「タップル誕生」(左)「ペアーズ」(中央2つ)「クロスミー」(右)など、恋活サービスが続々と人気化している(画像は各運営会社提供)

群馬県に暮らす田中楓(かえで)さん(23)と佐々木友徳さん(23)は、付き合い始めて約半年になるカップルだ。出会いのきっかけは恋活アプリ「タップル誕生」(以下タップル、マッチングエージェントが運営)。料理好き、犬猫好きといった共通点からマッチング(個別メッセージのやり取りへ進展)し、2人ともアプリを使い始めて1カ月前後で恋人をゲットすることとなった。

友徳さんと出会うまで、楓さんには3年以上恋人がいなかった。「女性中心の職場で出会いがないうえ、誰かが車を出さないと帰れなくなるため合コンは開きにくい。成人式という“最後のチャンス”を逃してしまうと、どんどん恋愛・結婚から遠ざかってしまう」(楓さん)。一方、周囲の同級生を見渡せば、中高時代から長く付き合っているカップルが次々と結婚していく。多少の焦りがあった。

アプリの出会いはむしろ”安心”

そんな悩みを吐露した美容室で紹介されたのが、恋活アプリだった。最初こそアプリでの出会いにためらいがあったものの、写真やプロフィール欄の情報が充実していること、そのうえで相手について「いいかも」「イマイチ」を気軽に表明できることが安心材料になったという。友徳さんと初めて会う際も「それまでにメッセージや電話でかなりコミュニケーションを取っていたので、大きな不安はなかった」(楓さん)。


アプリ「タップル誕生」で出会った佐々木友徳さん(左)と田中楓さん(右)のカップル(記者撮影)

2人とも「アプリ経由」というなれ初めを家族や友人にオープンにしている。加えて恋人募集中の知り合いには、タップルの利用を全力で勧めているという。「同じ県内とはいえ、普通に生活しているだけでは出会えなかった。タップルには感謝しかない」(友徳さん)。

楓さんと友徳さんのようなカップルはいまや珍しくない。タップル以外にも、「Omiai(オミアイ)」(2012年2月開始、ネットマーケティングが運営)、「Pairs(ペアーズ)」(2012年10月開始、エウレカが運営)や、米国発の「Tinder(ティンダー)」(米IACグループが運営)といった、オンラインで男女をマッチングするサービスが着々とユーザー数を伸ばしている。

中でも成長が著しいのは、結婚を前提にした相手を探す“婚活”より気軽に利用できる“恋活”関連のサービス。職場に異性がほとんどいない人、仕事が忙しく合コンや街コンに出掛ける暇のない人の利用が、男女ともに多い。国内最大規模のペアーズは累計会員数700万人(韓国、台湾を含む)を抱える。退会者へのアンケートを基にした推計では、結果的にペアーズでの出会いで結婚・婚約に至ったカップルが年間2万人に登る。

多くの恋活サービスは男性ユーザーに課金するビジネスモデルを取る。価格は1カ月あたり3000〜4000円が相場だ。最近では福利厚生として、サービスの課金を肩代わりする企業も出てきた。フリマアプリを展開するメルカリは「プライベート支援の一環」として、社員がペアーズの有料プランを無料で利用できるようにしている。

サイバーエージェントの傘下で、タップルを運営するマッチングエージェントの調査によれば、国内のオンライン恋活・婚活サービスの市場規模は年々増加し、2017年に256億円に到達。2020年には600億円を超え、その後も2ケタ成長が続く見通しだ。

サイバーエージェントグループでは2013年に開始したタップルに始まり、2017年12月までに5つのネット恋活サービスをリリース。GPSを活用し、街ですれ違った登録ユーザーを表示する「クロスミー」、女性からしかメッセージを送信できない「トルテ」、顔のパーツを細かく指定できる「ミミ」など、それぞれに際立った特徴を持つ。

「相手選びの基準は人それぞれで、1つのアプリで展開するには限界がある。コンセプトを明確に分けることで新しいユーザー層を開拓していける」。マッチングエージェントの合田武広社長は、グループ内で複数サービスを展開する背景についてそう語る。

かつての「出会い系」と何が違うのか

サービスの浸透度合いで先行するのが米国だ。今や結婚するカップルの4組に1組がオンラインで出会っているといわれる。ただ日本においては、PC・ガラケー時代から「出会い系サイト」の利用による高額請求、性的被害などが問題視されており、オンラインでの出会いに負のイメージを持つ人が大半だった。


「ペアーズ」を始めとして、恋活サービスで結婚につながるケースも少なくない(記者撮影)

それがここへ来て大きく変わり始めた。前述のようにユーザー数が急拡大するのに加え、利用していることや出会いのきっかけになったことを隠し立てしない男女が増えている。エウレカによれば、「元ペアーズユーザーを対象に広告のモデルになってくれるカップルを募集したところ、こちらの想像をはるかに超える170組から応募があった」(会社側)という。

特にスマホやSNSを中学・高校から当たり前に使ってきた20代前半の世代は、総じて恋活サービスに対する抵抗感が薄い。フェイスブックが浸透したことで、ネット上に自身の詳細なプロフィールを公開する文化もできた。ペアーズやオミアイは登録時に各人のフェイスブックのアカウントを連携させる必要があるため、それが心理的ハードルを下げている面がある。

合コンや友人からの紹介など、リアルの恋活にないメリットも挙げられる。複数の恋活サービスを併用し、恋人を見つけた男性(26)は「自分の性格的には、最初は面と向かっての会話よりテキストベースのほうが話しやすく、実際に会ってからも会話が弾んだ」と話す。見た目や年齢だけでなく、大卒以上の人、お酒を飲む人、たばこを吸わない人など、細かい条件設定機能も重宝したという。

機械学習によるマッチングサポート機能をウリにするケースも増えてきた。ペアーズでは各人のプロフィール内容や利用傾向(ログイン時間帯やサービス内の回遊の仕方など)をもとに、互いの相性をパーセンテージで表示している。同じ趣味を持つ人同士でも、思考や行動のパターンが違えばうまくいかない。そういったユーザー自身も認識しづらい部分をすくい上げるのがITサービスならではの強みだ。

サービスを運営する各社が取り組んできた安全対策も、イメージアップに一役買っているだろう。タップルではユーザーの自己紹介コメントや写真を目視で全件監視しているうえ、ユーザー同士が個別にやり取りしているメッセージでも1000にのぼるNGワードを設定、常時抽出して監視を行っている。グループ内の「アメーバブログ」で採用している監視基盤を応用した。

エウレカも今年に入り、一部を外注していたカスタマーサポート部隊を完全に内製化するなど、体制整備を進める。「不倫目的、ネットワークビジネス目的、さらに『ヤリ目(身体の関係のみの目的)』まで、すべて目的外利用に定め、おかしいと思ったら気軽に“通報”してもらえる導線も設けている」(会社側)。

ユーザーが増えるほど、セキュリティに課題

とはいえ、100%安全と言い切れるわけではない。昨年恋活サービスを使っていた男性(38)は、「すごく美人のプロフィール写真を上げている20代女子とマッチングしたと思ったら、ほどなく(恋活アプリ内のメッセージ機能ではなく)LINEのID交換を促されて、コンビニで買えるオンラインギフトカードの購入を促された」という。

これはSNSアカウントの乗っ取りなどでも散見される手口であり、恋活特有の問題ではない。だが、悪事を働こうとする個人や業者は後を絶たない。恋活サービスの市場が拡大し、多くの人が集まる場になればなおさらだ。運営側の継続的なセキュリティ強化が求められる一方で、ユーザー側も良し悪しを理解する必要があるだろう。