孤独でしがない中年男が最強の戦士ネクロボーグと化して戦いの渦に身を投じてゆくバイオレンス・スプラッター『MEATBALL MACHINE -ミートボールマシン-』。2005年に公開され、国内外で高い評価を獲得した同作から10数年。謎の生物に操られたヒトとマシンの複合体、ネクロボーグが死闘を演じる世界観はそのまま受け継ぎながら、より過激に生まれ変わったバイオレンス・スプラッターが、今夏公開の『蠱毒(こどく) ミートボールマシン』だ。

本作は、ワールドプレミア上映だった「サウス・バイ・サウスウエスト2017」を皮切りに、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭をはじめ、多くの国際映画祭での上映が決定している話題作で、それもそのはず、熱烈なファンが多い西村喜廣の監督作なのだ。前作で特撮・造型を手がけた氏が満を持して自分でメガホンを握った最新作に込めた熱い思いとは!? そして地元・浅草、東京スカイツリーでロケを敢行した撮影の驚愕の裏話とは――。

――本作は、東京スカイツリーで有名になった押上と浅草近辺でロケを行っていて、下町が舞台の作品になっていますね。

僕は浅草生まれで、ずっと浅草なんです。吉原神社でやっているお化け大会の審査委員長もやっています。予算がなかったので近所で撮ることにしました、ご近所ムービーですね。押上近辺と浅草は吉原でロケしましたが、よく観ると一般のお客さんも映っていますよ(笑)。

――え!?

お客さん。スタッフに「大丈夫ですか?」と言われましたが、お客さんだからいいかなと(笑)。ロケ地に関しては何が一番重要かを考えた時に、この作品は造型とアクションが大切なわけなんですね。であれば住み慣れている台東区や墨田区で撮ったほうが、僕が自由に撮れると思ったから。それと吉原の青年部と元々知り合いなので、大変なことは全部彼らが仕切ってくれたので、自由に撮影できましたね。

――今回は監督として作品に参加していますが、特殊造型だけの時に比べて、自分の表現が存分に追求できそうですね。

特殊造型の仕事はお金になるのですが、「死体の肩しか見えていない」「何にも見えていない」ということがあります。そういう不満は、下請けの業者としてはあります(笑)。そのフラストレーションがたまって、自分の映画になりますね。それが今回で言うと、『蠱毒 ミートボールマシン』。自分の頭の中のイメージがあるから、無駄のない造型を実現していますよ。

――本作は夏休み真っ只中の公開ということで、西村監督のファンだけでなく、幅広い層の映画ファンにアピールしたいですよね。

最近は、マンガ原作映画に行っちゃいがちですよね。特にハードな作品をすすめたいわけじゃないですが、ほかのものも観ればいいのに、とは思います。真面目な話、1980年代はスプラッター映画ブームで、すごく多くのお客さんも観に行っていた。その後、宮崎勤事件などが起こって、メディアが誇張してスプラッターに対して疑問を提案していましたよね。親もスプラッターを子どもたちに見せない状況を作ってしまって、それがいまだに続いている。それって、本当に悲しいことだと思うんですよね。

――とてもよくない状況ですよね。子どもたちに隠してしまうと、何が悪いかわからないまま育ってしまうので、かえってよくないという。

映画は映画、現実は現実じゃないですか。その境目を教えないから、観客として本当に楽しめなくなってしまった。津波を出すと、「無理、無理!」ってなりますよね。映画だよ、これって。小説と一緒なんですよ。津波で怖がらすだけじゃなくて、フィクションである映画の中での津波の意味を伝えたいわけですから。そこがわかっていない時代になっていますよね。

――最近ではテレビがつまらなくなっていると言われますが、映画くらいは面白いままでいてほしいですよね。

何でもかんでも自主規制なんですよね。アニメーションならいいのか、原作があればいいのか、そういう話になっちゃう。しかも、オリジナルストーリーの映画を撮ることも大変じゃないですか。だから、そういうことをちゃんと実践していかないと、オリジナルがなくなってしまいますよ。海外に行くと、オリジナルが観たいって皆が思っていますよ。ただ、問題もあって、スプラッターやホラーはオリジナルがあるんだけど、つまらない作品も多い。

三池(崇史)監督が、日本を代表する大作映画の監督になっちゃいましたよね。それはそれで素晴らしいと思うのですが、それも大きいと思いますね。下の世代が育っていないことも問題かもしれない。やっちゃいけないことをやる人が少なくなってしまったんで、せめて自分くらいは、みたいな思いはあります(笑)。(取材・文:鴇田崇)

『蠱毒 ミートボールマシン』は8月19日(土)よりロードショー。


(C)2017 キングレコード

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