コンビニエンスストアにまつわる様々な話題を、食の流通やコンビニに詳しいライターの日比谷新太さんが、徹底的に分析する当シリーズ。前回の「レジ横和菓子」に続いて今回注目するのは、ここ数年で商品数が飛躍的に増えた「エナジードリンク」。なんでも、これまで独り勝ち状態だったレッドブルの勢いに、このところ陰りが見えるとのことですが……。

コンビニで健康ドリンクはどれぐらい売れてるのか

コンビニエンスストアにおける飲料売上の中で、健康ドリンク(栄養ドリンク)の売上シェアについて簡単に算出してみますと、今年の夏の売上で約13%の売上シェアです。これは売上の大きい順に「お茶」「水」「コーヒー」という御三家に続く、中堅どころの売上シェアになります。

コンビニ業界における健康ドリンク市場は、ここ数年間「エナジードリンクブーム」により大きく伸長し、活性化してきました。そのエナジードリンクブームは、皆さんもご存知のレッドブルが先駆者として開拓し、その後多数の飲料メーカーが新商品を発売することで、市場を大きくしてきました。

もともと健康ドリンク(栄養ドリンク)といえば、疲れたおじさんの飲み物、体調不良時の栄養補給に、といったイメージがありましたが、各飲料メーカーはOLなどの女性向けの新市場開拓を進めてきました。そこに新たな客層として若者も追加することに成功してきたのです。

そんな健康ドリンクですが、種類(カテゴリー)としては大きく4つに分類できます。

(1)エナジードリンク

レッドブルシリーズ(レッドブル・ジャパン)

モンスターシリーズ(アサヒ飲料)など

(2)肝胃腸

ウコンの力シリーズ(ハウスウェルネスフーズ )

ヘパリーゼシリーズ(ゼリア新薬)など

(3)スタンダード(男性)

リポビタンDシリーズ(大正製薬)

アリナミンVシリーズ(武田薬品工業)など

(4)スタンダード(女性)

キレートレモンシリーズ(ポッカサッポロフード&ビバレッジ)

チョコラBBシリーズ(エーザイ)など

健康ドリンクはターゲットが細かくセグメントされており、また各セグメント毎に有力な商品が存在するため、新規参入が比較的難しい市場です。このような状況下で、レッドブルをはじめとするエナジードリンクは、全く新しい顧客を開拓することで成功を収めたのです。

健康ドリンクの売れ筋商品は?

では、レッドブルやモンスターといったエナジードリンクは、実際にどれだけ売れているのでしょうか。下の表はその2つのシリーズに、スタンダード系・肝胃腸系カテゴリーをくわえた4つの商品群が、横軸に書かれた過去3年間の時期において、売上トップ10アイテムのうち何商品を占めたかを、グラフ化したものです。

まずスタンダード系・肝胃腸系のドリンクですが、グラフの(1)の部分を見ていただけるとわかるように、冬になると肝胃腸系の商品が売上上位にランクインする傾向が強まります。これは、我々の消費行動パターンを考えれば理解しやすく、いわゆる「忘年会」需要です。「飲む前に飲む」ということでしょう。

上記以外のシーズンは、スタンダード系が手堅い人気です。具体的な商品名を挙げると、最近ではキレートレモンの売上が伸びて来ており、女性向け健康ドリンクにおいて定番化・売れ筋化してきています。今年6月から始まった、篠原涼子さん出演のTVCMの影響でしょうか。

さて、エナジードリンクに目を向けると、グラフの(2)の部分を見るとわかるように、売れ筋順位に若干の変化が発生してきています。これまで圧倒的な強さを誇っていたレッドブル系の売上が大きく変化せず、2〜3アイテムがランクインする状態のまま推移しているのに対し、モンスター系の売上が徐々にですが伸びて来ているのです。

これはどうやら、容量の違いによる消費者のニーズ変化が起こっていることが原因のようです。どういうことかというと、レッドブルの好調を支えてきた売れ筋トップ商品「レッドブルエナジードリンク185ml」「同250ml」に対して、ターゲットとなる若者から「容量が少ない」「高価」というイメージが持たれているようなのです。

栄養補給を主目的とした他の健康ドリンクと比較して、清涼飲料水寄りの飲用ニーズが色濃いエナジードリンク。そのため、水分を多く摂りたくなる気温上昇シーズンには、需要が伸びてしかるべきなのですが、上記の理由からレッドブルの商品は少々物足りなさを感じられているようなのです。

それに対して、モンスターシリーズは355mlと容量が大きい点が特徴で、販売価格もレッドブル185mlと同じ200円ということもあり、特にこの春以降、売上が伸びてきています。

レッドブルが行った「ニーズの再定義」

そんなニーズの変化に対応するかのように、レッドブルは今夏「レッドブルエナジードリンク330mlアルミボトル」という新商品を発売しました。

これはボトルタイプの商品で、容量は従来より多い330ml。リキャップ式なので、プルタブの飲みきりタイプとは違ってチョイ飲みが可能です。また見た目も、スタイリッシュでカッコイイのです。価格のほうはやや高いのですが、それでも売れ筋ベスト10にランクインしています。

これまでレッドブルは「サマーエディション」「ブルーエディション」「スプリングディション」といった、季節限定のフレーバー新商品を発売してきました。ただこれらの商品は、発売2週目ぐらいまでは売れ筋になるのですが、定番化できないまま売れ筋ランク外に落ちていました。

そこで今回は、ターゲットである若者のニーズを再定義し、「カッコイイ」「大容量」を前面に押してくるようにしたのではないでしょうか。そして販売動向を見る限り、それは成功しているようです。ちなみに個人的には、海外で発売されているモンスターよりも大容量の缶タイプのレッドブルが、すごくカッコイイなと思いますが……。

 

文/日比谷 新太(ひびや・あらた)

日本のコンビニエンスストア事情に詳しいライター。お仕事の依頼はコチラ→のメールまで: u2_gnr_1025@yahoo.co.jp

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出典元:まぐまぐニュース!