「お寺スイーツ」という言葉を聞いて、一瞬頭の中が混乱した。お寺+スイーツというこの斬新な言葉の組み合わせ。しかしよく考えてみればお寺にお饅頭とか大福とか、確かに売ってたりする。あれがお寺スイーツか。

その「お寺スイーツ」が一堂に会し、食べ比べができる機会があると聞いて足を運んでみることにした。パンケーキ屋さんでもなくニューヨークで話題のショコラティエでもない、お寺のスイーツ。どんなものが並んでいるのか大変気になる!

やってきたのは東京・浅草の浅草寺。境内の五重塔を会場に、「西国三十三所草創1300年記念事業」のメディア向け発表会が行われ、その中の企画の一つとして、お寺スイーツの試食会が開かれるという。「西国三十三所」は日本最古の巡礼札所で、大阪・京都をはじめ、関西圏の33の寺院を札所とするもの。有名なところだと、京都の清水寺や六波羅蜜寺も札所になっている。


会場では西国三十三所札所の代表者33人の迫力の読経によって発表会がスタートし、記念事業の概要説明が行われた後、お寺スイーツの試食会が開始された。


予想以上に渋い「お寺スイーツ」のラインアップ


33の寺院から出品されたスイーツはなんと100種類以上。テーブル上にずらーっと並ぶラインアップを見て回る。滋賀県の三井寺からは、きな粉の抹茶がかかった「弁慶力餅」、「弁慶の引摺り鐘」の伝説をモチーフにした「ひきづり鐘饅頭」。大阪の総持寺からは、「亀の恩返し」というかりんとう、兵庫県の中山寺からは、中山寺の梅林にある梅を使った梅シロップ「みやすうめ」や「梅ケーキ」。といった感じで、予想以上の渋さに少々うろたえるが、これでこそお寺スイーツである。ちなみに各スイーツはお寺の周辺の和菓子舗で作られているものが中心。



数が多すぎてすべてを食べ歩くことはできなかったのだが、個人的に気になったものをベスト5をレビューしていきたい。

第1位:葛井寺「小僧さんせんべい」
手をあわせつつちょっとずる賢そうな顔をしている小僧さんの姿がたまらなく愛しいせんべい。瓦せんべいのような、サクサクした食感と素朴な甘みを持った、ひとなつっこい魅力のあるお菓子。


第2位:六波羅蜜寺「幽霊子育飴」
400年以上前、この飴を夜な夜な買いにくる不審な女がいて、行先をつきとめてみると女は幽霊で、墓の中から飴によって生きながらえていた赤ん坊が発見されたという伝説を持つ一品。麦芽糖とザラメ糖で作られているという琥珀色の飴は、幽霊が買いにきた頃から変わらぬ味だという。文化遺産の域。


第3位:勝尾寺「だるまパイ」
勝負事に力を授ける勝運信仰がつたわる勝尾寺の名物・勝運ダルマをモチーフにしたお菓子。歯ごたえはサクサク、表面にまぶされた砂糖のシャリッした舌触りもよく、甘みもしつこくなくシンプル。パッケージも可愛いし、誰にすすめても間違いのなさそうな銘菓だ。


第4位:壷阪寺「めせんべい」
眼病封じのお寺としても有名な壷阪寺にちなんだ玉子せんべい。「め」の一文字が焼き印されており、インパクト大。壷阪寺の本尊である十一面千手観音像の前で眼病封じと健康を祈願しているという、ご利益のありそうな一品。一枚一枚手焼きしているというのが伝わってくるような親しみのあるお味。


第5位:松尾寺「舞鶴物語」
京都府舞鶴市の観光名所・赤れんがパークや舞鶴の海上自衛隊に配備されている護衛艦「ひゅうが」などをデザインした落雁。美麗な色彩表現はもはや、切手の記念シートを眺めているかのようである。飾っておきたくなるお菓子だ。



全体的に素朴で昔ながらな味と、あまり派手派手しくない見た目がお寺スイーツの良さだと思った(とはいえ、粉河寺のシュトーレンや、穴太寺の竹炭黒豆ロールなど、今風の洋菓子もある)。西国三十三所札所では、PRの一環として、「スイーツ巡礼」と名付け、お寺に巡礼した後、ゆかりのスイーツを食べることを推奨している。西国三十三所の全札所を巡礼すると同時に、スイーツの"巡礼制覇"も楽しんでみては?
(スズキナオ)