『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』アメリカでコケてしまった5つの仮説

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全米公開後、期待はずれの興行成績を記録した『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』。メモリアル・デイ神話の崩壊か?はたまた遥か彼方の銀河系疲れか?ハン・ソロの半生を描いた物語はなぜ期待外れだったのか?撮影裏話の呪いからシリーズ疲れまで5つの仮説を立ててみた。

ハリウッドでは常に油断禁物、不確定なことばかり。だが過去40年間、スター・ウォーズだけは確実だった。タトゥーインから来た少年が父親と葛藤するジョージ・ルーカス原作の物語は、去年まで10作品を生み出したが、2008年の忘れ去られたアニメ作品『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』を除けば、どれもすべて興行成績は優秀だった(残る9作品のうち、年間最高興行成績を達成できなかったのは『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』のみ。それでも2002年の年間興行成績では第3位だった)。

このような視点でみれば、今週末に公開された『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は期待外れであることが浮き彫りになる。みんなの人気者ハン・ソロの過去を描いた映画、オールデン・エアエンライク演じる荒くれ者のナーフ飼いの物語は人々の期待を一身に背負い、当初の予想では、オープニングの興行成績は1億3000万〜1億5000万ドルになるだろうと見られていた。だが、ふたを開けてみれば1億300万ドルどまり。ふつうの大作映画ならこれでも十分だが、スター・ウォーズ・シリーズではこれは大問題だ。いったい何が起きたのか? 『ハン・ソロ』が期待外れとなってしまった理由として、5つの仮説を立ててみた。

1. 前評判を覆すことができなかった

スター・ウォーズのスピンオフ第2弾となる今作は、撮影に関する報道と対峙しなくてはならなかった。2016年の『ローグ・ワン』で監督に起用されたギャレス・エドワーズは撮影途中で大きく方向転換を余儀なくされ、『フィクサー』『ボーン・レガシー』のトニー・ギルロイによって大幅な再撮影が行われた。だが、 ”トラブル続出の映画”とのレッテルを免れた『ローグ・ワン』は全世界で11億ドルの興行成績を達成。一方の『ハン・ソロ』は、何か月間も悪評に悩まされた。もともと監督に起用されていた『21 ジャンプ・ストリート』のフィル・ロードとクリス・ミラーは、昨年6月撮影半ばにして解雇された。これをきっかけに、製作上の意見の不一致があるらしいとか、主演のエアエンライクの演技に不満を覚えたルーカス・フィルムが演技指導コーチをつけたとか、数々の噂が出回り始めた。

事態を収束するために、ルーカス・フィルムはロードとミラーの後釜として、信頼のおける業界きっての大ベテラン、ロン・ハワードを起用した。だが、少なくとも観客の目にはすでに時遅し。公開直前まで囁かれた『ハン・ソロ』にまつわる噂はどれも、困難な製作状況を物語っていた。それとは別に、撮影関係者からの匿名レポートがたびたび流出し、明確な方向性のないままに撮影が行われている様子が伝えられた。優れた営業マンやマジシャン同様、映画が観客の心をつかむには、ひとえに自信が必要。本人が自分を信じ切っているからこそ、観客も安心できるのだ。第1作が世界を席巻して以来、おそらくスター・ウォーズは初めて自信を喪失し、観客もフォースの乱れを感じたのかもしれない。

2. スター・ウォーズ疲れ

2015年に『フォースの覚醒』が公開されるまでは、10年以上もスター・ウォーズの新作とはご無沙汰だった(おっと失礼、2008年の『クローン・ウォーズ』がありましたな。でも誰も覚えてないのでは?)。それがいきなり30か月の間に4作品が公開された(2019年12月には『スター・ウォーズ エピソード9』が公開。さらに、2020年にはボバ・フェットのスピンオフも公開予定)。これまでにないほどの『スター・ウォーズ』豊作期を迎え、『ハン・ソロ』もその中のひとつに過ぎないのでは、と疑問に思うのもうなずける。

もっとも、ルーカスが生んだ映画シリーズは、これまでカルチャーシーンに欠かせない存在だった。だが過去10年を振り返れば、ビデオゲームから本、テレビシリーズに至るまでそこら中がスター・ウォーズであふれている。初期3部作はもちろん、その続編もケーブルテレビで何度となく再放送され、かつては三連休の週末の贅沢だった『スター・ウォーズ』全編視聴も、『ファントム・メナース』がTNTで平日午後に放映される今、それほど珍しいことではなくなった。

昔は、『スター・ウォーズ』の新作は一大事件だった。だが今では一連のルーティンでしかなく、観客が食傷気味だとしても仕方がない。とはいえ、マーベルはこの問題にうまく対処し、アベンジャーズとサノスの最終決戦へ向けて緊張感を高め、みごと4月の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』へとつなげている。とすれば、『ハン・ソロ』はスター・ウォーズ・シリーズのなかでも重要度が低い作品だった。この点を考慮すれば、メモリアル・デイの興行成績が1億300万ドルというのはまずまずの数字といえる。スター・ウォーズ作品が飽和状態であっても、新作がこれだけ稼げるということなのだから。

3.  観客が、オールデン・エアエンライクを若きハン・ソロだとは認めなかった

誰もが知る有名な役柄に抜擢されるのは、名誉でもあるが、呪いでもある。世界中で愛されるキャラクターの適任者として選ばれた一方、地球の人口にも匹敵する大勢のファンの理不尽な期待に応えなくてはならないからだ。彼らは抑揚のつけ方から身のこなし、セリフの言い回しまで、事細かにチェックする。ときには役者が期待を上回るパフォーマンスをすることもある。例えば、ヒース・レジャーはジョーカーという人物像の常識を大きく変えた。その一方で、『スーパーマン リターンズ』のブランドン・ラウスのように、クリストファー・リーブが演じた元祖スーパーマンの出来損ないと見られて終わる場合もある。

オールデン・エアエンライクは素晴らしい若手俳優だ。フランシス・フォード・コッポラからウディ・アレン、ウォーレン・ビーティまでさまざまな監督の作品に出演。古き良きハリウッドの魅力に、抗いがたい甘さとユーモアを兼ね備えている。2016年にはコーエン兄弟によるハリウッド時代ものコメディ『ヘイル、シーザー!』に出演し、生真面目な古代ギリシャの将軍を演じるのに四苦八苦する間の抜けた役者を見事に演じ切り、劇場を魅了した。それからほどなくして彼が若きハン・ソロ役に抜擢されたとのニュースが発表され、スターダムは約束されたかのように見えた。ところが一転、エアエンライクはハリソン・フォードの足元にも及ばないというスター・ウォーズ・ファンの不平不満に直面。ハリソン・フォードが生涯ハン・ソロ役から距離を置こうと努めていたことを考えると、なんとも皮肉だ。

いずれにせよ、エアエンライクはにっちもさっちもいかない、自己弁護の立場に立たされた。演技指導コーチをつけたという噂も、何の役に立たなかった。出演オファーを引き受けることで、エアエンライクはなぜ自分が抜擢されたかを正当化しなくてはならなくなった(『エスクワイア』誌とのインタビューで、自分のハン・ソロ役に対する観客の反応について質問されると、「オファーにイエスと答えたのも自分。役に対してどう演技するかも自分の責任。それがすべてだ」と答えた)。若きハン・ソロの演技にハリソン・フォードがお墨付きを出したにも関わらず、『ハン・ソロ』の興行不振は主演俳優のせいだ、という批評は後を絶たない。この批判は不当だろう――彼はいかにも宇宙船のパイロットらしい風貌なのだから。だが、ハリウッドは観客のウケがすべて。その点エアレンライクは、「やつはミレニアム・ファルコン号の操縦席に座るタマじゃない」という前評判を覆すには至らなかった。

4. すべてのスピンオフがうまくいくとは限らない

映画業界がいまだ高い人気を誇る知的財産を最大限に活用することに注力し、リブート版やら続編やらがあふれる時代。唯一ハリウッドがいまだ達成できない領域があるとすれば、スピンオフだ。理由は明快、その名の通りスピンオフは生まれながらにして”オマケ”的存在、なくてもいい存在だからだ。スピンオフの映画作品はそこそこヒットするが、元ネタとなったオリジナル作品には及ばない。いい例が『スコーピオン・キング』で、『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』ほどヒットしなかった。しかし時には、『死霊館』から生まれた『アナベル 死霊館の人形』のように、商業的に成功した作品もある。『ミニオンズ』にいたっては、元ネタ『怪盗グルーの月泥棒』をはるかにしのぎ、世界的ヒット作となった。とはいえ、スピンオフと言って思い浮かぶのは、『カーズ』というドル箱作品から安易に生まれた、たいして面白くもない『プレーンズ』のような作品だ。

ルーカス・フィルムはこれまで、スター・ウォーズのスピンオフ作品を2本製作している。かたや大ヒット、かたや大コケ、というのはどういうわけか? 今になって思えば、『ローグ・ワン』成功の背景には、『ハン・ソロ』には欠けていた2つの要因があったように思う。ひとつは、スター・ウォーズ本作のストーリーと密接にかかわっていたという点。もうひとつは、必然性があったという点。『ハン・ソロ』は、シリーズでも最も人気のキャラを題材にしてはいるものの、第1作『新たな希望』につながる『ローグ・ワン』は見逃せないと観客は判断した。かたや『ハン・ソロ』は、ハン・ソロの冒険談が次々繰り広げられるだけ。ルーカス・フィルムは、宇宙いちのならず者の魅力を過大評価していたようだ。『スター・ウォーズ・ストーリー』とうたい文句があろうとも、スピンオフそれ自体が見るに値する作品だと、観客を納得させなくてはならないのだ。

5.メモリアル・デイ効果は過去の遺産

『スター・ウォーズ』第1作が劇場公開されたのは、1977年のメモリアル・デイ。当時は、メモリアル・デイは必ずしもヒット作のスタートラインではなかった。『新たな希望』がこの常識を変え、その後メモリアル・デイを含む週末は夏の超大作シーズンの到来を告げるものとなった。変化が訪れたのは2002年、5月3日に公開された『スパイダーマン』から新たな法則が生まれ、大ヒットサマームービーの公開時期は5月に前倒しされるようになった(今年マーベルは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を4月末に公開し、さらに前倒しした)。

すなわち、かつては映画公開カレンダーの最重要日だったメモリアル・デイも、年がら年中映画が公開されるようになった今、その他主要公開日のひとつにしかすぎなくなったということ。だからといって、ルーカス・フィルムが『ハン・ソロ』の製作および宣伝時期の判断を誤ったことの言い訳にはならない。メモリアル・デイの魔法は近年、効力を失っている。メモリアル・デイの歴代興行成績を見てみると、1位は11年前に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』。2位と3位はなんと、2008年の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』と2006年の『X-メン/ファイナル・デシジョン』にまで遡る。言い換えれば、メモリアル・デイが打ち出の小槌だった時代は10年以上も前なのだ。近年、メモリアル・デイは大して収益性が高いとも言えず、あえて言うなら、『ハン・ソロ』は2017年の『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』や2016年の『X-メン/アポカリプス』、2015年の失敗作『トゥモローランド』をせいぜい上回る程度だった。

『ハン・ソロ』のいまひとつな滑り出しを反省しているルーカス・フィルムの人々には何の慰めにもならないだろうが、くしくも銀河系でもっとも知られるシリーズ作品が生まれた日と、シリーズ史上もっとも残念なオープニング興行成績だった作品の公開日が同じだとは、皮肉としか言いようがない。

『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、日本では6月29日(金)より全国公開する。

『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』
2018年6月29日(金)より全国ロードショー
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