2017年5月10日、デビュー25周年を迎えたMr.Children。0時ちょうどに配信限定ベストアルバム『Mr.Children 1992-2002 Thanksgiving 25』『Mr.Children 2003-2015 Thanksgiving 25』を2作同時リリースした。


ところで今回の配信限定でのリリースに対して、古くからのファンの一部からは「意外だ」との声もあがっている。
というのも以前、ボーカルの桜井和寿は「配信よりもCDを大事にしたい」という趣旨の発言を残したからだ。

桜井和寿が語った「CD愛」


一例として挙げられるのが、2008年12月12日放送の『僕らの音楽』(フジテレビ系列)での、かねてから桜井さんが敬愛する伊集院光とのやり取り。

他のアーティストが音楽配信をする中、当時のMr.Childrenがほとんど配信に手を出していないことに話が及び、その意図について桜井さんは「音楽というものが単にLとRの情報であるのがすごくさみしい。音楽ってもっと色んなものをパッケージ出来るものだと思う」と説明。

桜井さんによると、CDを触れる行為を通して、CD屋に買いに行った際の景色や手に取るときのドキドキなどを味わうことができるため、より価値があると思うし大事にしたいというのだ。
そのため、対談でも「もうちょっと時代に抵抗してたい」と語っていた。

「CDを大事にしたい」という考えは、昨年11月よりスタートした「I ※ CD shops!」(文中※はハートマーク)プロジェクトにも表れているように思われる。
このプロジェクトは、ライブで訪れた街にあるCDショップに訪問し、直筆サインが書かれたステッカーを置いてもらう。そこのショップでCDを買った人にそのステッカーをプレゼントするというものだ。

実際の直筆サインステッカー



プロジェクトを開始するにあたって、桜井さんはMr.Childrenのオフィシャルサイトにコメントを発表。

それによると、「これだけ配信の時代になって、お客さんがCDをなかなか手に取らなくなった現在、なおも音楽に対する愛情を持ち続けながらCDショップを営んでいる方へのリスペクトと親愛の気持ち」から企画したと説明。

さらには、「CDショップの方々と一緒になって、『CDを手に取る喜び』『お店に足を運ぶワクワク感』を、 改めて感じてもらえるようなプロジェクト」にしたいとの抱負も述べている。

CDが売れない事よりも怖いのは?


しかし実際は、CDを大事にしたいという思いがありつつも、CDが売れなくなっている現状についてはある程度仕方がないという考えを持っているようだ。

今年4月、桜井さんの親友でもあるスガシカオが出版した『別冊カドカワの本 愛と幻想のレスポール』には次のようなエピソードが紹介されている。
同書によると桜井さんと飲んだ際、「『CDが売れなくなってる』みたいな話より、もっと大事なことがある」という話題になった。
音楽を聴く手段は時代によって変わるため、CDが売れないのは仕方がない。それよりも、「一番怖いのは、CDがなくなることじゃなくて、みんなの心の中において音楽の影響力が薄れることだよね、って話に落ち着いた」とスガは明かしている。

桜井さんが抱く音楽の影響力が薄れることへの危惧は、2009年に発売された『LuckyRaccoon vol.31』のインタビューでも次のように語られている。
「CDの売上がどうのこうの、配信がどうのこうのって言うけど、でも本当にその音楽を聴いた瞬間に自分の人生が変わるくらいワクワクしたり、ドキドキしたり、せつなかったりする音楽が減ったから、見捨てられてきてるんだと思うんです」

桜井和寿が抱く危機感


そして近年、桜井さんが抱く危惧はより大きなものとなっているのではないだろうか。


2015年5月に発売された『ROCKIN'ON JAPAN 2015年7月号』でインタビューに応じたときのこと。

このインタビューで桜井さんは、「Mr.Childrenって、さあこの指とまれっていうサビでみんなで思いを共有するっていう。それをお茶の間レベルでちゃんとやる存在だったけど、もう音楽全体がそれを必要としてないかもしれないと思った」と明かし、「どこにボールを投げていいのかわからないっていうのはすごくありました」との迷いを語っている。

確かにMr.Childrenが『名もなき詩』や『innocent world』といった名曲を残してブレイクした90年代の音楽シーンと最近の音楽シーンを比較すると、「みんなが知っている、歌える」曲が減っていることは間違いない。

『MUSICA 2015年 01月号』でもその件に言及した桜井さんは、皆の心に当てにいった曲を作ってはいるものの、難しいと次のように認めている。
「うん、当てにはいってます。でも……レスポンスが遅いというか…………うーん、難しいですね(笑)」

また同インタビューでは、現在の音楽シーンで戦うことの難しさについて、「だって投げてもすり抜けていくんですよ。その感覚はありますよね」とも語った。

大きな反響を集めたアルバム『REFLECTION』


では、そんな音楽シーンで戦っていく上でMr.Childrenはどんなことを行っているのだろうか。一言でいうと、様々な新しいことに挑んでいる。
特にブレイク前から二人三脚で歩んできたプロデューサー小林武史から離れ、セルフプロデュースとなった2014年以降は顕著だ。

なかでも18thアルバム『REFLECTION』(2015年6月4日発売)での取り組みはとても大きな反響を呼んだ。
アルバム『REFLECTION』自体も、全23曲収録のUSBアルバムなどが収録された『{Naked}』と全14曲収録のCDアルバム『{Drip}』の2形態発売で話題を集めたが、特に画期的だったのは発売までのプロモーション手法。


アルバム発売後にそれを引っさげてのツアーを行うのが通常の流れだが、このときのMr.Childrenはなんと、ツアーで発売前の楽曲を披露した後に、アルバム『REFLECTION』を発売するという真逆のアプローチを取ったのだ。

楽曲の"届け方"を強く意識したこの手法は、楽曲により大きな新鮮さを与えた。この功績が評価され、同年のスペースシャワーTVが選ぶBEST NEW VISION 賞(最も革新的な活動をしたアーティストに授与される賞)も受賞している。

後輩バンドと共演するMr.Children


近年のMr.Childrenは他にも色んな試みをしている。

2015年には、Zepp対バンツアー「Mr.Children 2マンLIVE」を実施。くるりやASIAN KUNG-FU GENERATIONらを対バン相手として迎えた。
さらに同年15年の11月28日には「RADWIMPSの胎盤」でRADWIMPSと、そして今年4月に行われた「ONE OK ROCK 2017 “Ambitions” JAPAN TOUR」ではONE OK ROCKと、それぞれ招かれる形で共演を果たしている。

このように、ここ最近のMr.Childrenは後輩バンドと積極的に交流の機会を作っている。

Mr.Childrenが行うホールツアー


また、昨年からはホールツアーも精力的に行っている。(『虹』、『ヒカリノアトリエ』)。

ブレイクが速かったMr.Childrenはすぐにアリーナ規模のライブをこなすようになったため、ホール規模の会場でのライブ経験が少ない。
そのため、このホールツアーはMr.Childrenに良い刺激を与えているようだ。桜井さん自身も大きな会場とは異なった、「どんどん音を増やすより、逆に引く」(『LuckyRaccoon vol.44』)演奏をするなど、新しい引き出しを増やせていると語っている。

この手ごたえは、「ホールツアーが続く可能性はあるか?」という質問に対して、「そうですね、ライフワーク的な感じで」(『LuckyRaccoon vol.44』)と答えていることからもその大きさが分かる。


こうしてみていくと、昔からのファンを中心としたコア層に向けてはホールツアー等を行いつつ(実際にホールツアーでは通好みの"レア曲"が多数演奏されている)、積極的に後輩バンドと共演をすることなどで、これまであまりミスチルを聞いたことがなかった層に対しても接点を作ろうとしているのではないだろうか。

その点でいうと、今回の配信限定ベストアルバム『Mr.Children 1992-2002 Thanksgiving 25』『Mr.Children 2003-2015 Thanksgiving 25』は、CDを買う習慣がない新たな層に向けた施策といえそうだ。

6月10日からは全国ツアー『Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25』がスタート。今年のMr.Childrenの活動からはまだまだ目が離せない。

※イメージ画像はamazonよりヒカリノアトリエ