25キロ過ぎがポイント。リオ五輪女子マラソンはここを観るべし1

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日本勢のメダルラッシュに沸く、リオデジャネイロ オリンピック。日本時間14日(日)よる9時30分には、大会屈指の注目種目、女子マラソンの号砲が鳴る。この女子マラソンの観戦ポイントやメダルの可能性について、実況を担当する佐藤文康アナウンサー(TBS)に、リオへ出発する直前、話を聞いた。


「一番いい色のメダルを取りたい」


──今回の日本代表は、昨年の世界陸上で7位入賞した伊藤舞、今年1月の大阪国際女子で優勝した福士加代子、3月の名古屋ウィメンズで日本勢トップの2位だった田中智美の3名が選ばれています。それぞれの調整具合はいかがでしょうか?

佐藤 リオに旅立つ直前の状況について、それぞれの合宿地を尋ねて話を聞いてきました。福士加代子選手の合宿地は、アメリカのボルダー。私は1泊3日という強行日程で取材に行ってきました。

──福士選手は大会前に、疲労骨折か!?というニュースが流れていましたが……。

佐藤 そうですね。6月末に出場予定していたハーフマラソンを欠場してしまったために心配されましたが、ボルダーではケニア選手のペースメーカーをつけ、40キロ走をバンバンやっていました。所属先(ワコール)の永山忠幸監督も福士選手本人も「今のところ順調です」と言っていましたので、問題ないと思います。

──おぉ、それは、朗報というか。

佐藤 はい。痛みもないようです。福士選手は、レース前1ヶ月半くらいの練習で仕上げることができる、調整が早いタイプです。6月末に何か気になる点があったとしても、本人の順調という言葉を信じていいと思います。

──田中選手は?

佐藤 田中智美選手は、長野県・峰の原高原で合宿中のところを取材してきました。田中選手は、山下佐知子監督(第一生命※バルセロナ五輪4位)と二人三脚でずっと歩んで掴んだオリンピックの舞台です。福士選手がスピード系とすれば、田中選手の持ち味はやっぱり、競ったときの勝負強さ。田中選手も非常に順調ということで、「一番いい色のメダルを取りたい」と言ってくれました。峰の原高原のあとは、アメリカ・ボルダーで最終調整をしてリオ入りする計画です。

──伊藤選手は?

佐藤 伊藤舞選手は北海道の千歳での合宿の様子を取材しました。1年前の世界陸上でもう内定が決まり、そこからいちばん準備期間が長かった選手です。千歳で見たら、世界陸上前の足と全く違うんですよ。もう、別人のように絞れていて、筋肉がついていて。あまり目立ってないかもしれないですけど、一番虎視眈々と狙っているのは伊藤舞選手かなと、いう印象です。

──世界陸上も7位で、そのときよりさらにすごい足?

佐藤 ええ、さらに! 所属(大塚製薬)の河野匡監督も「練習としては100%以上できている」ということですし、伊藤選手本人も「あとはもう本番が楽しみです」と言ってくれましたので、期待したいと思います。

エチオピア・ケニアがスパートする前に日本選手が動けるかどうか


──いま、日本選手の世界での立ち位置はどうなっていますか?

佐藤 オリンピックの場合、各国最大3人ずつ出場できるわけですが、まずはケニア勢3人、そしてエチオピア勢の3人がいて、あとはケニアからバーレーンに国籍を変えたキルワ選手。この7人ぐらいがトップ集団を形成するだろうと言われています。日本の3選手には、この7人に割って入って欲しい。さらに、ケニア勢、エチオピア勢の一角を崩して、メダルを狙うというのが、日本勢のひとつの戦い方です。

──ケニア、エチオピア、バーレーン、そして日本の10人ぐらいに注目、と。具体的にこんなレース展開になるんじゃないか、みたいな想定はしていますか?

佐藤 いろんな方にお話を伺うと、終盤まで動かないだろう、という見方をしていました。

──膠着状態が続くだろうと。

佐藤 はい。それはなぜかというと、まず5キロ走って、そこから10キロのコースを3回まわり、35キロからまた別ルートでスタート地点に戻る、というコースなんです。だからその周回しているときにはレースは動かないだろうと。動くとしたら周回が終わるとき、と言われています。だから30キロ過ぎあたりまではスローペースだろうということが予想されます。過去のケニアやエチオピアのレース展開を分析すると、先に出ることはまずない。

──そのなかで、日本人選手は?

佐藤 理想としては、日本選手が25キロぐらいから主導権を握り始め、自分たちでレースを動かすようなレース展開をしたい、というのは3人とも思っているはずです。25キロすぎぐらいですかね。給水の際にちょっと前に出たりとか、そういうところを注意して見ておくと面白いかもしれません。エチオピアとケニアがスパートする前に日本選手が動けるかどうかがひとつポイントになってくるのではないでしょうか。

──コースとしては単調?

佐藤 基本的にはフラットですし、単調だと思います。ただ、ほとんどの選手がコースの下見をできないんです。コース周辺の治安があまりに危険、ということで。特に35キロからゴールまでは、ファヴェーラと呼ばれる犯罪が多い地域なんです。

──ファヴェーラ! 『クレイジージャーニー』で見ました。

佐藤 そうそうそう。自転車での試走もできないと。ただ、日本選手のなかでは伊藤舞選手だけ、去年の12月、リオに行って試走できています。それが、先に決まっていた強みですね。ほかにコースの特徴があるとすれば、海岸沿いを走るので、ちょっと向かい風が強いかな、と。あとは気温。リオ市内は日中、30度近くまで気温が上がりますから対策が必要です。

注射4本が最大の対策


──今回、5キロから35キロまで周回するコースが特徴、ということですが、実況する上でやりにくかったり、逆にポイントがつくりやすかったり、ということはありますか?

佐藤 確かに、オリンピックのマラソンといえば、その開催都市の名所を紹介しながら……という部分はこれまでありましたので、その点ではちょっと物足りなさはあるかもしれません。でもその分、純粋にレースを観戦しやすい面もあると思います。それと、現地での観戦がしやすいらしいんです。同じところを3回まわるので、ちょっと移動すれば、6カ所くらいで見ることができるみたいです。

──ファヴェーラの近くで、観戦は大丈夫なんでしょうか? 

佐藤 みんなで固まって見るとか、そういう規則をつくるようです。ただ、我々報道陣も、一人で動いちゃいけないとか、スマートフォンを街中で使っちゃいけないとか、部屋に帰ったら責任者に連絡しましょう、とか……。そんなマニュアルがあるくらいですからね。

──学旅行みたいな。

佐藤 ええ。そんな出張初めてですよ。報道陣がそうなんだから、選手はそれ以上に大変だろうなぁ、というのは想像できる部分です。

──ちなみに今回のオリンピック、治安以外にもジカ熱などもいろいろと騒がれていますが、アナウンサーの方はそういった対策は?

佐藤 注射を4本打ちました。A型肝炎2本、黄熱病を1本、破傷風1本。

──黄熱病! その単語、野口英世の本以来な気がします。

佐藤 注射4本が最大の対策ですね。しかも、1本打つと何週間か空けなきゃいけないので、かなり前から計画的に打つ必要があったことも大変でした。選手はインフルエンザも打っていると言っていましたから、さらに大変かもしれません。

──急に誰かに代わって、といってもそれも無理、と。

佐藤 リオ市内は大丈夫、という話なので、そこまで打たない人もいるみたいです。ただ、私はサッカーの実況も担当していてマナウスという土地に行くんです。赤道直下、熱帯雨林の近く。そこはリオ市内と違って気温も35℃以上あり、湿度が70%もあるようなところ。特にサッカー場はすり鉢状になっていることもあって、高温多湿で大変みたいです。まあ、行ってみないとまったく見えないところでもありますけどね。
後編に続く

◆リオデジャネイロ オリンピック 女子マラソン
8月14日(日)よる7時〜(レーススタートはよる9時30分 ※日本時間) TBS系列で独占生中継。

(取材日:7月27日)
(オグマナオト)