チームアタックの急先鋒となるのがレフティーの花田(7番)。小気味いいドリブルでアクセントを付ける。写真:白石秀徳

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 6月6日、インターハイ熊本県予選の決勝が八代運動公園陸上競技場にて開催され、東海大学付属熊本星翔がルーテル学院を1-0で撃破。39年ぶりに全国への扉を開き、夏の本大会出場権を得た。
 
 39年ぶりとはいえ、気分的には初出場に近いだろう。前回の出場は校名が東海大二だった時代の話で、当時から現在まで強化の連続性があったわけでもない。
 
 現在のサッカー部の本格的な強化が始まったのは、校名を東海大星翔に改めた2012年から。人工芝のグラウンドを整備し、2013年からは熊本国府、国見などで監督を務めた経験を持つ瀧上知巳総監督を招聘。大学サッカー部の強化とも連動させながら、練習に励んできた。
 
 もっとも熊本は、この決勝で当たったルーテル学院、あるいは熊本国府、秀岳館といった私立の強豪に加えて、名門の県立校・大津までいる大激戦区だ。県決勝でPK戦までもつれた2年前の選手権予選など“あと一歩”という大会はあり、昨年度の選手権予選も決勝で敗退。優秀な選手が集まるようにはなっていたが、なかなか「全国出場」という結果を残せなかった。それが強化6年目にして、ついに激戦区を抜け出し、宿願を果たしたのだ。
 
 チームを率いるのは31歳の吉岡宏樹監督。高校時代はFW平山智也(元名古屋グランパス)らと共に東海大五(現・東海大福岡)のMFとして活躍し、福岡県国体選抜で10番を背負う技巧派だった。ひとつ下の代には清水エスパルス、湘南ベルマーレなどでプレーしたFW財津俊一郎、ふたつ下には元日本代表MF藤田直之(ヴィッセル神戸)がいる。サッカー部の本格強化がはじまった初期から携わり、ここまでチームを導いてきた。
 
 チームの哲学、方向性は一貫して、大ざっぱに蹴るのではなく、「しっかり後ろから繋いでいくスタイル」(MF花田駿)。インサイドキックでのグラウンダーのパスを組み立ての基本にしながら、相手のDFとMFの間にできるスペースを利用しながらゴールを狙っていく。テンポ良くボールが動き、ひとの動きも連動しているときが星翔のペースだ。
 
 そうした観点で見れば、ルーテル学院との決勝は物足りなかったかもしれない。選手たちも試合内容に話が及ぶと、「自分たちのサッカーをできていないところがあった」(MF吉岡涼斗)など、一様に険しい表情を浮かべた。こうしたリアクションに接すると、このチームが勝利以外のどういった側面にこだわりを持っているのかがよく分かる。ただ、裏を返せば、思うように試合を進められない難しい試合展開であっても、しっかり勝利を掴める力強さがあるのだ。
 
 吉岡監督は大会前の状況を「正直、不安しかなかった」と苦笑いと共に振り返る。「リーグ戦では毎試合のように失点していて、内容も良くなかった。怪我人も出ていたし、トレーニングでも良くなかった」という。
 
 この感触は選手側も共有するもので、花田は「大会の2週間前までは練習の雰囲気も上がっていなかった」と明かし、GK深松裕太朗も「チームの中に問題があった」と認める。しかし、選手同士で話し合いを繰り返して改善に努めつつ、いざ大会が始まると、「一戦ごとに団結力が増していった」(深松)。終わってみれば、「本当に試合を重ねるごとに、ひとつずつ強くなっていく感触があった」(吉岡監督)と、右肩上がりにチームワークが向上。決勝ではセットプレーで奪った先制点をチーム一丸の守りで跳ね返し、嬉しい全国切符獲得となった。
 
 チームの肝はパスワークにあり、「持ち方が独特で、バイタルのところを使いながらラストパスを含めた仕事ができる」(吉岡監督)と評されるレフティーの花田を軸に、組み立てはハイレベルだ。151センチと小柄ながら、馬力と変化のあるドリブルでアクセントを付ける、元U-15日本代表候補の吉岡の存在も見落とせない。本人は決勝の出来に満足できなかったようで、「全国では特長であるドリブルからのシュートをもっと見せたい」と意気込む。安定感のある守護神・深松を軸にしたディフェンスも大会を通じて自信を深めており、全国で“腕試し”となる。
 
 以前から注目校として名が挙がりながら、なかなか県外へ飛び出せなかった“熊本の眠れる獅子”。来たるインターハイでは、激戦区・熊本の代表校らしい、熱い戦いを期待したい。
 
取材・文:川端暁彦(フリーライター)