鈴木琢也さん

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グロービス経営大学院職員の鈴木琢也さん(32歳)は、筋金入りの「元ヤンキー」だ。神奈川で「最低レベル」の県立高校を卒業後、とび職になったが、勉強しようと一念発起。米国の名門校カリフォルニア大学バークレー校に合格し、見事なキャリアチェンジを果たした。なぜ鈴木さんは人生を変えることができたのか。「ヤンキー式勉強法」のコツとはなにか。「プレジデント」(2018年7月2日号)の特集「あなたは今、何を学ぶべきか」より、記事の一部をお届けしよう――。

高校を出てとび職に就いていた頃、外資系生保の営業だった父が仕事で表彰されたんです。散々反抗し、毛嫌いしていた父が、ハワイで開かれた表彰式で周囲から尊敬の念を抱かれている。僕がグレていた頃の両親の苦労と努力をそこで初めて知り、「やりたいこと」のない当時の自分に気づいて愕然としました。

勉強し直そう、そして転職しよう。そう意気込んではみたものの、漢字を知らなくて新聞も読めない。辞書を買っても、漢字が読めずに引けない。結局、電子辞書の部首検索で何とか本や新聞を読めるようになったのが、僕としては革命的でした。

とび職を辞めて専門学校で漢字と四則計算を勉強し直し、情報処理の資格を取ってIT企業へ再就職。その後、米国留学を決意しました。せっかくだから“てっぺん”を目指そうと、目標はUCバークレー校。父は呆れてましたが、資金面も含めて応援してくれました。米国留学にはTOEFL100点以上が条件。勉強の中でも特に英語が嫌いでした。黄色のマーカーを引けとか、単語は例文を読んで覚えろとか父はアドバイスしてくれましたが、役に立ちません。自分のレベルが低すぎたんです。丸っきり勉強してこなかったんだから、当然です。基礎の基礎から身につけるため、中学レベルから勉強を始めました。恥ずかしがってなんかいられません。渡米一週間前に「somethingってどーゆー意味だっけ」と父に聞いて唖然とされましたけど。

■「逆カレンダー」で、無駄な時間が一目瞭然

カリフォルニア州には2年制の大学(コミカレ)で必要な成績を取得すれば、UCバークレーのような4年制大学に編入できる仕組みがある。鈴木さんは英語力アップのため、まず現地の語学学校に入学する。

留学時の英語レベルは最低。語彙力も低いし、文法も滅茶苦茶で、周りの人が何を言っているのかわかりません。とにかく必死で単語を覚え、例文を読みまくり、何とか第一関門のコミカレへの編入をクリアしました。勉強法は自分で工夫して編み出しました。一日14時間以上を勉強に充てましたが、予定通りにいきません。思いついたのが、授業と就寝時間を先に書き、一日の行動後に、時間をどう使ったか記入する「逆カレンダー」です。過去の出来事をグーグルカレンダーに記録し、色分けして「見える化」しました。すると無駄な時間が一目瞭然。自分の行動を把握し、生活と学習時間をチューニングするのにとても役立ちました。

加えて、覚えたことは20分後に42%忘れ、1日経てば74%忘れる、という「忘却曲線」の図をネットで発見。時間を置いて記憶を呼び起こすのが効果的だと気づき、1ページ覚えて20分後、1時間後に復習する暗記法を続けました。

リスニングは、ポッドキャストでABCニュースを聞いて早口のアナウンサーのしゃべりを真似て練習。ネットの動画TED(アイデアの拡散と共有をテーマにしたスピーチフォーラム)で字幕を見ながら音読したり、使えそうなフレーズを覚えて使ったりしました。ライティングは、バークレーの現役学生が家庭教師になって添削してくれました。1年半くらい経つとネーティブの話が理解できて、彼らと交流できるようになりました。彼らは何でも「Why?」と聞いてくるし、こちらも「Because」で答えなきゃなりません。随分と鍛えられました。

■できる人は、学力より学ぼうとする力を持つ

「売られたケンカから逃げるの厳禁」等々、先輩のムチャぶりに絶対服従だったヤンキー時代の経験が“恥”の観念を変えた。

普通なら英語のレベルが上がってから留学を考えますよね。自分はヤンキー時代から何事も気合で突破してきましたから、恥ずかしい気持ちが薄かったのでしょうね。「どうせ俺はバカだから」という開き直りがあったので超低レベルでも平気でした。だからできる人に聞くっていうのも全然恥ずかしくありませんでした。むしろ手っ取り早くて効果的なんですよね。

短期留学で英語を学びにきた慶応卒の日本人に貰ったアドバイスは、「もしも自分が教壇に立ったら、後でどうやって説明するかを意識しながら授業を聞く」。最初はノートに書き写し復習したり、授業を録音して文字に起こして、先生が伝えたいことを探りました。すると冒頭で重要なことを言っていたり、だいたい3つの大きなポイントを話していることがわかりました。そのうち「こう表現したほうがもっと伝わりやすい」などと考えるようになり、理解がより深まっていきました。

合格は人生で一番嬉しかった瞬間。報告した電話の向こうで、父の大声が高音で裏返ってました。入学後に出会ったUCの学生たちは、ひと握りの天才以外は、自分と同じく必死で努力していました。よく地頭などと言いますが、どんぐりの背比べ程度の差。本当にできる人が持っているのは「学力」というより「学ぼうとする力」だと思います。現在働いている経営大学院で、こうして得た僕の経験を生かせれば、と考えています。

▼UCバークレー合格への道のり
13歳:中1から警察の世話に(回数不明)
15歳:県立高校進学(偏差値30程度)
19歳:とび職に就く
20歳:専門学校。情報処理の国家試験合格
・電子辞書で漢字&中学の教科書で四則計算を勉強
22歳:IT系上場企業に就職、営業職
23歳:退職し渡米、語学学校入学
・授業+英検3級水準の単語本&文法ドリル
23歳:2年制大学(コミカレ)前期
・一般教養12科目
・単語帳1日1ページ以上、20分後・1時間後に復習
・英語プレゼンのネット動画のフレーズ暗記&音読
23歳:2年制大学(コミカレ)後期
・英語ライティング(大学生が添削)+地理+微積分
・予習&復習20時間超/週
・「逆カレンダー」
・ネット無料動画(基礎教養)
26歳:カリフォルニア大学バークレー校合格!
※鈴木琢也著『バカヤンキーでも死ぬ気でやれば世界の名門大学で戦える。』(ポプラ社刊)を基に編集部作成

ビジネス誌「プレジデント」最新号(2018年7月2日号)の特集「あなたは今、何を学ぶべきか」では、本稿のほか、「1000人調査で判明/これから年収が上がる勉強法」「食べるだけで記憶力と頭の回転のよくなる『食事』」「『頭のいい人』が使っている問題解決ツール ベスト20」など、「学び」をテーマにした記事を詰め込みました。ぜひ誌面をご覧ください。

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鈴木琢也(すずき・たくや)
グロービス経営大学院スチューデントオフィス アソシエイト
1986年、神奈川県川崎市生まれ。高校卒業後、とび職、専門学校、IT企業、米国カリフォルニア大学バークレー校を経て現職。

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(グロービス経営大学院スチューデントオフィス アソシエイト 鈴木 琢也 構成=篠原克周 撮影=石橋素幸)