「オクラ」を漢字で書けますか? 野菜の豆知識4
■古くて新しい? 日本の野菜
ロマネスコ、バターナッツ、トレビス、アイスプラント、スティックセニョール。これらは何のことかわかりますか? 実はいずれも野菜の種類なのですが、この数年でスーパーでも見かける機会が増えてきたものばかりです。
ロマネスコはカリフラワーの一種で、ドリルの先端のような特徴的なフォルムをしています。スティックセニョールは一般的には茎ブロッコリーと呼ばれますが、その名の通り、通常のブロッコリーに比べて茎の部分が長いという違いがあります。バターナッツはひょうたん形のかぼちゃで、ねっとりと濃厚な味わいです。
野菜に対する注目は依然高いままなので、こうした「新しい野菜」が次々に外国からやってきたり、あるいは品種改良によって誕生したりしているのです。一方で、私たちにとって馴染み深い野菜が実は日本において歴史が浅いという事実もあります。
例えば白菜。冬場の鍋物には欠かせませんし、漬け物としても重宝される白菜は、和食を象徴する野菜のように感じられます。しかし元々中国が原産で、日本にはじめて紹介されたのは明治8年の東京博覧会のときだそうです。当時は栽培の難しさもあり、日本の食卓に普及していったのは昭和に入ってからのことなのです。
納豆と混ぜたり、あるいはおひたしにしたりしてもおいしいオクラも、和食のイメージが強いものです。しかしオクラは日本人にとっては白菜以上に歴史が浅い食べ物です。皆さんはオクラを漢字で書けますか? 「小倉」? それとも「奥良」? いずれも違います。「秋葵」や「陸蓮根」などの字をあてることはあるようですが、実はオクラは「okra」という英語に由来するので、そもそも漢字表記がないのです。
■命名から20年足らずのあの「きのこ」
また私が子どもの頃に食卓に上がった記憶が無いものといえば、エリンギが挙げられます(野菜ではありませんが)。それもそのはずで、愛知県林業センターがエリンギの人工栽培に成功したのは1993年のことで、エリンギという名前が付けられたのは1998年なのだそうです。
まだ命名されてから20年も経っていないにもかかわらず、エリンギはスーパーですっかり定番の食材となっているのです。ちなみに、国内のきのこ生産量は多い順に、えのき、ぶなしめじ、まいたけ、エリンギ、なめこと続きます。
野菜の新旧について触れるならば、「伝統野菜」の話も欠かせません。聖護院かぶ、堀川ごぼうなどの京野菜、亀戸大根、のらぼう菜などの江戸野菜が有名ですが、伝統野菜は他にも全国各地に存在しています。
伝統野菜とは、代々その土地でつくられ、採種を繰り返していく中でその土地に根付いていったものですから、愛着をもって語られることが多いものです。もちろんそうした気持ちは尊重したいと思うものの、一方で必要以上に過大評価したり、あるいはスローフード運動と関連づけて現代農業を否定する文脈で語ったりするのは違うのではないかと感じることがあります。
例えば、三浦大根という神奈川県・三浦半島名産の大根があります。かつてはさかんに栽培されていましたが、1979年の台風で甚大な被害を受けてから一気に作付面積が減り、その後、青首大根という現在一般的に売られている大根にとって代わられました。
■三浦大根はなぜ消えた?
ただし、それにはきちんと理由があったのです。三浦大根は地面に近い部分よりも地中深くのつけ根の部分の方が太いために、抜くのに大変な力が必要とされるのです。これは高齢の生産者には重労働です。あるいは、三浦大根は煮物に向くという特徴がありますが、家庭において大根の煮物を大量につくるということがなくなっていくにつれて、より生食に向いている青首大根に消費者の目が向くようになったのです。
つまり生産効率の追求や食生活の変化などの理屈によって、生産者も消費者もむしろ青首大根を選んだという過去があるわけです。三浦大根は確かにおいしいですし、すたれて欲しくないと個人的にも思います。しかしだからといって、それと青首大根を否定することとはまた話が違うはずです。
伝統野菜をはやしたてる人はその「伝統」を持ち出して正当性を主張することがあります。しかし、有機生産者の久松達央さんは著書「キレイゴトぬきの農業論」(新潮新書)の中でこのように書いています。
よく「伝統野菜を大切にしよう」と言われますが、持ち込まれた時期の差こそあれ、伝統野菜と言われているものも元々は外国の物です。暑い地域が原産のものを夏野菜、寒い地域が原産地のものを冬野菜と勝手に呼んで日本では栽培していますが、もともとは日本の気候に合わせて生まれていないものが、ほとんどなのです。(中略)それを故郷から遠く離れた場所で改良し、人間の思惑に合わせて育てているのが栽培という行為です。どんなに品種改良や栽培技術を駆使しても、もともと“無理筋”のものもあるのです。
伝統野菜を必要以上に特別視することなく、そしてこれからも増えるであろう新しい品種にも目を向け、野菜には楽しく向き合っていきたいものです。
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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/
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(子安大輔=文)
