ツアー参戦初年度で女王争いを演じたイ・ミニョン そのスイングを徹底解説(撮影:村上航)

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今季国内女子ツアーで活躍した注目選手のスイングから強さの要因を探る“Playback LPGATour2017”。第8回は今季日本初参戦ながら最後まで賞金女王を争ったイ・ミニョン(韓国)。2015年に患った腎臓がんから復活を果たし、ついた異名が“不屈のゴルファー”。その豪快ショットを上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏に解説してもらった。
【連続写真】世界1位に通ずる“不屈のゴルファー”ミニョンのスイング
ツアー2勝を挙げ、賞金ランキング2位と活躍したイ・ミニョンさんですが、スイングを見れば、その活躍も当然と納得できます。特に驚かされるのは、アドレスで正面を向いていた顔が、インパクトでは目標の反対側を見ていることです。これは、川岸史果さんや松山英樹選手にも通じますが、ヘッドスピードを生む大きなポイントです。体が開かないことが大切なのはもちろんですが、それと同じくらいに顔が開かないことも重要です。しかも、右肩が下がらないので肩をレベルに近い状態で回すことができます。おそらく本人の意識の中では、右足の前に仮想のボールがあり、それを打つイメージでクラブを下ろしてきているのでしょう。
バックスイングでは、ウエアにできるしわの数を見てもらえば分かるように、十分な上体の捻転があります。ただ、ボールの下からクラブヘッドを入れたくないのか、ダウンスイングではややアウトサイドからクラブを下ろし、インパクト後は左サイドに振り抜いています。本来なら大きなスライスが出てもおかしくない動きですが、それを防いでいるのが左手のグリップです。写真を見ると分かりますが、極端なフックグリップで握っています。ボールをつかまえやすくすることで、スイングではスライスの動きをしていても、クラブフェースの上でボールが滑らないようにしているのです。カット気味に打つスライスの動作をフックグリップで帳消しにして、ストレートに近いフェードボールを打っています。男子のワールドランキング1位であるダスティン・ジョンソン(米国)も同じフェードヒッターですが、やはり左手を極端なフックグリップで握っています。パワーフェードを打つ人の共通点ではないでしょうか。
また、下半身を見ると、アドレスからインパクトまで左足のツマ先が少しも開かず、左ヒザの位置、角度もほとんど変わっていません。左ヒザが常にボールを見つめたままインパクトを迎えています。インパクト後に右足の蹴りが入り、腰を回していますが、理想的な下半身の使い方といえるでしょう。まるで両ヒザの間に何か挟んでいるかのように、両ヒザの間隔と高さが変わらないところも素晴らしいですね。アドレスとインパクトの写真を見比べると、下半身の形がほぼ同じです。せいぜいインパクトで腰がすこしだけ回っている程度です。それだけミート率も上がり、スイングの再現性が高くなります。
基本的にミニョンさんは、体とグリップエンドの距離の取り方がうまいと思います。スイング中に懐をつぶす動きがありません。にもかかわらず、ダウンスイングでは、左ヒジよりも右ヒジのほうが20センチほど下にあるので、クラブを十分に引きつけています。インパクト後も体とグリップエンドの距離を近づけることなく振り抜いていますが、まさにいいプレーヤーの特徴だといえますね。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。上田の出場試合に帯同、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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