第37節を終え、ミランは7位に転落。6位サッスオーロとの勝ち点差は1とはいえ、残り試合も1。イタリア杯決勝(対ユベントス)を残すものの、リーグ戦でヨーロッパ・リーグ(EL)出場権圏内の5位になることは不可能になった。その厳しい現状について、20年以上ミランを見続けている番記者、クリスティアーノ・ルイウはどのように見ているのか?

―― 今季のミランについて、どのように考えていますか。

 残念ながらポジティブではない出来事があまりにも多過ぎる。順に話をしていたら時間がいくらあっても足りないので、まずは今季のミランを語るうえで重要な事柄から話したい。

 第32節ホームでのユベントス戦(4月9日)を1−2で落とした後、ミランはミハイロヴィッチ監督を解任した。それは論理性のかけらもない"狂気の沙汰"だ。敗れたとはいえ、相手は圧倒的な強さのユベントス。その実力は、雲泥の差がある。しかし、その試合でミランはミハイロヴィッチのもとで一丸となっていた。その戦う姿勢こそファンが強く求めていたものであり、プレーの質も決して悪くはなかった。

 加えて、第32節を終えた時点で、ミランは単独6位。ユベントス戦以降の相手は、不振にあえぐサンプドリア(第33節)、B降格候補のカルピ(第34節)、B降格となるヴェローナ(第35節)、そして同じくB降格となるフロジノーネ(第36節)だった。

 今のミランがかつてのように強くないとはいえ、この4チームは負けるべき相手ではない。むしろ、降格組との3戦では勝ち点「9」を手にできる確率が高い。順当にいけば、第37節を終えた時点での順位はフィオレンティーナと同率か、それを上回って単独5位につけている可能性もあった。

 ところが、まったく意味のない監督交代によって、長い時間をかけてつくり上げたチーム内部の結束が壊れた。

―― 結果、第33節のサンプドリア戦は辛勝(1−0)するも、続く対カルピは0−0と不甲斐ない試合でした。

 そして、ヴェローナ戦(第35節)は後半ロスタイムにFKを決められて敗戦。降格が決まっていた相手に、無様な姿を晒した。第36節では、今季の昇格組で初のセリエAとなるフロジノーネに3得点を献上した。B降格組との3戦で得た勝ち点は、わずかに「2」だ。

―― クリスティアン・ブロッキ新監督は、ユースの指導経験しかない。彼の力量を問う声もあります。

 ブロッキをユースの監督からトップに昇格させたのはオーナーのベルルスコーニであり、クラブ首脳はブロッキに次の3点を絶対的な義務として課している。

(1)ミハイロヴィッチが志向していた4−4−2の否定。
(2)スタメンにボアテング、メネズ、バロテッリを入れる。
(3)積極的な若手の起用。
 
(1)はベルルスコーニの好きな4−3−1−2を採用するということになる。(2)は、いわゆる"ベルルスコーニお気に入り"の選手を起用しろということ。ベルルスコーニを知る者からすれば何ら珍しいことではない。このオーナーによってトップチーム監督の座を与えられたブロッキが、(3)も含めてオーナーの命に逆らうことができるはずもない。

―― ただ、走れないボアテングをトップ下で先発起用することは理解しがたいと言われることもあります。

 それはブロッキ自身も十分わかっているだろう。だが、それを実践しなければならない理由があった。つまり、ピッチ外における人間関係が優先されたという類の話だ。事実、ヴェローナ戦(第35節)からは本田圭佑がスタメンに復帰している。

―― クラブ売却が盛んに報じられる一方で、ズラタン・イブラヒモビッチ復帰が単なる憶測ではない域で語られています。

 クラブ売却については、現時点では単なる"飛ばし"のレベルでしかない。下手な喩(たと)えになってしまうが、今のミランというクラブは「燃費の悪い、故障ばかりの中古車」のようなもの。そんな車を誰が買うのか?

 所有する資産はミラネッロ(トレーニング施設)のみ。自前のスタジアムも持っていない。グループ全体の人件費は年単位で200億(円)を超えるとされる。しかし、今年の決算(マイナス約90億円)が示すとおり、投資に見合うだけの収入は見込めない。これだけ不利な条件が揃うクラブに1000億円もの額を投じて買収する者が現れるとは考えにくい。

 一方、厳しい財政状況にあるとはいえ、イブラヒモビッチ復帰は低くない確率であり得る。イブラひとりの獲得で、ミランは一気にリーグ3位内を狙えるチームに変貌するからだ。当然、3位(=チャンピオンズリーグ出場)となればイブラひとりの年俸を賄える。昨夏は交渉成立目前で親会社(フィニンベスト)の横槍が入って破談となったが、今夏には違う結果が待っているのではないか。イブラ復帰が実現すれば、本田圭佑もその恩恵を多分に受けることになるだろう。

―― 来季のミラン監督が誰になるのか、これが、現時点では重要になってきます。

 昨夏、ミラン首脳はまずアントニオ・コンテ(現イタリア代表監督、来季チェルシー監督)の獲得を図り、それが無理となると、続いてカルロ・アンチェロッティ(来季バイエルン監督)に復帰を依頼し、断られると今度はマウリツィオ・サッリ(現ナポリ監督)の獲得に動いている。最終的にこの話も成立を見ないとなったところで、最後にようやくミハイロヴィッチを招聘するに至った。

 コンテ、アンチェロッティ、サッリ。要するにサッカーを教えることのできる実力者ばかり。マッシミリアーノ・アッレグリを解任して以降、ミランが勝てなくなった理由がそこにあるからこそ、是が非でも本物の監督を必要としていた。それは来季も同じだ。

 したがって、5月初旬の時点で確率の高い順に、候補はビンチェンツォ・モンテッラ(現サンプドリア監督)、チェーザレ・プランデッリ(元イタリア代表監督)、ウナイ・エメリ(現セビージャ監督)、そしてマルコ・ジャンパオロ(現エンポリ監督)といった名前が挙がっている。

 ちなみに、アッレグリを「無能」として解任したミランだが、ユベントス監督としてセリエA連覇(クラブとしては5連覇)を成し遂げたアッレグリは、仮にレアルが今季CL準決勝で敗れていればジダンの後任になることがほぼ決まっていた。しかし、レアルは決勝へ勝ち進んだため、アッレグリの続投が決まっている。

 レアルのCL決勝進出決定は5月4日の夜。翌5日にアッレグリのユベントス続投が一斉に報じられた(正式発表は6日)。そして7日、次期ユベントス監督として内定していたパウロ・ソウザがフィオレンティーナ残留を公言している。

 2年前、アッレグリほどの優れた監督にミランは無能の烙印を捺した。そして今季、チームを統率する能力ならば一定の水準にあるミハイロヴィッチを、ミランはシーズン残り6戦という土壇場で解任してしまっている。来る夏こそ、確かな手腕を持つ監督にチームが託されることを願いたい。

宮崎隆司●取材・構成 text by Miyazaki Takashi