時代とともに「ランドセル事情」は変化しいてる(写真:Greyscale/PIXTA)

「ラン活」という言葉をご存じだろうか。「ランドセル活動」の略で、小学校入学を控えたわが子のために、ランドセルを用意する活動を意味する。SNSで2、3年くらい前から使われはじめた。

この「ラン活」が1年で最も盛んになるのは、意外なことに夏。 10年前は年明け1〜3月にピークを迎えていたが、昨年は7月の購入が最も多く、購入時期が早期化している。


なお、上の図では月別支出金額の軸が0〜250円となっている。これは調査対象が「2人以上の世帯」であり、小学校に入学する子を持たない世帯も対象に含まれるため、平均額は低くなっているからだ。月ごとの傾向を読み解くための参考としてお考えいただきたい。

さらに早期化するラン活

今年はというと、さらに早期化している。小売り大手・イトーヨーカドーでは4月から「超早期承り特典」を実施。ほぼ通年でランドセル売場が設置されていることになる。4月に新入生が真新しいランドセルを背負って小学校に通いはじめた時から、翌年のランドセル商戦はスタートしているのだ。

「ラン活」が早期化している理由は2つある。1つ目は、人気ある有名メーカーのものが売り切れる前に買いたいという焦りだ。ランドセルメーカーは、同じものを大量に作るのではなく、1種類の生産量を少なくして価値を上げる多品種少量生産スタイルを採用しているところが多い。これにより、顧客は「売り切れてしまうのではないか」という心理を持ちやすくなっている。

店側も、小学生1人につき1回しかないランドセルの買い物を他の店で済まされないために、特典や割引きをつけ顧客獲得に余念がない。

2つ目の理由は、ランドセル代を出すのは「祖父母」であるケースが多いからだ。マーケティング用語に「6ポケット」という言葉があるが、これは「子供には、その両親2人と祖父母4人、合計6人のポケット(財布、転じてお金の出どころ)があることを指す。とりわけ家計に余裕がある祖父母から孫には高額な商品が買い与えられがちだ。

夏休みの帰省時には、親子3世代が勢ぞろいする絶好の機会でもあり、祖父母にとって可愛い孫に6年間も長く使ってもらえるランドセルは、まさに最適なプレゼント商品なのだ。ランドセルの支払いをするのは、祖父母が60%にも及ぶとデータにも表れている。


日本のランドセルは明治20年(1887年)、皇太子(後の大正天皇)の学習院入学を祝して、時の総理、伊藤博文が特別に背嚢(はいのう:軍人が背負うカバン)を献上したのが原型といわれている。それだけ、入学祝いで年長者からの贈り物に好ましいといえよう。語源としては、オランダ語で背嚢がランセルであり、そこからランドセルという言葉が生まれた。

なお、2014年〜2016年度の3年間では、月別平均購入金額が1年で2番目に高いのは10月となっている。これは、10月第3日曜日が「孫の日」であることが関係しているのだろう。

ランドセルの気になる予算は?

少子高齢化で、子ども1人にかける金額が高額になってきているといわれる。30年前の1988年のランドセル平均購入金額は25,000円だったが、現在は51,300 円に上昇(出所:ランドセル工業会「購入金額平均全体」)。30年で2倍以上になっており、祖父母世代は、わが子の時代の相場との差に驚くことになる。


購入者の7割以上が4万円以上のランドセルを購入していることがわかる。ニトリでは最も安いシリーズ「NEWSTAR わんぱく組」が2万9900円(税込)となっているが、こうしたリーズナブルなランドセルを選択する家庭は5人に1人程度ということになる。

例年、売場展開などのお手伝いをしているが、いつも目にする光景がある。

1つは、欲しいランドセルを巡る「子v.s.保護者」の攻防だ。支払いは祖父母でも、ランドセルを選ぶのはお子さん本人である場合が多い。そのため、売場で安い商品を薦める両親や祖父母、でも価格のことは気にせず高いランドセルを欲しがるお子さんとのバトルがしばしば見られる。なお、サイズではA4フラットサイズが70%を占めている。これは学校での配布資料がA4判であることが多くなったからだ。

もう1つは、選ぶ色のジュネレーション・ギャップだ。「本当に、この色でいいの?」と親に言い聞かせられている子どもたちが、いかに多いことか。祖父母と親の世代では、男子は黒、女子は赤が定番で、それ以外はほとんど見られなかった。それがいまでは、男子は黒が多いがそれでも他色が30%を占め、女子では1位は桃色(ピンク、ローズ)だ。親子のジェネレーション・ギャップがおこっている。


売場スタッフへのアドバイス

こうした世代間の意識のずれを解消するためには、ランドセル売場からメッセージを発信する必要があるだろう。

まず、売場のPOP広告(売場に掲示されている販売促進の広告)を工夫して欲しい。購入金額の平均単価、購入したランドセルの色などの情報は、ぜひとも陳列棚に貼りだして、売場から伝えるべきだ。

また、陳列棚が3段になっている場合は、大人から見れば一番上段が目につくゾーンになる。しかし、入学前5歳の平均身長は約110cm(出所:文部科学省「平成29年度学校保健統計調査」)なので、真ん中の2段目に人気商品を配列すべきだ。

そして、陳列棚に直にランドセルを置くのではなく、高級品を大切に扱っていることがわかるように、サテン布の上に陳列すると良いだろう。さらに言えば、スタッフが取り扱う際には、白い手袋をしてお子さんに試してもらいスタンド・ミラーで確認、お声がけも目線にあわせて中腰になるなど接客にも配慮するとなおよいだろう。こうすることで、一度しかないランドセル購入という機会を特別なものにできるのではないだろうか。

その場で購入を決められないときもある。そのため、同じ売場に戻ってもらうために、顔写真入りの名刺を準備、その名刺はお子さんが読めるように平仮名書きにしておく。裏面は通常の名刺タイプで、両親や祖父母に1枚ずつ渡すようにする。あくまでも、お子さんが一番の重要顧客だから、最初にお渡しすべきだろう。こうすれば、顔を覚えてもらい再来店を促すきっかけづくりになる。

お子さんの好きな色や迷った品番、会話のポイント(質問の回答など)を書き出したカルテとなるメッセージ・カード(連絡先や次回の予定なども掲載)を、別に準備するのもいいだろう。

ランドセルを購入する際の不安を解消して、気分よく購入してもらいたい。満足度の高いスタッフがいることで、顧客の立場に寄り添った親和性の高い購買体験がショー・ルーミング(実店舗をショールーム代わりに利用し、そこでは購入せずネット通販で安く購入すること)の防止策になる。

今年も夏を向かえ、ラン活のピ-ク時期が到来する。ぜひとも、6年間、子どもの学業に伴う大切な唯一のランドセルを、家族総出で楽しんで購入してもらいたい。