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岩政大樹 西村さん自身の今後の目標は?
 
西村雄一 次の1試合に全力を尽くすことです。大会の規模やカテゴリーに関係なく、レフェリーがやることはどの試合も同じ。少年サッカーの試合もワールドカップの試合でも、同じ様に選手のために全力を尽くすようにしています。

 ところで岩政さん、日本には4級のお父さんお母さんレフェリーから1級まで何人くらいいると思います?
 
岩政 結構な人数がいますよね。
 
西村 26万人いるんです。
 
岩政 えっ⁉
 
西村 都道府県のカテゴリーでは、相互審判をしなければいけない関係で、必ずチームに有資格者のレフェリーを登録しなければいけない。よって、この人数になっています。
 
岩政 すいません。数千人だと予想していました。
 
西村 26万人のなかで、Jリーグやなでしこの審判をしているのが260人前後。ですから0.1パーセントのレフェリーが、トップリーグの試合を担当しているんです。
 
岩政 それだけ選りすぐられたレフェリーでも、ひとつのミスで選手やサポーターの反感を買ってしまう。難しい仕事です。
 
西村 レフェリーの印象が一度悪くなると、かなり長い間みなさんの記憶に残ります。もちろん、レフェリーも最善を尽くしていますが、そんな時は、だいたいどのスタジアムに行っても「また西村だよ」と言われます。イメージを覆すのは、非常に難しく大変ですね。
 
岩政 西村さんの理想が実現すると忘れ去られるのに、悪い印象だけは残ってしまう。それはつらそうですね。
 
西村 確かに、そうなるとレフェリーはつらいですね(笑)。でも、選手の夢を支えるという強い情熱をもって毎試合やっています。
 
岩政 つらい時の対処の仕方はありますか?
 
西村 サポーターの皆様からのご意見やお叱りは、当然あることだと思っています。それに、選手のほうが、サポーターから厳しいことを言われていますからね。
 
岩政 やっぱり凄いですよ。犠牲心の塊というか。
 
西村 いろんなサッカーの楽しみ方があると思いますが、やっぱりレフェリーだからこそ味わえる楽しさもあります。学生時代に見ていた岩政さんが、鹿島の主力になり、日本代表にもなった。その過程を近くで見られるのは嬉しいです。
岩政 西村さんは、そういう自分のやり方をレフェリー業界で話すことはないんですか?
 
西村 悩んでいるレフェリーにアドバイスをしますが、私の言うとおりにしても上手く行くとは限りません。結局、いろんなやり方からそのレフェリーがスタイルを築くもので、解決策は自分で見つけなければいけない。

 ですから、ミスがあっても正直にやっていくべきだと話しています。岩政さんは今、関東1部リーグでプレーしていますが、そこに若いレフェリーが来ると、戸惑いませんか? どうしたって岩政さんの経験のほうが上だから、文句を言いたくなる場面もあると思います。
 
岩政 そうなんです。だから、ここ数試合はレフェリーに合わせるようにしました。レフェリーの方が私に対抗してくるので。
 
西村 そうでしょうね(笑)。
 
岩政 私なりに若いレフェリーの方のことを考えていろいろ話はするんですが、どうも逆効果のようで……。
 
西村 私も経験しましたが、自分のミスは、レフェリー自身が一番分かっているんです。ただ、そこを突っ込まれると反発してしまうこともあります。でも、それでは良くない。我々レフェリーは第三者、プレーの真実を知っているのは選手だという発想が大事かもしれません。

 例えば、ラストタッチは選手のほうが分かっているかもしれない。レフェリーはそこで間違いだと気づいたら、その時は選手に正直に伝えてみる。もちろん、選手に咎められますが、次に同じような場面を迎えた時に、今度は選手に「今のはあっていたよ」と言ってもらえたら、信頼関係ができるはずです。