昨シーズン、球団ワーストの96敗を喫し、断トツの最下位となったヤクルト。巻き返しを図るべく、春季キャンプでは連日、猛練習が繰り広げられている。4年ぶりにヤクルトの監督へ復帰した小川淳司氏にここまでの成果と、今シーズンの戦いについて語ってもらった。


4年ぶりにヤクルトの指揮を執ることになった小川淳司監督

―― これほど楽しみの多い春季キャンプになるとは想像もしていませんでした。

「昨年喫した96敗の悔しさを持って、松山(愛媛)での秋季キャンプからチームはスタートし、本当に厳しい練習だったのですが、選手たちは一生懸命頑張ってくれた。だから、春のキャンプが始まるのが本当に楽しみでした。今も充実した練習を継続できているので、期待感があります」

―― 豊富な練習量に注目が集まっていますが、質も高いように感じました。

「そうですね。やみくもに練習量を求めて、厳しくやろうということではありません。選手たちには今まで以上に、練習の目的と効果を説明しています。その中で、チームとしてはスモール・ベースボールでいきたい。打ち勝つ野球は封印ではないですが、得点チャンスのときに何とか1点を取る。そういう意識をまず持ってほしいと思います」

―― 昨年秋のキャンプで石井琢朗打撃コーチは「スモール・ベースボールを掲げますが、まずはバットを強く振る力をつけたい」と話されていました。

「コツコツ当てることがスモール・ベースボールではないですし、やはり速い球は強く振らないと打ち返せません。僕は、スモール・ベールボールって”考え方”だと思うんです。常に強いスイングをするのではなく、不利な状況に追い込まれたときには相手ピッチャーに球数を投げさせたり……得点するためには何が最善なのかを考えようと。走塁にしてもそうですよね。それらをみんなで声に出して、共通認識を持とうということです」

―― 監督をはじめ、首脳陣が大幅に変わりました。OBである宮本慎也ヘッドコーチがチームにいい緊張感をもたらし、広島から来た石井打撃コーチと河田雄祐外野守備・走塁コーチのふたりは、選手たちに新鮮な刺激を与えているように見えます。

「ヤクルトは”ファミリー球団”と言われているように、いい意味でアットホームな雰囲気があります。僕自身、現役引退後にそのまま指導者になりましたが、ヤクルトの中で育った人はどうしてもその殻を破れない印象があります。

考え方をもっともっと広く、ヤクルトがやってきたことに他球団のアイデアをミックスする。これは絶対に必要なことで、実際に今、選手たちは石井や河田の練習方法や考え方にすごく興味を持っていますよ。だから、非常に吸収しやすい環境にあると思います。すぐに結果が出るわけではないと思いますが、選手たちの引き出しが増えることは間違いないと思っています」

―― 青木宣親選手がメジャーから7年ぶりにヤクルトに復帰。打線のことを考えると夢が膨らみます。

「夢は膨らむのですが、起用法をどうしようかと……嬉しい悩みとなりました(笑)」

―― 超攻撃的な”スモール・ベースボール”が見られるのではないかと、期待してしまいます。

「これは考え方なのですが、自由に打つ人を上から並べると、今の想定だと7番、8番が弱くなってしまうんです。バントをせずに1点が入れば理想ですけど、まずは昨年低迷した打線をなんとかしなくてはいけません。そうなると2番の位置づけが変わり、ひとつの選択肢として中村悠平が当てはまる。1番、3番は山田哲人と青木。4番、6番にバレンティンと畠山和洋。5番、7番は雄平、川端慎吾、坂口智隆のいずれかが入る。それで8番にショートの選手というところで考えているのですが……。出塁率が高く、長打も打てる山田と青木につなげるためにも、7番と8番の出塁率が重要になると思うんです」

―― 青木選手が加入したことで、外野のポジション争いが熾烈になりました。

「今、坂口がファーストの練習をしていますが、外野の競争からはじかれたわけではありません。ファーストの中心には畠山がいますし、あくまで今ある戦力を最大限に活用するためのオプションです。そのなかで、外野手で誰がファーストの適性があるのかを考えたときに坂口となったわけです。間違ってもコンバートではありません。これも青木の加入によって生まれた”嬉しい悩み”ですよね」

―― 内野手についてはどうですか。

村田修一が巨人を戦力外になって、獲得するかどうかという話はありました。彼がチームに入れば間違いなく戦力になるのですが、そうすると若い選手――廣岡大志、西浦直亨、藤井亮太、奥村展征たちに出場機会を与えることが難しくなってしまう。彼らに力をつけさせる環境をつくることが、僕の仕事だと思っています。さらにドラフト1位ルーキーも村上宗隆も捕手からコンバートしてサード1本でやらせるわけです。村田がいれば使いたくなってしまうので、チームの将来を見据えると(獲得を見送る方が)いいのかなと……」

―― さて投手陣です。昨年ローテーションを守った小川泰弘投手と星知弥投手が二軍スタートとなりましたが、外国人投手はデーブ・ハフ投手、マット・カラシティー投手、元中日のジョーダン・アルメンゴ投手の3人が加わりました。

「今のスタッフを考えれば、小川が中心になりますが、右ヒジ疲労骨折の手術明けなので開幕から全開というわけにはいかないと思います。まずは外国人ふたり――アルメンゴは調整が遅れているので、2年目のデビッド・ブキャナンとハフですね。このほかに石川雅規、原樹理、山田大樹(元ソフトバンク)、由規。そこに二軍スタートの星、山中浩史、館山昌平、成瀬善久たちが戻ってきてくれれば。

ピッチャーたちには『今年は先発として送り出したら5回までは何がなんでも代えないから』と話しています。特に若いピッチャーは、打たれてもいいからたくさんの経験をして、修羅場をくぐってレベルアップしてほしいと思っています。そうしないと、これから何年後かに一人前のローテーション投手として回すことが難しくなる。ただ、セ・リーグなので投手は打席に入らないといけないですし、試合展開によってはそうならないこともあるかもしれませんが……」

―― ブルペン陣はどうですか。

「抑えはカラシティーで、秋吉亮は8回がいいんじゃないかと。あとは石山泰稚ですね。昨年はシーズン途中までいい状態だったので、今年はそれを最後まで持続させられるか」

―― 小川監督は3年間、シニアディレクターとしてヤクルトの試合を見ておられました。

「優勝と最下位の両極端を見たわけです。3年前の優勝のときは、選手たちが頼もしく感じました。躍動感というか、試合への気持ちの入り方も素晴らしかった。96敗した昨年は、本当に戦意喪失というか、ただ試合をこなしているように映りました。勝負事なので負けることはありますが、そういう姿をファンの前に出してはいけないとあらためて思いました」

―― 最後になりますが、一部で「つなぎの監督」という声も聞こえてきます。

「キャラの強い宮本がヘッドコーチになったことで、そういう見方をする人もいるんでしょうけど、自分は球団から求められている育成という使命をまっとうしたいと思っています。もちろん勝つためにも全力を注ぎます。キャンプ前日の1月31日のミーティングでも『とにかく優勝目指してスタートします』と選手たちに伝えました。開幕してすぐに結果を出すことは簡単ではないけど、とにかく最後まであきらめない執念を持ったプレーを心がけてくれと」

 今シーズン、ヤクルトのスローガンは『RISING―再起―』。はたして、小川監督はどんな手腕でチームを再起させるのか。猛練習で鍛え抜かれた選手たちの奮起に期待したい。

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