聖飢魔IIはいいかげんな主題歌を手がけてこなかった。「荒涼たる新世界」へと至る長い長い迂回

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6月公開のホラー映画『貞子vs伽椰子』の主題歌を、ロックバンド聖飢魔IIが手がけることが発表された。
なるほどと思う。
聖飢魔IIは悪魔を標榜するバンドだから、霊界のキャラクターを描いた怖い映画にイメージも近しく、自然なタイアップだ。公式に発表された、ボーカルのデーモン閣下によるコメントもとてもふるっているし、発表された画像の中でもバンドと映画のキャラクターはとても自然に馴染んでいる(そんなバンドはそうそうない)。



それ以前に、四月から放映されているアニメ『テラフォーマーズ リベンジ』主題歌も彼らの新曲だ。これも、進化したゴキブリと人類の死闘を描くディストピアもので、やはり、悪魔が歌うのに相応しい(原作者が熱烈なファンでもあったようだ)。


……しかし、長年このバンドを観続けてきた者からすると、たいそう感慨深いものがある。
聖飢魔IIほど「タイアップ」に恵まれないバンドもなかったのだ。

イロモノ扱いという感じに


聖飢魔IIと同様に八十年代半ばから後半に相次いで登場し空前の「バンドブーム」をきらびやかに彩ったレベッカ、米米クラブやプリンセス・プリンセス、爆風スランプといった言わば「ソニー組」のバンドは、いずれも大規模なCMソングやドラマの主題歌に楽曲が起用され、認知度の飛躍につながっていた。

同じ「ソニー組」の聖飢魔IIも「週刊賃貸ニュース」などのCMに出演したが、ウールマークや日立マスタックス(ビデオ)の爆風スランプや、ソニーのコンポ(「でじたるざんまい」と繰り返す)のレベッカや、カセットテープのプリンセス・プリンセス、JAL沖縄キャンペーンの米米クラブといった、いかにも「かっこいい」CM起用に比べたとき、ナンカコー、イロモノ扱いという感じにみえた。


さらに、続く九十年代は、人気ドラマの主題歌がミリオンセラーのメガヒットにつながる、「大タイアップ時代」となった。だが、そういったドラマに聖飢魔IIの曲が起用されることはなかった。
「バンドブーム」が終わったこともあっただろうし、彼らの特殊なイメージは扱いづらかったのかもしれない(デーモン閣下のみ、有名な「写ルンです」のCMで広く認知されるが、そこで彼が歌ったのは自分たちの曲ではない『いい日旅立ち』だ)。まだ当時は、今ほどの「キャラクターの時代」ではなかったのだ。彼らの出世作『蝋人形の館』(86年)を含むアルバムはその内容の残酷さからNHKでは「A指定(放送禁止)」となったという(デーモン閣下著『我は求め訴えたり』文春NESCO刊より)。今からすれば信じられないようなことだが、悪魔の格好でネガティブなことを歌うことについて「そういう体である」という楽しみ方は、そこまで広まらなかった(信者と呼ばれる熱心なファンも獲得していたものの)。「貞子」の映画だって初作は98年公開なのに、その時点で「似合っていた」はずの聖飢魔IIに依頼されなかったわけだ。


タイアップに関しては本人(「人」ではなく悪魔だ、と彼らとうるさいファンはいうだろうが)も吐露している。
89年リリースのベストアルバム『WORST』のライナーノーツで、代表曲『エルドラド』について閣下はこんな風なことを書いている。「この曲ほど飛行機の窓から雲を眼下に眺めながら聞くのにふさわしい曲はないと思うのに、機内プログラムの音楽に採用されないのは、やはり悪魔のバンドは不吉だからかのう?」と(珍しく「〜かのう」などという口調で)嘆いたのだ。


また、2000年に閣下がソロ(「!(エクスクラメイション)」名義)でリリースした『AGE OF ZERO!』については、当時キムタク主演で人気だったドラマ『HERO』の主題歌に「すごくふさわしいと思うのだが」と呟いてもいる(当時の公式サイトの日記より)。たしかにサビで「They need a hero」を繰り返す雄大な曲だ(『HERO』の主題歌は宇多田ヒカル『CAN YOU KEEP A SECRET?』)。
98年には「ふるさと総世紀末計画」と称し、全都道府県の地方企業のCMに無料で出演するキャンペーンを行っている。これも、タイアップ時代を生きた彼らなりの苦闘といっていい(珍作多し!)。


もっとも聖飢魔IIの楽曲に、大きなタイアップもなかったわけではない。B21スペシャル、ダウンタウン、ピンクの電話が結集した89年のバラエティ番組『全員出席!笑うんだってば』のエンディングを『BAD AGAIN 美しき反逆』が、オープニングはそのカップリングである『JOKER〜非力河童人間』が飾った。だが番組自体、出演していたダウンタウンの松本人志に「全員欠席していたんです」と後に述懐させるほど低調なもので、すぐに打ち切られてしまう。当時はバラエティ番組の主題歌は長期間同一の曲が用いられたもので、同じダウンタウン出演でも『夢で逢えたら』の主題歌『フリフリ65』(サザンオールスターズ)、『働く男』(ユニコーン)、『ダウンタウンのごっつええ感じ』の主題歌『恋のマジックポーション』(すかんち)などは印象的に長く用いられてヒットしたのだが、つまり聖飢魔IIはタイアップ元でハズレを引いてしまっている。
93年にはロックオペラ『ハムレット』の主題歌『世界一の口づけを』を手がける(バンドも出演。閣下は語り部、墓堀り、父親の亡霊の三役で八面六臂の頑張りをみせた)。しかしこのオペラも、主演のX JAPANのtoshlが、オフィーリア役の女優に洗脳されるきっかけとなった劇としてしか語られないものとなった(いまだに語ってる人も僕含め僅かだ)。


ほかにも、(閣下の「不吉だからかのう?」の嘆きとは裏腹に)生命保険会社のCMにバラード曲が使われたり、タイアップ全盛の九十年代にも進研ゼミや『上岡龍太郎にはだまされないぞ』や、スポーツニュースのエンディングにも彼らの曲は使用されたが、誰も覚えていないだろう。
意義のあるタイアップもあった。90年から数年にわたって放送された『FNS1億2000万人のクイズ王決定戦!』のナレーションを閣下がしたことから、エンディング曲は彼らの『WINNER!』だった。クイズの「勝者」が決まってから流れるのに相応しい曲だったが、番組も不定期だし、発売から時期を経ての選曲で、大ヒットに結びつきはしなかった(……今『WINNER!』は、作家の羽田圭介君のテーマに事実上なっているようだ)。

タイアップ曲とは


ドラマではないが、映像への「主題歌」としてのタイアップ曲も聖飢魔IIにはある。一つは91年、五社英雄監督の最晩年の作となった映画『陽炎』のエンディング曲『赤い玉の伝説』、もう一つは97年の深夜アニメ『MAZE☆爆熱時空』のオープニング曲『虚空の迷宮』だ。

……これが両曲とも、タイアップ鑑賞者の目からみて、実に素晴らしい! きちんと、内容に即した歌詞と曲だ。前者は任侠映画にふさわしい激しい曲調の中に、主演の樋口可南子の背中を彩った弥勒菩薩の刺青を歌詞に織り込み、後者は「MAZE」という題名を曲名にも反映させただけでなく、アニメの設定だった「美女と野獣」の二重人格主人公のことも踏まえている。

タイアップ文化は浸透していくうち、ただのイメージだけのものが増えていった。あるいはイメージさえかけ離れた、まったく劇の設定や世界観を踏まえていないタイアップが頻出していくようになった(今もそうだ。映画の主題歌などをみても、主演俳優の所属事務所のバーターでの起用だと素人にも透けてみえてしまう、無意味な曲ばかりだ)。
人目に触れるところで曲がかかればいいというタイアップはつまらない。それで売れる曲もなくはないだろうが、チャゲアスの『SAY YES』にしても、TMネットワークの『GET WILD』にしても、後々まで残るタイアップ曲は、その元の主題にきちんと向き合って考えられたものが多い。
さらに、タイアップ曲は、もとのなにを踏まえたかを観ること自体に無類の楽しさがある(奥田民生がPUFFYに歌わせた『これが私の生きる道』=私生道=資生堂のタイアップはその極北だろう)。
聖飢魔IIは、たとえそれに恵まれずとも、いいかげんな主題歌を手がけてこなかった。だが前述の『陽炎』も大勢の記憶に残ったヒット作とは言えないし、『MAZE☆爆熱時空』に至っては未DVD化だ。

99年に解散して以降、数年ごとに「期間限定再集結」と称して、ライブ(ミサ)を行い、ベスト盤の中に新曲も少しは発表していたが、それらも、もとから好きなファン以外の、巷間に広まったとは言いがたい。

しかし時代は巡り、彼らが解散してからどんどん「キャラの時代」になっていった。ハロウィンやコスプレ文化もここ十年でみるみる広まった。CDが売れない時代に、ベテランバンドは買い支えてくれるファンも一定数以上いる。
そんなこんなで、やっと冒頭の話題に戻るわけだ。今年になって妙にすんなりと「主題歌」が相次いで発表されたのだが、聖飢魔II的なやり方が「すんなり」受け入れられる時代になるのには、とにかくまあ長い長い迂回が必要だった。筆者の感慨が、少しは伝わっただろうか。
こういうとき「時代が追いついた」とか「早すぎた」とかいう褒め方もできるけど、そういうことばかりでもないし、本人(「人」ではなく悪魔だ、とやはり言われようが)たちもいささか不思議に感じているところではなかろうか。


ちょうど『テラフォーマーズ リベンジ』の主題歌『荒涼たる新世界』は13日、シングルでリリースされる。
これまでの彼らの取り組みからしても当然、期待がもてるし、以後もこの世には、彼らがタイアップできそうな不吉な素材がぞくぞく現れそうだ。やがて飛行機の機内BGM、どころかJAL沖縄キャンペーンソングとして彼らの曲を聴けるようになる日もそう遠くない(かもしれない)。
ブルボン小林・コラムニスト)