原川、チョ・ドンゴン(9番)のゴールで2点を先行した鳥栖だが、後半に3発を許し逆転負けを喫してしまった。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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[J1リーグ18節]鳥栖 2-3 川崎/7月8日/ベアスタ

 川崎を相手にボールを持たせながら、得意のプレッシングから高い位置でボールを奪うと素早く攻撃を仕掛けていく。その狙いがハマり、MF原川力のPKで先制しさらにFWチョ・ドンゴンのヘディングシュートでリードを広げて前半を2-0で終えた。マッシモ・フィッカデンティ監督は「前半は完璧と言っていいような内容だった」と満足げに振り返った。

 しかし、後半開始から川崎が中村憲剛と登里享平を投入すると、流れは一気に川崎へと移った。中盤で中村がボールを持つと、川崎のFW小林悠、MF阿部浩之など前線の選手たちがバイタルエリアで自由に動いて、鳥栖の中盤とディフェンスラインの間でボールを受け、さらにサイドに開いた登里や大外に張り出した左SBの車屋紳太郎へと展開していく。この変幻自在の動きに鳥栖の守備は全体的に下がってしまった。

 中盤の底で構える鳥栖の高橋義希は「後半は相手が前線に残るといよりは、前線から中盤に落ちてくる選手が多くなり、なかなか相手を掴みきれなかったところがあります」と振り返り、MF原川力は「後半は徐々にプレスに行けなくなったというか、中盤の3枚の脇のところでうまくボールを受けられる回数が多かった」と話した。

 川崎の攻撃がうまかったこともあるが、その原因となった大きな原因は鳥栖が意思統一できなかったことにある。2シャドーの右に入ったFW小野裕二は「後半はちょっと中途半端になったのかなと。前の選手は前半みたいになるべく高い位置で取りにいったし、後ろの選手は(中村)憲剛さんが入ってきてノボリ(登里)くんが左にいて、さらにワイドに車屋くんがいて(後ろに引っ張られた)」と話す。

 鳥栖の武器は前線からのプレッシングだが、それはコンパクトな陣形が整っているから成り立つもの。小野が話したように、前からプレスを仕掛けたいFWと、下がって相手を待ち受けたいMFとDFに分かれてしまったら、その間にできたスペースを使われるのは明らか。
 
 前と後ろが分断されると攻撃にも支障をきたす。たとえボールを奪ったとしても、前線の選手が近くにいないため効果的にボールを運ぶことができず、得意のカウンターに移れないからだ。この試合でも原川や福田がボールを奪っても前線との距離が遠く、相手に奪い返される場面が目立った。

 
 今季の鳥栖は18試合中13試合で先制点を挙げている。しかし、その13試合の結果は6勝3分4敗と、先制点を勝利に結びつけられる試合は5割に満たない。ちなみに昨季は14試合で先制点を挙げて、9勝4分1敗と勝ち切る試合が多かった。

「リードしている中でのゲーム運びというのはずっとこのチームの課題だと思いますし、それが改善されていないと改めて感じました」と原川は悔しそうに話した。

 90分間すべての場面でプレスに行くのは、いくら走力のある鳥栖でも不可能。昨季までも鳥栖は前線からプレスに行く守備と、ゴール前でブロックを作る割り切った守備を併用してきた。監督からの指示を待つのではなく、ピッチに立つ選手たちが、「今は引いて守る」のか、「前からプレスに行く」のかを状況に応じて意思統一しなければ、いくら先制点を挙げても相手に主導権が移ったら今後も勝ちきることは難しくなる。
 
取材・文:荒木英喜(フリーライター)