「気づいたらキスくらいしてるかも(笑)」 植田圭輔×平野 良、『インフェルノ』で念願の舞台本格初共演!
長い付き合いであっても、友人が目の前で号泣する姿を見たことがあるという人はそう多くはないだろう。男同士、社会人になって仕事で知り合った相手ならなおさらである。植田圭輔と平野 良はお互いの泣きじゃくる姿を見たことがある。もちろん、役の上でではない。そんな深い仲のふたりが、奇妙な絆と愛情で結ばれた“親子”を演じるのが、人気コミックを原作とした舞台『インフェルノ』である。「楽しみでしかない!」という彼らの言葉はそのまま、ファンの思いでもある。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
ヘアメイク/神林 匠【植田】、藤沢輝守【平野】




超イケメン役に原作者から思わぬプレッシャーあり…?



――本作は、映画、舞台にもなった『メサイア』シリーズでも知られる高殿 円さんの原作による人気コミックの舞台化作品です。謎の奇病で暗黒街と化した、かつて東京と呼ばれた街を舞台に、その覇権を巡る各国のマフィアたちの戦いが展開します。

植田 まず、共演相手が平野 良さんだということを最初に知らされて、すごくワクワクしました! 実は、舞台でガッツリと共演するのってこれが初めてなんですよね。
平野 え? そうだっけ?
植田 『歳末明治座 る・フェア〜年末だよ!みんな集合!!〜』とか『ハンサム落語』とか、同じ作品に出てはいるけど、考えてみるとガッツリと舞台上で向き合ったことはなかったんだよね。
平野 そうかぁ…、全然、そんな気がしないけど(笑)。
植田 やっと一緒にやれるのかって思いが強いですね。



――植田さんが演じるのは、ロシア系マフィア“コーザ・ファミリー”の御曹司・リッカ。一方、平野さんが演じるのはリッカにより暗黒街から引き上げられ、“血の儀式”を経てリッカの息子となったノエル。年齢の逆転した奇妙な親子ですね。

植田 この物語を良さんと一緒にやるのか! という楽しみもすごく大きかったです。どちらかというと男性好みのマフィアものですが、どう魅せるのか? 決して簡単な芝居ではないなとも思いました。

――平野さんは、最初にオファーが来たときはどんな印象を持たれましたか?

平野 ついにきたか…と。



植田(と現場のスタッフ一同) 何が!? 主語がないよ!(笑) さっき舞台での本格共演は初めてって聞いて「そうだっけ?」って言ってたし!
平野 いや、とりあえず、ありがちな感想を口にしてみました(笑)。正直、ノエルというキャラクターは、かなり控えめに言ってもものすごくカッコいい役なので…これはキャスティングミスだろうと。これを平野に持ってくるとは、なかなか大胆な決断をしたなって(笑)。

――いやいや、そんなこと言うとファンが泣いちゃいますよ。

平野 僕は、高殿先生原作の『メサイア』シリーズにも出ていて、先生にはすごくよくしていただいてるんですが、めっちゃプレッシャー掛けてくるんですよ(苦笑)。「ノエルは私にとって“スーパーダーリン”だから、よろしくね」って。

――すさまじい期待と圧力ですね…(笑)

平野 ノエルは見た目もシュッとしていますからね。各方面から「やせろよ」という暗黙の指令があり…。実際、やせたらみんな、急に優しくなったんですよね(笑)。これをしっかりとキープしていかなきゃ。



――物語の印象は? ノエルは暗黒街出身で、その出自に関してはいまなお謎の多い青年ですね。

平野 高殿先生の作品は、『メサイア』もそうでしたが、クールでスタイリッシュに見えて、泥臭さや人間の心の奥底がすごく丁寧に描かれているんですよね。今回で言うと、人間は生きる環境が変わると、生き方や内面も変わるのか? というテーマが根底にある。アクションもあり、ポップな部分もあるけど、そういうヒューマンな部分を大事に表現したいですね。

――「環境が変わったときに人間はどう変わるか?」というテーマに関して、おふたりは「もし芸能界に入ってなかったら?」と考えることはないですか?

平野 どうでしょうね…? 僕は実際に一度、芸能界を離れて別の仕事をしていた時期もあるので「どこに行っても自分次第だし、何も変わらないよ」という思いもある。一方で“心を考える仕事”という意味で、この仕事はやっぱり特別なのかも…とも思います。



――心を考える仕事?

平野 どの仕事も“表現する”という根柢は同じだと思うんです。違うのはどう表現するか? ITで表現されることもあれば、料理人の手で料理という形で表現されることもある。僕らはそれを目には見えない感情で表さないといけない。そういう意味で、心というものについて考える時間は他の仕事よりも少し多いのかもしれません。



――植田さんは、以前のインタビューで「役者になる前は公務員になりたいと思っていた」とおっしゃってましたね?

植田 そうなんです(笑)。違う世界への憧れはいまでもありますよ。僕自身、すごく影響されやすいタイプなので、自分がやっていないことがすごく輝いて見えたりもするし。ただ、僕らの仕事も確かに特殊ではあるけど、役割を与えられ、次に何をするべきかを考え、状況を円滑に回していくって、普通に就職したとしても、求められる能力ではあるんだろうなと思います。

――共通するものを感じつつ、いまの仕事に特別なやりがいも持っている?

植田 そうですね。いまはこの世界でお仕事させてもらえる喜びを噛みしめてます。まだ10年ですがこの世界で経験を積み重ねてきて、幸せな人生を歩んでるなって。



「熟練の共演陣」! 安定感のあるキャストが集結



――共演陣は、ほとんどの方が何らかの形で一緒にお仕事をされた経験のある方ばかりですね。

平野 そうなんですよ。技巧派の俳優がそろってて。まあ、フレッシュ感ゼロですね。
植田 言葉の選び方!(苦笑) もうちょっとうまく言って!
平野 熟練の共演陣(笑)。安心感がありますね。

――おふたりにくわえて、藤田 玲さんに山内圭輔さん、桑野晃輔さん、藤原祐規さん、唐橋 充さんに中村龍介さん…。まだ、脚本も上がっていない段階ですが、どんな稽古場になりそうでしょうか?

平野 初めてご一緒するのは山内さんだけかな…。
植田 僕もそうです。
平野 これ、下手したら超めんどくさい現場だよ。



植田 稽古や公演の後、めっちゃ酒飲んで、芝居の話を「ああでもない、こうでもない」って話してるネガティブな先輩がいて…。
平野 傍目でそれを「めんどくさいな…」って見ているヤツもいれば、「うんうん、まあまあ、そうだよね」ってニコニコしながら逃げるヤツもいたり…。
植田 目に浮かぶわ(笑)。ホント、面白いメンツそろってますね。

――スタイリッシュなスーツに身を固めたロシア系マフィアを演じるみなさんが、居酒屋でクダ巻いてる様子を想像すると面白いですね(笑)。

植田 いや、改めてこれはすごいキャスティングですよ。みんな、勝手なやり方で天下とりそうな人たちばかりですもん。
平野 そうそう。まさに群雄割拠! でも、芝居が大好きな人たちばかりで、ホント楽しみ。
植田 ビジュアルを見る前から、このキャストでやるって聞いて、ワクワクしかなかったです。
平野 硬いごわごわの紙を揉んで、揉んで、ティッシュくらいの柔らかさにしたようなメンバーだね。



植田 何? そのたとえ(笑)。
平野 芯の強さはあるけど、いろんな経験を経てものすごい柔軟性も身につけてるってこと(笑)。すごく上質な芝居になりそうだなって思います。

――その中でもリッカとノエルのふたりが物語の軸となります。こういう、ちょっと特殊な関係性での共演ですが…。

平野 僕は植ちゃんに関しては心配なんてまったくない。原作を読んでもビジュアルを含めて「これ、植ちゃんにあて書きしてるでしょ!」って思ったし。ツンな感じがしつつも、甘めなところもアリってそのままじゃん(笑)。このふたりの関係としては、言葉を使わずに関係性が見えるようになればいいな、と。
植田 良さんが言ってるのはふたりの信頼関係の部分だと思うけど、そこに関しては僕も心配してないです。まず何より僕自身、俳優・平野 良が大好きなんですよ。
平野 普段の平野 良はキライだけど?(笑)
植田 なんでそんな攻撃的なの?(笑) これまで、良さんが出てるいろんな作品を見てきたし、『ハンサム落語』では自分の中の引き出しから、状況に合わせて何を出すかって部分でのすごさを目の当たりにした。アドリブ力や瞬発力、頭の回転の速さを近くで見て、実際にいろんな場で「いつか共演したい俳優」として名前をあげていたし…。



――念願叶ってのW主演ですね。おふたりだからこそのリッカとノエルが見られそうで楽しみです!

平野 普通にやったら気恥ずかしくなるような関係性、距離感の“親子”ですよね。「付き合ってんの?」って思うような空気のときもあるし(笑)。でも、しっかりと気持ちを作った上でやれば自然にしっかりと見せられそうだなとも思ってます。
植田 リッカも、お客さんから見たら「いやん、ツンデレ!」って思うかもしれないけど、世のツンデレの人って、自分がそうだと思ってツンツンしてるわけじゃないしね。ノエルとの関係性もしかり。この異質な関係性が僕らには日常なんですよね。そこを落とし込んだ上で、あとは見る人に「このふたりの関係って…」といろいろと想像して楽しんでもらえたらいいかな。



平野 気がついたら舞台上でキスくらいしてるかもよ?(笑)
植田 そうなったらもうすべて委ねます(笑)。

――原作ファンにとっては、リッカのリクエストに応えて毎回、さまざまな食材を料理するノエルが語る料理に関するうんちくが楽しみでもありますが、舞台版でも見られるんでしょうか?

植田 絶対あるでしょ! 見どころポイントですよ、そこは!
平野 そこは『MOCO'Sキッチン』(日本テレビ系)をこれから参考に見ようかと…。
植田 それは役に立つかなぁ…?(苦笑)