茶々はなぜ哀しむのをやめたのか「真田丸」16話

写真拡大

大河ドラマに革命が起きつつある。
かつて、朝ドラ「あまちゃん」(13年)によって、これまで朝ドラを観ていなかった層が朝ドラを観るようになり、SNSでドラマを語り合うことが盛んになった。
今度は、「真田丸」が大河ドラマをBS放送で観る層を増やしている。


「真田丸」16回のBSプレミアム(日曜午後6時〜)は視聴率5・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と自己最高になった。徐々に、BS視聴者が増えているのだ。かくいう私も「真田丸」ではじめて大河をBSで観るようになったひとりだ。
少しでも早く観たいと思わせる「真田丸」の面白さは、戦国の世の陰謀合戦のハラハラ感。いつなんどき裏切られるかわからない環境、ひとときも誰に対しても気を許さず、常に生き残りの作戦を考えていくスリルが毎回毎回描かれて、それがクセになる。
16回は、「女」で身を滅ぼさないように、真田源次郎信繁(堺雅人)が気をつかいまくる話。
守ってくれると思っていた上杉景勝(遠藤憲一)が、秀吉(小日向文世)に言われて、信繁を置いて越後に行ってしまい、真田家が窮地に陥りそうな時に、よりにもよって女関係が信繁の足を引っ張ろうとする。
秀吉の覚えがいい茶々(竹内結子)と親しくした人物は、秀吉の怒りを買って消されてしまうと知って、信繁は必死で淡々とあしらおうとするが、茶々はすっかりの信繁が気に入って馴れ馴れしくしてくる。茶々の視線、秀吉の視線、従者たちの視線・・・彼らは常にみんな四方八方に注意を払っている。男は一歩家の外に出たら戦場だとかいう言葉があるが、この時代、城の中も戦場で、まったく気が休まらない。
茶々役の竹内結子が、はた迷惑な小悪魔キャラをみごとに演じている。
だが、彼女のことを乳母・大蔵卿局(峯村リエ)が「あのお方は、哀しむのを やめたのです」と言うところで、彼女は彼女で裏の顔があることがわかる。
歴史を知っている視聴者は、茶々がここに来るまで数々の悲劇に見舞われているからだろうと予想がつく。
大蔵卿局は乳母だから、彼女の悲劇をずっと見つめてきたのだろう。
織田信長の妹・お市と浅井長政の間に生まれた茶々は、父・長政を、叔父・信長との戦いで亡くす。その後、母は柴田勝家と再婚するが、秀吉との戦によって父母共に亡くす。
家族をたくさん殺した秀吉の寵愛を受けるという皮肉な運命を背負わされたら、哀しむのをやめなければ生きていられなそう。
きり(長澤まさみ)のようなただのハイテンション女ではなく、深い哀しみを知っている茶々。その証拠に信繁から「(妻)を亡くしました」と聞くと「いけない 悪いことを」と口をつぐむ。
信繁と茶々、哀しみを知っている者同士、絆が生まれてしまったりして。

なんだか面白いのは、女好きの秀吉が、正妻・寧(鈴木京香)と茶々、それぞれに舶来品の帯を贈るエピソード。15回のレビューでも書いたが、鈴木京香は三谷幸喜監督「清須会議」では市を演じている。秀吉の思いを拒否して、柴田秀勝のもとへ嫁ぐ市。「清須会議」ではあんなに秀吉を嫌っていた鈴木京香が、「真田丸」では秀吉をすごく愛してるから面白い。
市の死後、彼女の娘・茶々を側室にするのだから、秀吉って気味悪いほど欲にまみれている。小日向文世の目が笑ってないのにニヤニヤしてる感じがその狂気をよく表している。きりにも少し色目をつかっていたが、今後何かあるんだろうか。いや、きりには、秀次(新納慎也)がいるか。

信繁 心の声


冒頭、悪い知らせを聞いて「えっ」と驚く信繁、そのあと、良い知らせを聞いて「ええ!?」と 「え」が一個増える。わかりやすいリアクション。
さらにわかりやすいのは、最後のほう。走りながら「真田が 真田が滅びてしまう」と〈心の声〉を発するところ。字幕にも〈心の声〉と説明が入っていた。
そのうち、建前と平行して、〈心の声〉がどんどん出てくる「鈴木先生」や「モテキ」方式になってきたら、それこそ「大河ドラマ」革命だ。
(木俣冬)