編集者の独りよがりが生む悲劇「重版出来!」3話

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松田奈緒子原作コミックのドラマ化『重版出来!』。週刊マンガ雑誌の編集部を舞台に、悪戦苦闘する編集者とマンガ家たちの群像劇だ。


視聴率は第1話の9.2%(低い)から第2話の7.1%(かなりヤバい)と来て、第3話は7.9%とやや回復傾向。第2話の誰でも共感しやすい“お仕事サクセスストーリー”が功を奏したのかも。ほとんど主役だった坂口健太郎もポイントに貢献したはずだ。

第3話は、マンガ家と編集者の関係についてのお話。原作では別々だった、黒沢心(黒木華)と女好きの人気マンガ家・高畑一寸(滝藤賢一)のエピソードと、心の先輩編集者・壬生(荒川良々)と連載が打ち切られたギャグマンガ家・成田メロンヌ(要潤)のエピソードがニコイチに。原作のポイントになるセリフなどはしっかり使いつつ、手際よくまとめた脚本の野木亜紀子の腕前に唸らされる。

最上もががベッドで待ってても手が離せないマンガ家の悲哀


心は、『週刊バイブス』の看板連載「ツノひめさま!」を担当するようになるが、高畑から送られてきたネームは低調で面白くない。作者の高畑が忙しさのあまり、恋人の梨音(最上もが)に逃げられてしまったからだ。最上もががベッドで待っていても、締切を落とすわけにはいかないマンガ家稼業。とてもつらい。

心は渡されたネームをそのまま通そうとするが、先輩編集者の五百旗頭(オダギリジョー)に全否定される。

「オレたち編集者は誰に給料もらってると思う?」
「会社……?」
「読者だよ! 読者の喜びのために、作品を最も高いクオリティにまで引き上げる。お前がそれしないなら、何のためにここにいるんだよ」

意を決した心は、高畑の元に乗り込んでネームの描き直しを迫る。荒れ狂う高畑だったが、作品のアオリ(マンガの扉絵の端や最後の部分に編集部が入れる短いテキスト)に込められた心からのメッセージに触発されて、ネームの描き直しに着手する。完成したネームをFAXを送る高畑はなぜか裸だった……。

読者アンケートを嗤う者は読者アンケートに泣く


もう一つのエピソードの主役は、荒川良々扮する編集者・壬生だ。壬生は心に「オレたちはな、読者に媚を売ったりせず、マンガ家と二人三脚でひたすら良いモノをつくればいいんだよ。さすれば結果がついてくる」と“編集道”の講釈を垂れたりするが、担当している「黄昏ボンベイ」が人気低迷で打ち切りとなり、作者の成田メロンヌからの信頼を完全に失っていた。

壬生は、マンガの愛読者だった少年の頃、せっせとアンケートハガキを書いていたことを思い出し、忌み嫌っていた読者アンケートと向き合うことにする。人気低迷の理由は、ギャグマンガなのにギャグがまったく意味不明だったからだ(ドラマの中で説明していたが、聞いてもまったくわからなかった)。壬生は成田に謝罪する。

「オレ、マジで面白いと思ってて。わかるヤツだけわかればいいって、わかんねえヤツがバカなんだって、センスねぇんだって……読者のこと、バカにしてました。本当ならオレが、成田さんの面白さがどうしたら読者に伝わるのか、一番に考えなきゃいけなかった……」

壬生は自分のセンスだけを基準にしてマンガ家を励ましていたが、結果がついてこなかった。すると、マンガ家は編集者への信頼を失う。ギリギリのところで信頼を取り戻した壬生は、成田と次回作の構想を練りはじめる。

編集者は「なんとなく」で判断するな!


第3話はマンガ家たちのドラマを描きながら、「編集者の役割とは何か?」というテーマが一本貫かれていた。だいたい編集者ってものは、どんな仕事か説明しにくい職業である。1話でも、心が大学の仲間に編集者の役割をうまく語れないというシーンがあった。

現実世界に目をやると、昨今はウェブメディアを中心に編集者不在のまま、作品を世の中に送り出す作者が増えてきている。作品があれば自分のブログに載せればいいわけだし、KDPなどの電子書籍は作者一人で販売することができる。マンガではないが、ライターたちが集う「Yahoo!個人」は編集者が介在しないメディアだと聞く。有料でコンテンツを販売して、「1日でウン100万稼げる!」などと話題になったnoteも、編集者なしで作品が発表できるメディアだ。作品が低劣でも、「おいおい、そんなのやめておけよ」と押し戻す編集者はいない。

編集者の役割とは、作者から出てきたアイデアをジャッジすることであり、作者と作品を良い方向に導くことである。ところが、編集者のジャッジの基準が曖昧だと、作品はあさっての方向へと進みはじめる。

編集者のジャッジの基準は、(五百旗頭の言葉によると)「読者」にほかならない。読者が喜んでくれるか、楽しんでくれるか、その一点である。読者が喜べば、本も売れ、作者も潤う。良いことづくめである。

これが、「上司の顔色を伺う」「業界のご機嫌取り」などという内向きの理由や、「なんとなく気分で」「面倒くさい」といった曖昧な理由が判断基準になると、作品はつまらなくなり、人気は低迷して、作者は編集者に不信感を抱く。まさに今回の成田メロンヌのようなことになるわけだ。編集者が「面白い!」と感じるインスピレーションも大切だが、作品が売れなければ作者は干上がってしまう。自分の直感がマーケットと一致していることも、きっと編集者の大切な能力の一つなのだろう。

面白いのは、心も壬生も、編集者が自分で考えてマンガ家に提案するアイデアはどれもポンコツで何の役にも立たないというところだ。編集者とマンガ家が二人三脚でアイデアを作るケースもあるが、やっぱり良い作品を作るには、作者自身が踏ん張らなければいけないのだろう。

ところで、高畑が突然全裸になるというシーンがあったが、アメリカの作家のトマス・ウルフという人は、やる気のない日でも、夜中、全裸になって窓辺に立ち、ポコチンを弄っていると猛然と創作意欲が掻き立てられてという(『天才たちの日課』より)。高畑が全裸なのは原作どおりだが、原作者の松田奈緒子がトマス・ウルフのエピソードを知っていたかどうかは定かではない。

さて、本日放送の第4話は、編集部の面々が新人作家を発掘しようというお話。安田顕扮する“ツブシの安井”が新キャラも続々登場だ。なぜかトレンディエンジェルの斎藤さんも出るぞ。

『重版出来!』の先週分を見逃した人は、TBSオンデマンドにて無料で見ることができる。本日21時59分までなので注意されたし。公式サイトでは、ほかにものりつけ雅春の作画による「黄昏ボンベイ」を(一部)読むことができる。成田メロンヌの意味不明なパワーを感じてほしい。
(大山くまお)