD)放映や音楽を楽しみます。マルチステレオコントローラでは、ビデオ音声、ラジオ音声、音楽チャンネルのいずれかを選ぶことができ、音楽はポップス、洋楽、クラッシックなど、4〜6チャンネルのなかからひとつ選ぶことができます。

 乗客への娯楽サービスのひとつとして提供されていましたが、携帯式音楽プレーヤーやスマートフォンの普及で利用者が減少していきます。さらに、著作権料の支払いなどでコストがかかることから、車両更新時にサービスを廃止するバス会社が急増しました。


道北バス「流氷もんべつ号」では車内でテレビを放送している(須田浩司撮影)。

 唯一例外なのが北海道です。北海道は長距離を昼間に走る都市間路線が多く、利用客の要望も多いことから、現在でも多くの路線でビデオ放映とテレビ・ラジオ放送サービスを実施しています。ただし、音楽サービスはほとんどの路線で廃止されてしまいました。

携帯電話の普及とサービス終了で消滅「車内公衆電話」

 昔から高速バスを利用している方は、もしかするとこのサービスを一番よく利用していたのではないでしょうか。今日の高速バスは「車内での通話はお控えください」というアナウンスが当たり前になっていますが、昔は車内に公衆電話が設置されていて、家族や知人などに連絡を取っている光景がよく見られたものです。

 バス車内の公衆電話は、NTTが自動車電話サービスを公衆向けに提供していたもので、100円硬貨式とテレホンカード専用式の2タイプがありました。硬貨(またはテレホンカード)を挿入する機器と乗客用の受話器は、車内中央部のトイレ付近または車内最後部に設置。ほかに運転席にも受話器があって、多くは業務兼用としていました。通話料は、街中の公衆電話より高めに設定されていたこともあり、テレホンカードの度数の減り具合も早かったことを記憶しています。

 バス遅延時の家族などへの連絡やタクシーの手配などにも重宝されていましたが、携帯電話の普及により利用者は減少。さらに、NTTドコモが2012(平成24)年に自動車電話のサービス提供を終了したこともあり、現在は見かけなくなりました。

車内でタバコが吸えた!

「サロン席」は、現在でも多くの観光バスで採用されていますが、かつては高速バスでも見られました。

高速バスのサロン席は「気分転換の場」「喫煙スペース」

 観光バスのサロン席は、テーブルを囲むような形で座席が配置されており、ここで仲間同士が語らいながら一杯…というのは、いまでもよく見られる光景です。一方、高速バスのサロン席は、どちらかといえば「乗客自身の気分転換の場」「喫煙スペース」として活用されていました。

 本格的なサロン席を採用した高速バスとして最初に注目されたのは、日本急行バス(当時)が「名神ハイウェイバス」に投入した「サロン特急」でした。後部8席がコの字状のソファー風なサロン席となっており、乗客のためのフリースペースとして開放されていました。無料の給茶設備も設置され、緑茶・紅茶・珈琲が提供されていたほか、京都銘菓の「八ツ橋」(ただし生八ツ橋ではない)が食べ放題で用意され、乗客からは好評を得ていました。

 1988(昭和63)年、富士重工業(現・スバル)が企画し、ボルボ社からセンターアンダーフロアエンジンシャシーを輸入し車体を架装したバス「アステローペ」では、車体後部が2階建て構造になっており、この1階部分を「サロンルーム」として活用できるのが特長でした。山形の庄内交通や秋田の羽後交通、ジェイアールバス関東などは、この点に注目して「アステローペ」を夜行高速バスに投入し、1階部分をサロン席として開放。やはり「気分転換の場」「喫煙スペース」として自由に出入りできたことから、乗客からは好評を得ていました。


かつての「はかた号」では、車内後部に2席分のサロンスペースが設けられていた(須田浩司撮影)。

 その後、運行距離が1000kmを超える「はかた号」(京王電鉄/西日本鉄道。京王はのちに撤退)や「ドリームふくふく号」(ジェイアールバス関東/サンデン交通)でもサロン席を採用し、フリースペースとして重宝されました。特に「ドリームふくふく号」に導入された車両は、日本初のサロン付き2階建て夜行高速バスとして一躍注目を集めたものです。

 しかしながら、やがてサロン席の利用状況は低下し、健康増進法の制定で車内は完全禁煙化されていきます。さらに、道路交通法改正による乗客のシートベルト着用義務化、道路運送車両の保安基準の改正などの理由で、サロン席を有する高速バス車両の製造自体が難しくなったことから、現在はすっかり見かけなくなりました。

【番外編】到着まで降りることができない「拘束バス」

 こちらは、むしろ「無くなってうれしいサービス」かもしれません。「拘束バス」と書きましたが、決して誤字ではなく、読んで字のごとく「乗車後、目的地到着まで下車できない高速バス」のことを指します。途中のサービスエリアなどで何度か停車はしますが、乗務員交代や車両点検のための停車であり、乗客はいっさい下車することができません。

 じつは、バブル期に新設された夜行高速バスの多くは、この「拘束バス」でした。東京〜大阪間など、所要時間が6〜8時間程度の夜行路線が主でしたが、なかには所要6〜7時間の昼行路線や、12時間を超える路線でも「拘束バス」が存在していました。

 理由は、車内にトイレが装備されていることや、消灯後できるだけ起こしたくないという乗客への配慮、サービスエリアでの事故防止や乗り違いの防止、乗務員の負担軽減など、さまざまです。現在でも所要時間が短い夜行高速路線を中心に開放休憩(乗客が車外に出られる休憩)を行わない高速バスは存在しますが、トイレ無しの高速バスが増えたこと、さらには乗客からの要望でこれまで開放休憩を行っていないかった路線がこれを行うようになってきたことなどから、数として「拘束バス」は減少傾向にあります。


奈良交通「やまと号」福岡線。約10時間の乗車で開放休憩がなかった。2000年廃止(須田浩司撮影)。

 以上、「そういえば昔、あったよね」という高速バスのサービスのなかから、おもなものを紹介しましたが、装備品やサービスを細かく見ていくと、「そういえば昔、あったよね」というものがまだまだ出てくるかもしれませんね。