フランスは常にのんびりしている。2015年11月13日、パリ市内および近郊で同時多発テロが発生した。多くの市民が死傷し、特に市内バタクラン劇場ではおびただしい死傷者が出た。事件を受け、オランド仏大統領は非常事態宣言を発令。警察権限の強化などが行われた。



これらニュースを日本から見ていると、フランスはとんでもなく危険な場所に変貌してしまったかのように思える。テロから数ヶ月経った今も、「パリで暮らして大丈夫ですか? 」という連絡をもらうことが、しばしばある。確かに普段、定期的にパリの情報が入ってくるわけでもないお茶の間に、連日テロの報道が流れれば、「パリはなんと危険な街になったのか」という印象を与えてしまうだろう。

もちろんテロ直後は市民の間にも不安が渦巻いていた。周囲の日本人でも、親の勧めで学業半ばに帰国を決めた学生はいたし、会社から派遣されている駐在員の中には、妻と子供を先に日本に返した人もいた。観光客は一気に減り、普段予約が取れないレストランも簡単に予約が取れるようになった。明らかにパリの街は沈み、一気に出歩く人が減った。しかし、今も人の数に若干の名残はあるものの、いつでもパリは(少し皮肉を込めて)マイペースである。



実際、これだけの出来事があったにもかかわらず、警備がゆるい。例えば2015年のクリスマス。市内ノートルダム大聖堂で行われたミサは、テロ直後の厳戒態勢ということもあり、建物の入場には、普段は行われていない金属探知機による検査が行われた。それら準備をするために、1時間ほど大聖堂を立入禁止にして、万端整えてミサに訪れる市民を迎えようとした。しかし肝心の金属探知機は到着が遅れ、入場開始後およそ15分後から稼働した。すでに多くの人が大聖堂内に入った後だ。

デパートやスーパー、郵便局など、人の出入りが多い場所には入口に警備員が立ち、手荷物検査をするようになった。それも、またゆるい。特にすべて調べるわけでもなく、申しわけ程度にパッと上から見ただけで、「どうぞ」と通してくれる。もしカバンの底に銃を隠していても、見つけられない気がする。さらに、いつもそこに人が立っているわけでもなく、いない時もある。警備員によっては、カバンの中身をこちらから見せてもチェックせず、通してくれる人もいる。もしかしたら、私がアラブ系の顔立ちではなく、典型的なアジア人だからかもしれないが、それにしても拍子抜けしてしまう。

「あれだけのことがあったのに警備がザルなら、またテロが起きるんじゃないか……」。現地では冗談半分に、こんなことをいう人もいる。



春や初夏にパリへの旅行を考えている人もいると思う。今、パリは行きどきなのだろうか? 

ランダムに起きるテロは、気をつけて遭遇を避けられるものでもないため、そのことを考慮しないなら(そもそもフランスに近づかないという選択をするなら別だが)、今はそれなりに良い時期だ。

街中や電車内では、警備のための軍人や警察官が増えた。銃を備えた彼らを見慣れていない観光客は、異様な雰囲気を感じるかもしれない。しかし彼らが巡回することにより、スリなどの犯罪が起きる割合は減っている。

飛行機はエコノミークラスでも快適に乗れる。年末年始に日本へ帰国した際も、座席は空きが目立ち、1列3席他の乗客がおらず、往復どちらもとても楽だった(一方で航空会社には打撃で、日本航空はパリ・成田便を需要減のため期間限定で運休にしたが……)。普段混み合う美術館も以前に比べれば空いている。

警備に一抹の不安はあるが、テロがあったといっても、パリ市民はマイペースに暮らしている。何かを自粛するようなことは、ほとんどない。日本で生まれ育った私から見ると、こんな感じでいいのだろうかとも思うが、これがパリなのだ。
(加藤亨延)