ドーナッツは難しいやつじゃなくて◯◯しいやつ「甘々と稲妻」5話

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『シン・ゴジラ』も良いけど、1週間に一度ぐらいリラックスして見るアニメで癒されるのも悪くないですよ。というわけで、シングルファーザーの公平と5歳の女児・つむぎ、そして偶然知り合った女子高生・小鳥が一緒においしいごはんを作って食べる『甘々と稲妻』。さっそく先週放送の第5話「お休みの日のとくべつドーナッツ」を振り返ってみよう。


新宿で『スペクター』を観て帰ってきた女子高生の小鳥(演:早見沙織)。映画の内容よりも食べたポップコーンの味に関心があるのは、さすが食道楽かつ健啖家。

地元の武蔵境に帰ってきた小鳥は、つむぎ(演:遠藤璃菜)が知らない金髪の男と手をつないで歩いている姿を目撃。心配になって後をつけてしまう。公園のベンチで男と一緒にコンビニで買ったパピコを食べるつむぎ。子どもってパピコが好きだよねぇ。ウチの娘(4歳)も大好物です。

結局、男は公平(演:中村悠一)の高校の同級生・八木(演:関智一)だと判明。幼稚園やベビーシッターに預けられないときは彼がつむぎの面倒を見ているのだそうだ。子どもを安心して任せられる地元のつながりはとても大切。都会のシングルマザー、シングルファーザーはこういう部分で孤立しがちだ。

パピコを喜んで食べていたつむぎだが、実はドーナツを食べるのをガマンしていた。ドーナツを食べるとお腹がいっぱいになってしまい、最近公平が張り切って用意してくれるごはんが食べられなくなるからだ。小鳥はドーナッツ作りを提案し、つむぎも大喜び。別れ際、つむぎは八木に一緒に撮ったプリクラを渡そうとする。女の子ってプリクラが好きだよねぇ。筆者もそれまで一生撮った分よりたくさん娘と撮りました。

明るい表情の裏側にある親子の悲しさ


後半は小料理屋「恵」でのお料理コーナー。第5話まで進んできたが、前半に何らかのきっかけが発生し、後半は公平とつむぎと小鳥が料理を作って食べてエンドというフォーマットがはっきりしてきた。『孤独のグルメ』などの夜食テロドラマと似た構成だが、『甘々と稲妻』では食べるだけでなく、料理シーンにたっぷりと力を注いでいる。

ドーナツの生地をこね、時間をかけて発酵させる。つむぎが椅子に乗って生地をこねてる最中、さりげなく椅子を支えている小鳥の描写のかゆいところに手が届いている感がすごい。

失敗(揚げる油の温度の問題)を乗り越えて、ドーナッツ完成! 料理の手間と手順を省かないのが『甘々と稲妻』のこだわりだ。ちなみに監督の岩崎太郎は、まったく料理ができない自分とプロデューサー氏が料理しているところをビデオで撮り、公平が料理をするシーンの参考にしたのだという。

しっかり揚がったドーナッツに砂糖をまぶし、チョコをかけているところを見れば、つむぎも前のめりで口からよだれ。もちろん、かぶりつけば満面の笑顔だ。おいしすぎて行儀が悪くなるのはご愛嬌。

「つむぎね、ドーナツね……お菓子かごはんか難しいやつって思ってたよ。次からは、お父さんとお休みの日に食べる、うれしいやつって思う」

この言葉を聞いた公平は、思わず涙ぐんでしまう。基本的には明るい調子で進む『甘々と稲妻』だが、底のほうには妻と母を亡くした公平・つむぎ親子の悲しみが横たわっている。5歳の女の子が母親を失ってさびしくないわけがない。公平が大変そうなのは理解しているから一生懸命気をつかっているけれど、5歳児の気持ちはピンと張っていて、だから第3話ではおいしい手作りハンバーグを一口頬張っただけで号泣してしまった。

公平は必死に仕事と子育てを両立しようとしているが、それはマイナス分をなんとかプラマイゼロにしようとしていつに過ぎず、つむぎに「うれしい」ことを与えるのはなかなか難しい。ドーナッツを作ると決めて、はしゃぐつむぎを見た八木が「楽しそうじゃん」とつぶやくのも、公平親子が悲しみの底に沈んだままだと思っていたからだろう。だから、つむぎが心の底から発した「うれしい」という一言を聞くだけで、公平は泣いてしまうのだ。公平の気持ちだって、つむぎと同じくピンと張っているのだろう。

ドーナッツを食べるだけなら、ミスドで買ってきた方が安いし、手間もかからないし、味だって良いかもしれない。それでも一から作るのは、公平とつむぎ(と小鳥)が料理という楽しい思い出を作っているからだ。つむぎが自分で作ったドーナッツは中心の穴がふさがっていたが、これは彼女の心の穴が埋められたという暗喩なのかもしれない(考えすぎ)。

今回、絵コンテを担当している矢野博之は、長きにわたって『それいけ!アンパンマン』を監督しているベテラン演出家。ちなみに第3話と第4話はこちらもベテランの佐山聖子(『ヴァンパイア騎士』監督など)が担当している。『甘々と稲妻』はカラフルな見た目だが、ものすごく動きが少ない物語の中で登場人物たちのかすかな心情の揺れを描き出している。彼らのようなベテランがそれを支えているのだろう。

さて、今夜放送の第6話は「おともだちとギョーザパーティー」。なにそれ、おいしそうで楽しそう! きっとまた夜中に腹が減るはずだ。
(大山くまお)

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