3000安打を達成し、ファンの声援に応えるマーリンズ・イチロー【写真:Getty Images】

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殿堂入りの可能性を“あえて”検証、「イチローは球史になくてはならない存在」

 7日(日本時間8日)のロッキーズ戦でメジャー史上30人目の通算3000安打に到達したマーリンズイチロー外野手。12日(同13日)の本拠地ホワイトソックス戦では代打で二塁打を放ち、通算3003安打と偉業達成後も着々とヒットを積み重ねている。50歳までの現役続行を公言する背番号51だが、引退後は有資格1年目での米野球殿堂入りが確実と見られている。ただ、米スポーツサイト「ファンラグ・スポーツ」では、“イチローが殿堂入りするべきか”という点について、あらゆるデータを用いながら“あえて”検証をした。

 記事ではまず、「イチロー・ズズキは殿堂入りするだろう。もしあなたがMVP、オールスター10回出場、ゴールドグラブ賞を10回受賞、シーズン最多安打記録を持ち、通算3000安打を放てば、クーパーズタウン行きのチケットは手に入れたも同然だ」と言及。イチローの実績は殿堂入りに値すると評価した上で「ここで浮上するのが、イチロー・スズキは殿堂入りすべきかどうかという質問だ」とし、「多くの人は、この試みを無意味だと思うだろう」と前置きしながら、あえてイチローが殿堂に相応しい選手かの再検証をスタートさせている。

 イチローの殿堂入りを論議する時、賛成・反対それぞれの意見を支持するデータにあふれている。記事では、あえて殿堂入りに相応しくないことを支持するデータをピックアップ。評価システムの多くがある中でも、選手の勝利への貢献度を測るWARを用いた「JAWS」と呼ばれる指標では、イチローが右翼手の平均を大きく下回っているため「殿堂入りの基準を満たしていない」と提言。一方で、イチローより低い数値に終わっているデーブ・ウィンフィールド、ウィリー・キーラーらが殿堂入りしているという事実もあると紹介している。

衰えを見せぬイチロー、「27歳の時のような若々しさを保っている」

 また、全盛期のイチローが、メジャーで最も重視される評価基準のWARで、アルバート・プホルスやアレックス・ロドリゲスに「遅れをとっている」ことや、初めてシーズン200安打に届かなった2011年以降に「失速を見せた」ことにも注目。13年以降は三振数も増加したことなどを挙げ、「すべての選手は下り坂を迎えるが、イチローの場合は急速で、たちが悪く、深刻だった」とも言及している。

 もっとも、記事では、過去217人という殿堂入り選手の数が「野球史における全選手の1%ほど」であることを紹介しつつ、「もし門戸を広げれば、頭を悩ませるまでもなくイチローは殿堂入りする」と断言。さらに、イチローが他の選手と比べて“異質”であることを強調する。

 まずは「イチローは選手として旬な時期をMLB以外でも数年過ごした」と指摘。イチローが日米通算4257安打を記録した頃にも話題となったが、「日本のオリックスで過ごした時間は、もし彼が初めからアメリカでプレーしていたら、どれほどの成績を残せたか分からなくしてしまった」としている。

 イチローは日本で7シーズンを過ごした後、2001年にポスティングシステム(入札制度)でマリナーズに入団した。日本では通算1278安打をマーク。「たられば」は禁物だが、仮に渡米がもっと早ければ、メジャー通算安打でピート・ローズを上回っていただろうと評価する声は根強い。

 殿堂入りに否定的な視点から始まった検証だが、記事の半ばから検証項目が肯定的なものにシフトしていく。「イチローは彼の世代で最も息の長い選手だ」という項目では、4シーズンで162試合全出場をした事実を紹介。11シーズンにわたり、700打席以上を重ねた。その鉄人ぶりを「イチローは”アイアン・ホース”だった」と称え、「42歳となった今でさえ、27歳の時のような若々しさを保っているように思える」としている。

イチローが切り拓いた道、「イチローがいなければ多くの日本人選手が来ることはなかった」

 イチローは42歳の今も体型を維持し、スピードに衰えは見えない。本人は3000安打達成後の記者会見で「残念ながら(自分の)スピードは上がってしまっている」と、自信に溢れた口ぶりで明かしている。年齢という概念を超越した存在だ。

 また、ヤンキース時代にチームメートだったデレク・ジーター氏は、自身の運営するウェブサイト「プレイヤーズ・トリビューン」でコラムを掲載し、「イチローについて何よりも称賛したいことは、一貫性に関するモデルであるということだ。それは、見過ごされてしまいがちだが、重要なものなんだ」と言及。第一線で活躍し続けることがいかに難しいかを同じスター選手として強調していた。日々の入念なケアを怠ることなく、想像を絶する努力で今も進化を続けるイチローは、間違いなくスペシャルな存在だと言えるだろう。

 そして、記事では最後に「イチローは野球の歴史になくてはならない存在」という項目を用意。「イチローがいなければ、MLBに多くの日本人選手が来ることはなかっただろう。アフリカ系アメリカ人やラテン系の選手が野球の歴史の一部であるように、ヒデキ・マツイやユウ・ダルビッシュ、ヒサシ・イワクマのような選手は、野球文化にとって不可欠の存在だ」と称えている。パイオニアは間違いなく野茂英雄氏だが、イチローの圧倒的な実績が、日本人選手への見方を変えたことは確かだ。

 結局、イチローの粗探しを目的に始まった記事も、最後はイチローを称えざるを得ない状況に。「他の選手ならまだしも、ここでは球史になくてはならない選手の1人、イチローの話をしてきた。彼は殿堂入りするし、(投票権を持つ)BBWAAは正しい判断をするに違いない」と、殿堂入りを保証する結論で締めくくられた。

 米野球殿堂入りの資格を得られるのは現役引退から5年後。50歳まで現役を続ければ、クーパーズタウン行きは遥か先の話となる。ただ、殿堂入りが実現することで、すでに球史に名を刻んでいるイチローが伝説の存在となることは間違いない。