デザイナーたちは、仕事にiPadをつかっていない:調査結果

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いよいよ発売される「iPad Pro」は、12.9インチの大画面を備え、スタイラスを使う「プロ用ツール」として期待されている。しかしいま、彼らプロフェッショナルたちが、iPadを使ってプロとしての仕事をこなしているのかというと、疑問が残る。

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iPad Proが発表されたとき、そのプレゼンの合間に行われたソフトウェアを使った「デジタルクリエイターのための“あたらしい”ブレインストーミング」は、確かに12.9インチという大画面iPadにとって、素晴らしい使い方だと思われる。

ただし、唯一問題がある──デザイナーの64パーセントは、ソフトウェアを使ってブレーンストーミングをしない。彼らは、ペンと紙を使ってブレストをする、というのだ。

これは、2015年夏にコイ・ヴィンが調査し発見した事実のひとつだ。ヴィン氏は、グラフィック・インタラクションデザイナーで、かつては『ニューヨーク・タイムズ』デザイン部長を務めていた。現在彼は、アドビのプリンシパルデザイナーである。

彼は、「今日のデザイナーが使っているツール」(The Tools Designers Are Using Today)というブログ記事において、デザイナーたちが行う6つの主要なタスクで使うときの、お気に入りのツール/ソフトウェアに注目した。6つのタスクとは、ブレインストーミング、ワイヤーフレーム作成、インターフェイスデザイン、試作、プロジェクトマネジメント、ヴァージョン管理、ファイル管理のことだ。

ヴィンは、最初からその調査は“科学的”なものではないと認めている。あくまで個人的な好奇心から始めたもので、彼は自分の個人的なネットワークやソーシャルメディアを使って調査し、デザイナーたちから4,000件の回答を集めた(その大部分は米国からのものだったが、ヨーロッパから、あるいは国際的なデザイナーからのものもあった)。彼はその結果を自分の個人ブログで公開した(注目すべきは、ヴィンはiPadの力を信じているひとりであり、自身のブログでもよく取り上げていた)。

「デザイナーのためのツールボックス」と銘打たれた調査から、いま、さまざまなデザイン領域で使用しているツールがわかる。

「10年前、アドビは“ひとり勝ち”でした」と、ヴィンは言う。しかし、現在は競合するスタートアップやソフトウェア会社があちこちに存在する。

ワイヤーフレーム作成、それからインターフェイスデザインの作業においては、Bohemian Codingによる独立系ソフトウェアツール「Sketch」が、アドビ製品に勝っている。プロジェクトマネジメントにおいては、「Trello」や「Github」、「Basecamp」、「Evernote」を抜いて、「Slack」がトップだ(わずかの差だが)。

「プロジェクトマネジメントに、どのツールを使っていますか?」と問われたとき、もっとも多かったのは「Slack」だった。

ここで、ある結果が、目を引く。それは回答者の64パーセントが「(時代は2015年だというのに)いま最も重要なツールは、鉛筆と紙だ」と答えていることだ。

タブレット・プロブレム

今回の調査から、特にブレインストーミングにおいては「ソフトウェアは、デザイナーが抱える諸問題を解決していない」ことがわかると、ヴィンは言う。

これは、彼にしてみればまったく無関係な話ではない。彼は先述したアップルのイヴェントにおいて紹介されたブレインストーミングツール「Adobe Creative Cloud(CC)」開発にかかわったひとりだからだ。そこまで多くのデザイナーが紙を好む理由は「自由さを感じているから」なのだろうと、彼は言う。

クイックに考えようとするとき、ローファイなツールに叶うものはない。幾人かのデザイナーもこれに同意する。Pentagram(ペンタグラム)のパートナー、ナターシャ・ジェンも、本からPinterest、ソフトウェアに至るまでさまざまなツールを使っているが、彼女も会議では紙にスケッチするという。

「言葉で伝えることが難しい視覚的なアイデアを表現するとき、手っ取り早いのです。それが終わったら、放り投げておくの」

ここでは、「たった1枚の紙」であることが、カギだ。デザイン評論家スティーヴン・ヘラーは「タブレット上ではアイデアを共有しにくい」と指摘する。「会議で何かを伝えようとするなら、いたずら書きのように書いたデヴァイスではアイデアの核となるものが逃げてしまう」と彼は言う。

スマホ上で、相手に何かを見せるときの感覚を想像してみてほしい。終わったらスマホを持ち主に返すのが当たり前だ。ノートから破りとった1枚の紙には、そういった“所有”という概念はないのである。

そこには「空間」の問題もある。例えば、タスク管理ツール「Trello」は、ブレインストーミング中に滝のように貼り出される大量のポストイットを、デジタルで実現してくれるというサーヴィスだ。

しかし現実の会議では、何人かでメモのまわりに集まって、紙のカードをあれこれ動かし、優れたアイデアをさらに触発されるようなアイデアと入れ替えるといった「手で触れられる経験」を共有する。

デザインスタジオUstwoの面々がAndroid Wearのスマートウォッチの文字盤についてアイデアを検討したときには、彼らは丸と四角のテンプレートを出力し、そこにマーカーで線を引いた。

「現場ではいくつかのレイヤーや選択肢が必要で、ぼくらはそれに、素早く反応する必要があるのです」と、プロジェクトにかかわったデザイナー、エドゥアルド・オリヴィエラは言う。「コンセプトを考えるとき、紙は十分にダイナミックです。そしてそのダイナミックさをもったソフトウェアが存在するとは思えません」

ヴィンの個人的な“デジタル・ツールボックス”はどうなっているのだろう? そこには、アドビ「Photoshop」や「Illustrator」、「InDesign」、「Comp CC」などが含まれている(彼がアドビでの開発をサポートしたソフトウェアだ)。

それは、彼の職歴を考えると驚くべきことではない。ただし、彼はアクティヴなSketchユーザーでもある。彼はこう言う。

「現在の市場において、(この課題は)ゼロサムソリューションではありません。つまり、わたしたちは、最も役に立つものをピックアップして選択し、さらにそれらを組み合わせることができます」

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