「技術で社会はマシになるが、人は技術を悪用する」仮想通貨580億円事件を受けてコインチェックアプリ規制の是非について討論【津田大介×東浩紀×夏野剛】
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仮想通貨を発行する取引所「コインチェック」がハッキング被害を受けたことにより、580億円相当の資産が不正流通された「コインチェック騒動」。
この騒動を受けて、評論家・東浩紀氏、メディアアクティビスト・津田大介氏、ドワンゴ取締役・夏野剛氏が集合。「仮想通貨について言いたい事を言う生放送」と題し、仮想通貨の現状や抱える課題について、お酒を囲んで気兼ねなくしゃべる生放送を行いました。
「なぜコインチェックは登録者数を伸ばすことができたのか?」「なぜ金融庁は規制をかけないのか」「出来過ぎたアプリ『Coincheck ビットコインウォレット』の仕掛け」等など、様々な視点から騒動の要因を探ります。
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夏野:
やっぱり、これだけ自由が効かない仮想通貨市場を作ってきた金融庁は、なぜこれを放置してたんですかね? だって、取引の86%が日本人になっちゃっている。
東:
でも、仮想通貨の取引所に関しては、日本が先進的に一番厳しい規制をひこうとしていたんでしょ? 日本が登録制度を初めて導入したくらいで。
夏野:
みなし登録だから。
東:
コインチェックはね。ただ、日本は、それでも真面目にやっていた方で、世界的にはもっと無法地帯らしいと聞いたけど。
夏野:
世界的にはどんどんBAN【※】される方向になってる。金も実際に動いていないし、日本の取引所を一番使っていたのは中国人だし。
※BAN
「禁止令」「追放令」「破門令」などを示す英単語。インターネット上では、悪質ユーザーを排除する為のフィルタリング措置、またその行為を指す場合が多い。
東:
そうなの?
夏野:
こういう仮想通貨というのは、リアルな通貨に対して、やっぱり安定性か流通性が低いところに需要があるので、それだと、円に関して言うと、そういう需要は無いんですよ。
ところが、円でやってる人というのは何かって言うと、投機的な意味でしかないの。投機的な人がある一定以上入ってくると、もう、ボラティリティ【※】が高まるから、非常に危険になるんだけど、でも中国の人たちから見ると、「人民元よりマシだろ!」っていう世界がある。やっぱり流入は止まらないというところで、こういう構図になっちゃってる。
※ボラティリティ
価格変動の度合いを示す言葉で、「ボラティリティが大きい」という場合は、その商品の価格変動が大きいことを意味し、「ボラティリティが小さい」という場合は、その商品の価格変動が小さいことを意味する。
東:
でも最終的に、ビットコインの急騰をやったのも、日本人の個人投資家なので。
夏野:
いや、投機的にやった。
東:
やっぱり投機的にやったのが、ちょっと金融の普通のメカニズムとは違う話になってしまいましたね。
夏野:
もう完全にそう。
夏野:
むしろソシャゲのレアアイテムみたい。
東:
だから、ガチャに突っ込むみたいな感じで、みんなバンバン金を突っ込んでたみたいだから、そういう意味で言うと日本ってソシャゲの課金率もすごく高い。
最近、日本のゲームを海外にローカライズしたり、海外のゲームを日本にローカライズしたりして、Steamとかそういうプラットフォームにいろいろ展開している人に話を聞いたわけ。すごく面白かったのは、「課金力」という言葉を彼が使っていて。
津田:
「課金力」ね。
東:
「ヨーロッパの客は課金力が低い、日本の客は課金力が高い」とか言って。
津田:
(笑)
夏野:
もっと言うと、日本のゲームベンダーの儲け方というのは、一部の狂信的な人たちからどれだけ取るかで決まっちゃう。
だから、裾野は広くしておいて、無料でもゲームできるんだけど、ある一定以上は絶対にいかないようにしてある。課金力の高いやつというのは、全体市場で言うと5%しかいないんですよ。
東:
だからそいつらが、結構払うということみたいなんですよね。
夏野:
そうです。だから1ヶ月で200万円以上払うユーザーがやっぱり一番デカい。
東:
僕は、経済学の問題だけでは解けないことが今回起きていると思っていて、例えばソシャゲの話とか、ネトゲ廃人みたいな話と今回の仮想通貨の話とは密接に繋がっていて、日本は、この10年間ぐらい確実に課金力の高いネットユーザーを育てる風土がある国だったわけですよ。
夏野:
ちなみに言うと、そのほとんどが親の金なんです。
東:
それもありますよね。
夏野:
だから、そこが問題で、自分で稼いだ金を使ってるならいいんだけれど、やっぱりこの国は、ものすごく、所得格差じゃなく、資産格差がでかい国なんですよ。
親が金を持っているやつは、別に1千万円損したって、親の金だから、たいしたことがないわけで、ところが所得はみんな低いまんまとか。所得格差より資産格差の話をするべきなんですよ。
津田:
コインチェックって、2段階認証とかもやっていたのか?
夏野:
あるわけねえじゃん!
東:
2段階認証は、一応やってもいいぞみたいなことになっていた。あと、本人確認はハガキでやっていた。僕が顔の横に免許証を持って、パシャッと写真を撮って、向こうに送るのよ。
で、しばらくするとハガキが送られてきて、「このハガキを受け取ったということは、あなたはもう大丈夫」みたいな。「あ、そうなんだ。なんで大丈夫なんだろう?」って。
津田:
じゃあ、そこにコード番号かなんかがあるみたいな感じ?
東:
いや、単にハガキが来るだけ。
津田:
あ、そうなんだ。bitFlyerは買うまで、すごく手間がかかったんだよね。いろいろランクがあって、本人確認とかもすごくめんどうくさいし、買えるようになるまで、すごく時間がかかったの。
東:
もうひとつの話に戻るけど、日本はソシャゲとか、そういうのに対して課金力の高いユーザーを、社会的に育ててきた。もっと言えばパチンコとかもそうですよ。そういう、実はギャンブルの外側にある、合法ギャンブルみたいなものを……。
夏野:
でも、実は層が全然違うの。
東:
言うと思っていました。でも、一応そこを並べていきたいと思います。というのも、ソシャゲとパチンコは、すごく似ていると思うんです。
夏野:
でも、昔のソシャゲは、そうだったんだけれど、規制が厳しくなってから今は違うんですよ。今は、もう5%のヘビー課金ユーザーで、すべてが成り立っている感じ。
パチンコは警視庁の規制とかもあって、当たり率のアップサイドが無いんで、広く薄く取る世界。ここでの違いで、今回はやっぱり、ソシャゲ方式なんだよね。で、「億り人【※】」になれる可能性が出るやつは、かけている金額も大きいはずなんですよ。
※億り人
株式投資などで億単位の資産を築いた人を指す俗な言い方。2008年の映画『おくりびと』をもじっている。
東:
なるほど。たしかにそこは違う。まあでも僕はやっぱり、こんなことを言ってもしょうがないんですけれど、やっぱり日本人ってちょっとみんなライトに賭博とかやりすぎなんじゃないかなと思いましたね。
夏野:
俺は逆だと思う。
東:
でも、結局ソシャゲとかでも日常的に課金に慣れているわけですよ。例えばメディアとかでも、ライトなネトゲ廃人とかで、月5万突っ込みました10万突っ込みましたみたいな人がゴロゴロいるわけじゃないですか?
そういうのが、周りにある環境に、このコインチェックみたいなものがボーンと投げ込まれると、20万円、30万円なんて、学生でも突っ込んじゃうわけでしょ?
夏野:
学生が突っ込んじゃうのは自分の金じゃないから。
東:
夏野さんはそこにばっかりこだわってるけど(笑)。
夏野:
いや、結局なぜかというと、金が余りまくっちゃってるんですよ。
津田:
高齢者の銀行口座に。
夏野:
そうそう。だって1800兆円だよ? 1800兆円も親からむしり取ればいいだけなんだから。で、親には出川のCMは効いているわけですよ。
東:
うん。
夏野:
テレビCMをこんなに使っているネット企業が、こんなにある国も日本だけなんですけれど、これはお財布の紐を握っている人たちに対するアピールで……。
60代以上なんかネットで買い物もそんなにしてないし、コインチェックに突っ込んだりもしていないんだけれど、そのバカ息子とバカ娘はいくわけですよ。ここが上手かったね。
津田:
まったくそれに同意するんですけど、「自分の金で」という意味で言うと、ちょっと他の仮想通貨と違うことが起きているのはモナコインで、モナコインは、2ちゃんねるの文化から出てきたんですけど、最初は、すごく価値が低かったわけですよ。
で、中学生とか高校生とかがお小遣いでも買えるようなものが多かったので、彼らが今、本当に初期のころに5000円とか、お年玉1万円とかで買ってみたものは、今、何億とかになっちゃってる。だから、実は今、20歳前後のモナコインの「億り人」というのがすごく増えていて、で、そこをまた狙ったりもするんですよ。
夏野:
絶対に数はそんなにたくさんはいない。
津田:
でも結構それなりにいるんですよ。
夏野:
で、そいつらはこれから人生が狂うわけだけよね。
東:
そんな億にならないと思うけどな。倍率はちょっと分からない。
津田:
未成年は、もうちょっと突っ込んだかもしれないけど。
夏野:
でも、「億り人」の成功事例って、絶対にそんなに多くないんですよ。ちゃんと売り抜けてないといけないし、現金化しなきゃいけないしで、でもそれが宣伝材料になって、グワっと、それを狙う人たちが出てくるっていう状況が見ていてね……。
東:
例えば「億り人」とか言っても宝くじ当選者が年間で何人ぐらい出ているのかみたいな。ということを考えるとき、宝くじだって、何百人という人たちが毎年「億り人」になってるわけでしょ?結局それを本当に上手く宣伝すると、みんなが宝くじに群がるワケだけど、宝くじは古いものなので、みんな冷静になっていて、流石にそこまでならないわけじゃん。
コインチェックは、それをうまくやっちゃったわけだよね。そもそも、コインチェックが仮想通貨の本質の、ブロックチェーン技術とか関係ないという話をしなきゃいけないわけだけど。
夏野:
そうそう。ブロックチェーンと仮想通貨というのは一対一の関係じゃないので。別にブロックチェーンの技術を使って安上がりにやってるっているだけだから。
今回は、ビットコインそのものの問題じゃないじゃん。NEMでありコインチェックが、ノミ行為をすることによって、実際のブロックチェーンで担保されているような世界の秩序は守られないところが出てきている。
これって僕は規制の問題だと思っていて、実は今の金融庁長官というのは、ものすごく金融業界に対してフィンテック【※】推奨です。
※フィンテック
Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、ファイナンス・テクノロジーの略。
東:
なるほど。
夏野:
「新しいこと試せ」というのを森さんはものすごくやってきたわけ。この背景も実はあるなと思っていて。日本は、金融庁が、ああいうものに対して規制を最初から厳しくやってきた。
津田:
PayPalすら入れなかったわけですしね。
夏野:
PayPalすら規制していたはずなのに、仮想通貨は、すり抜けちゃったじゃん。これは大きいなと思っていて。
津田:
確かに。このままだと、フィンテック革命に乗り遅れるぞみたいなところで、だから現政権は、そういう新しいテクノロジーに関しては推進しているんですね。
夏野:
ちょっと緩くなっている。政権というよりは、金融庁長官の森さんのキャラなのよ。
津田:
なるほどね。
夏野:
だって安倍さんがそんな金融の規制をどういう風に緩めたりだとか。総理大臣がそんなん分かるわけねえじゃん!
東:
僕はこれ、仮想通貨だけの問題じゃなくて、インターネットの問題だと思ってるんですよ。インターネットという思想の問題。1970年代からずっと長い間、ここ40年間ぐらいやっている、「社会問題を技術によって解決する」という思想があるわけですよ。
夏野:
なるほど。
東:
これは、すごく長い思想で、例えば民主主義の話で言うとか、貨幣の問題とか、いろいろあるじゃない? 「今まで社会問題だと言われたことを技術によって解決するんだ。俺たちはそれができるんだ」という思想があったわけ。それはドーンと、うまくいったとこがあった。
夏野:
Googleがね。
東:
でも、ここ2、3年の技術というのは、実は「やっぱり技術によっても人間は変わらないからまずいぞ」というのがある。これって多分フェイクニュースの問題なんかもそうじゃない? で、そういうのにこれは、すごく似てると思うんだ。
津田:
そうね。
夏野:
朝日新聞の話ね。
東:
朝日新聞だけじゃない。これは、つまり、技術がいくら上手く仕組みを作っていても、人間は必ず技術を悪用するというか、技術の使い方で裏をかくから、結局、社会問題を技術によって完全に解決するのは無理なんだということの、一個の例のように僕には見えてるわけね。
夏野:
なるほど! それは、すごい納得感あるんだけど、ただ今回のケースって、やっぱり技術そのものの問題じゃないっていうところの問題だから。
東:
技術そのものの問題じゃないわけ。だからフェイクニュースだって技術そのものの問題ではない。
夏野:
だから、悪用する朝日新聞という会社があったり。
東:
まあ、それは津田さんが担当すると思うけど(笑)。
夏野:
やっぱり全体的に言うと、ある一定のスケールをベースにすれば、それは正しいと思うのよ。技術によって、もうちょっとマシになっていく。
ただ、その過程において、部分的に盛り上がる市場とか、投機マネーが入ってきたりすると、技術が想定してないことが起こってしまって、それが起こってしまった時に被害者が出る。
でも、よく考えてみれば、あずまんには、申し訳ないけれども、このコインチェックに投資してたやつなんて、どうせろくなやつじゃないわけよ! よくわかってないし!
東:
それはそうですよ!
夏野:
まあ、あずまんは、興味本位でやってるけど、他のやつらは、こいつら本当に救済する必要があるのかどうかというのは、社会的に俺は無いと思うんだよね。
東:
ただ、今回のコインチェック騒動って、やっぱり僕はTwitterとか、いろいろ見ている限り、本当に深刻な人もいて喋れないのかもしれないけど、あんまり深刻度が無いのよね。
僕は、これこそ面白いというか、問題だと思っているんだけど、本当にみんなゲームだと思ってやっちゃっているわけですよ。でも、ゲームじゃないじゃん! まさに、現実と虚構の区別がつかなくなっていてヤバい。
夏野:
そうだよ。そこで俺は、資産格差の話に戻るんだけど。なぜかというと、親の金でやるということに……。
東:
俺は、自分の金でやってるよ(笑)。
津田:
夏野さんが、親の金に頼らず自分でお金をもっと稼げたからそういう風にやっぱ言えるんですよ。
夏野:
いや、親の金だと、相続という場面になったときに何が問題になるかと言うと「おまえ、その3000万円を自分で稼ぐ能力が無いのに、なんで相続権を主張すんだ」みたいな話ばかりなのよ。
つまり「親の金は自分の金」で、完全なあぶく銭なんですよ。これは、バブルの不動産投資と株式投資、以上の話。
津田:
じゃあ相続税も、もう上げるべきということなんですかね。
夏野:
ああ、俺はもう相続税は89%でも良いと思っている。
津田:
なるほどね。
夏野:
だから、本質的な問題で言うと、やっぱりお金の偏在。やっぱりこれは日本だけに起きている状況なんですよ。
東:
変な状況ですよね。
夏野:
これ、社会的なソリューションとしては、めちゃめちゃおかしなことになっていて、そこに仮想通貨というのが入ってきて、みんなが飛びついて、そこに裏には、中国のお金があってという、なんか、かなり複雑な状況があるんだけど。
じゃあ日本政府は何をするべきだったかということで言うと、ここまでいくまでに、もうちょっと俺はやりようがあったんじゃないかなと思う。
東:
でも、法律が追いついてないのは当然なんだけど、このコインチェックのアプリって……。
夏野:
上手く作られている。
東:
これは明らかに規制するべきアプリですよね?
夏野:
ところが、実は法律論じゃないんですよ。だって、金融庁の規制なんて法律で定められてる規制は何もないじゃない? で、例えば俺なんか、住宅ローンというのを借りちゃったのよ。その時に、金融庁のガイドラインに従うとどうなるか知ってる?
住所氏名と保証人の名前とすべての申込書は、手書きで書かなきゃいけない。僕がサインとかハンコを押すところあるからプリントアウトしてくれと言ったら、「いや、これはガイドラインで決まってるんです」
東:
銀行はそうよ? 住所も大阪府とかから書かなくちゃいけない。
夏野:
いや、それがまさにそうで、住民票の記載と一字一句違ってもダメなんだって。この、「ー」が「の」だったらもうだめだって。そんなとこまでやってんのに、なんだこのコインチェック!
津田:
確かにね。
東:
そこに繋がるの?。どこに行くかと思ったら。
津田:
そう、個人的な不満をね(笑)。
夏野:
ただ、何を言っているかと言うと、そこまで手取り足取り全部決めていた金融庁が、なぜアプリを放置してたかというのは、ものすごく疑問なの。
東:
いや、だから結局アプリという部分は、これはまさに法の隙間みたいな、法というか監督官庁の隙間を狙ったものでしょ?
夏野:
いや、これは完全に金融庁なんで。
東:
アプリのデザインまで金融庁は見る?
夏野:
アプリのデザインというか、本人承諾の取り方みたいなことは、アプリも書面も一緒だから。
東:
コインチェックはそこも脱法っぽかった。
夏野:
だからそれは、個人ファイナンスの世界では、なんかめちゃくちゃな。18%とか、36%とか、あんな金利まで過去にさかのぼって返させるみたいな強引なことまでやってたのに、ここに関しては何にもやってない!
東:
だから俺は、アプリの問題だと思うんだよ。俺は、楽天証券もやっているんだけど、楽天証券のアプリもあるわけよ。楽天証券のアプリと、考え方が違うもん。楽天証券のアプリってiSPEEDって言うんだけど、コインチェックに比べるとめっちゃスピードが遅いわけよ。
津田:
(笑)
夏野:
ただ、スピードが早かったのは、ノミ行為だったから。
東:
そうなの。楽天証券の場合は、アプリが立ち上がるんだけど、購入する時に、もう1回ログインしないといけない。アプリなのに、もう1回ログインって……。
夏野:
購入の時に、もう1回パスワード入れる必要がある。それは全部仕様でしょ?
東:
でもコインチェックのほうは、夜中目がいきなり覚めても、立ち上げていつでも売却できるんだもん。
津田:
(笑)
東:
アプリの作り方もやっぱりおかしいのよ。フィンテックとかの話じゃないよ。絶対になんかおかしい。
夏野:
まさにそこなの。野放しになってたってこと。
津田:
でも、考え方としてはワンクリックとかで、できることこそがインターネットテクノロジーの便利さでもあったわけでしょ?
夏野:
いやいや。でもそれを本当にやるかどうかは、ソーシャルアダプテーション(社会が新しい技術にどう適応していくのか)。
東:
これ、どうなんだろう。わかんない。誰かいろいろな証券会社のアプリを実際に取引してみて比較するべきだと思うんだけど。
夏野:
いや、証券会社は、いちいちそれを報告しなくちゃ。
東:
そうだよね。楽天なんだからおそらくまだ便利な方なはずで……。
夏野:
まあ、いまどきみんなギリギリ狙ってるから同じだよ。
東:
でも、このコインチェックのアプリを入れたときの落差ってすごいよね。
夏野:
ちなみに言うとFXはそっちに近いんですよね。
東:
そうでしょうね。
夏野:
ところがFXは為替だから母数がでかいんで、そんなの一部の投機マネーじゃ動かないんだよね。
東:
なるほど。
夏野:
だから、ものすごい被害者は出てこないんだけど、その代わりレバレッジの倍数が無制限に行われてたから、そこは金融庁がちゃんと入って下げたんです。
津田:
だから、それで損しちゃった人はもう少ない金額で、上がる人はいけるけど、逆に少ない人からしたら……。
夏野:
それはそういうもんだから。ハイリスクハイリターンだからね。
津田:
なるほど。
夏野:
でも、それも行き過ぎてたということで、倍率を制限してやってきたわけなんだけど、これに関しては……。
東:
仮想通貨も、上級者というか、こういうのばっかりやっている人だと、取引所をまたいでやってるわけじゃん。こっちの取引所のレートと、こっちの取引所のレートで、こう動かして、戻したりとかしてるんでしょ?
夏野:
普通は、その取引所のレートは共通化されてないはずなのよ。
東:
共通化されてないんだよね?
夏野:
なんでかというとノミ行為だから。
東:
めちゃめちゃだよ。
夏野:
このコインチェックの犯罪性というのは、僕は絶対にあると思うんだよね。だって実際に買ってないんだもん。だから取引所ですらない。ノミ行為をやっている。
東:
そうなんだよね。
東:
みんなが自分の個人史を投稿するというプラットフォームがあって、そこから『ビリギャル』という、成績がビリの女の子が慶應義塾大学に受かったというベストセラーが出ているんだけど、その「STORYS.JP」というサイトを作った人がコインチェックの和田晃一良さんなんだよね。
津田:
それがコインチェックになっていく。
東:
これ僕ね、すごく意味が深いことだと思っていて、要は、和田さんは「あなたの自己実現を支援するバズるサイト」を作った人なんですよ。そのノウハウが完全にコインチェックにも仕込まれてる。コインチェックは本質的にはフィンテックじゃないわけ。
夏野:
まったくそうだろうね。やばい。
東:
こういうことが起こるということを、経済学とか技術者は考えないじゃん? これは、まったく違うところから来ているわけですよ。
夏野:
考えない。なるほど!
東:
だからコインチェックは、まったく違うんだよね。フィンテックとかそういう発想で作られていなくて自己実現で作られているんですよ。「あなたの輝かない人生が一発逆転しますよアプリ」なんですよ。
津田:
このスマホ一台で。
夏野:
だから「億り人」が実際に出ているんだ。
東:
そういう意味で僕はコインチェックのアプリは本当によくできていると思った。これは自己実現のために特化しているサービスだから。これで投資とか金を増やすとか安全性とかということじゃないわけですよ。
夏野:
なるほど。「夢を実現する!」今日は何か深いね。
東:
仮想通貨の問題って逆に言うと……。
夏野:
今の日本社会についての、社会問題。
東:
そう。仮想通貨の問題も社会問題になっていて、つまりコインチェックに流れ込んできているのは、フィンテックじゃないんですよ。俺は今日、それが言いたかったことなんです。コインチェック騒動を考えるためには、フィンテック以外の視点を持たないと。
夏野:
本当にそうよ。経済学的に言えばやっぱり、資産の偏在であり、テクノロジーから言えば、ある一定のところにあまりに価値が集まりすぎたがためにハッキングの対象になったということ。
東:
そうそう。
夏野:
いやあこれは深い。