10月11日、愛知県長久手市にオープンしたIKEA長久手。開業初日には大行列となりましたが、同店周辺は今後も大型商業施設が出店を予定しているなど、激しい競合も予想されます。なぜIKEAは敢えてそのような地区で勝負をかけたのでしょうか。今回のメルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では著者の理央さんがMBAの視線でIKEAの戦略を詳細に分析しています。

IKEAに学ぶコト消費の実践方法

私の地元である愛知県長久手市に、東海地区では初となるIKEAがオープンした。各種報道によると、オープン初日には開店の10時前に、約2500人が行列したとのこと。私の友人は、暑い中、2時間待ちと聞かされ驚いたが、お店の方が並んでいるお客様に、お水のサービスをしているということを、SNSで投稿していた。自動車での来店者も多かったようで、駐車場への列が、名古屋市との境界線あたりまで来た、ということだった。

● 開店前から2500人が行列 東海地方初出店イケア長久手がオープン

IKEA長久手では、年間400万人の来場者数を見込む。これは国内のIKEAグループの中では、神奈川のIKEA港北店に続く来場者数とのことだ。

消費が冷え込んでいる中、2500人以上が2時間待ちになる人気の源泉はどこにあるのか、非常に興味深い。

IKEA長久手店の環境とターゲティング

IKEA長久手店が出店したこのエリアは、名古屋市に隣接している、比較的新しい住宅地で、若い家族連れが住む集合住宅や一軒家も多い。また、その層が好みそうなイマドキのカフェやベーカリーなども多く、愛知県下ではトップクラスの人気のエリアで、ライフスタイルの雑誌などでもよく特集が組まれている。

イケア日本法人のヘレン・フォン・ライス社長は同日、「周辺地域には若い世代や子育て世代も多く、非常に可能性があるエリアだ」とのコメントを出したそうだ。IKEAがターゲットとする若い家族層が多く、総数も伸びているイメージの良いエリアに出店をする、という戦略であろう。

一方で、人気があり購買に意欲的な層が住んでいたり、ショッピングに来たりするというエリアでは、当然競争も激しくなる。実際、IKEA長久手店のすぐ近くには、昨年12月にオープンしたイオンモールがあるし、11月には、セブン&アイホールディングスが、隣接する日進市に、飲食店中心の商業施設である、「プライムツリー赤池」を出店する。

ターゲット層が多く、イメージが良いが、競合が激しく、苦戦しそうなエリアに、なぜ、IKEAは出店するのだろうか? 上記の視点は、売り手側の視点からの考えである。これを買い手側の視点に変換してみよう。

核になるターゲット層の30〜40歳代の子連れ家族層が、休日に家族で楽しみたい、または、買い物に行きたい、IKEAにするか、イオンに行くか、どちらかを一つだけ選ぶ、という、いわばペイオフの状態になるとは限らない。したがって、イオンやセブンと顧客を取り合う、ということだけではなく、逆に、このエリアへの集客による相乗効果を狙う、という考え方もできる。取り合いと相乗効果のどちらを取るか、どう折り合いをつけるのか、という考えがまずはベースにあるのであろう。

次に、IKEAのコンセプトは、タグラインにもあるように、「やっぱり家が一番」。家具や雑貨を販売する小売業ではあるが、前面に押し出しているのは、「他社よりも安い家具」ではなく、「あなたの楽しい生活」になる。こうなると、イオンやセブンと、価格や品揃えの点数といった、属性レベルで「差別化」する必要はなく、楽しんで買ってもらう、という情緒価値のレベルでの訴求での、独自化をしていけばよくなる。これにより、来店する理由が明確になり、選ばれる軸が価格などではなく、楽しさに変わる。

中小企業はIKEAから何を学ぶべきか?

では、我々中小企業はIKEAから何を学ぶべきか?

まずはいうまでもなく、ターゲット設定を明確にすること。年代や家族構成に加えて、「おしゃれなことが好き」「家族を大事にする」といった、消費者インサイトを含めた設定が重要になる。

次に、戦うのに十分な市場があるかを見極める。IKEAの場合では、ターゲット層が多く住む、また、隣接する名古屋市東部や日進市からの集客も見込める、という点を考慮に入れるということになる。

3点目としては、想定顧客層が来店する理由を明確にすること。その際に、属性レベルによる顧客層の顕在的なニーズへの対応のみでなく、潜在的な需要があるかどうか、また、来店するときに感じる、「楽しさ」や「刺激」などの顧客体験を明確にすることで、不要な差別化戦略を避け、値引き合戦に巻き込まれない努力をすることが重要だ。

モノや情報があふれている中、もはや値引きで売れる時代は終わったと考えるべきだ。イオンが映画館を併設し、飲食を充実させることで、ショッピングにつなげているように、非日常を演出することで、顧客をショッピングというエンタテイメントに持ち込むことが、「コト」消費と言える。そうすることで、多少高くてもニーズに合えば売れるのだ。小売業は、消費の最前線にいる。そのため、顧客を知る一番の業種でもある。同業種に限らず、様々な業界の企業が参考にできる事例である。

image by: Tanasan Sungkaew / Shutterstock.com

出典元:まぐまぐニュース!