機械を見たら分解したくなる「分解くん」にとって、多くの部品からなる電化製品はたまらないターゲットです。革新的な「サイクロンテクノロジー」でゴミと空気を分離する「ダイソン」の掃除機を分解すると、なかなか興味深い背景が垣間見えてきたそうです。

Fictiv | Hardware DNA: Dyson Ball Vacuum Teardown

https://www.fictiv.com/resources/starter/hardware-dna-dyson-ball-vacuum-teardown

アメリカ・サンフランシスコで3Dプリンターを使ったモデル作製を行うFictivは、ダイソンがかつて販売していたボール型サイクロン掃除機の「DC25」(日本未発売)をバラバラに分解してしまいました。



By dirtyblueshirt

全部をバラして部品を並べると、こんな感じになりました。



◆モーター部

DC25の下部に位置するモーターを分解するとこんな感じ。丸いケースが特徴的です。



モーターは紫色のボール型のケースに収められています。ケースの素材には繊維を混ぜ込んで強度を高めたポリプロピレン(PP)が使われているとのこと。



モーターを収めたハウジングは、吸い込んだ空気をはき出すための給気口と排気口を兼ねた設計となっています。



モーター本体をアップにするとこんな感じ。ケース全体はプレス成形されたスチール(鉄)でできており、どころどころにプレスの際にできた線状の跡(プレス痕)が見られるとのこと。金属を溶かして作る鋳造品ではないのは、コスト削減と軽量化を狙っているのかもしれません。ケース内部の樹脂製パーツは、熱で溶かした状態ではめ込んで固定させる手法が取り入れられています。



高速で回転して空気を吸い込むタービン(羽根)にも、低コストを実現するための工夫が垣間見えるとのこと。



◆バキュームヘッド部

バキュームヘッドは、掃除機の先端でローラーが回転してゴミをかき集める部分。DC25は掃除機本体とバキュームヘッドがつながった形となっています。



ゴミをかき取るブラシローラー部分。ブラシそのものの数はあまり多くなく、2015年モデルの掃除機と比較するとずいぶん寂しい印象を受けます。ブラシにも糸くずなどがよく絡みつきそう。



ローラーはベルトを介してモーターによって駆動されます。ギヤを使わずにベルトを採用することで、高いエネルギー効率を実現しているとのこと。



モーターには、この機種で唯一となるプリント基板が取り付けられています。基板と並んで取り付けられたコンデンサーがあることから、Fictivは「電圧を下げて小さなモーターを駆動するための減圧回路では」と推測しています。



◆サイクロン部

ダイソンの掃除機の最重要技術であるサイクロン部分も分解。



逆さまに置かれた5本のサイクロンと、それにかぶせられた黒色のカバー。2015年時点の製品では、サイクロンを2層に配置した「2 Tier Radialサイクロン」が用いられていますが、この頃は1層のタイプとなっていた模様。



ゴミを吸った空気が吸い込まれるサイクロンのノズル部分。円錐状の表面で高速な渦を巻くことで、遠心力で空気とゴミを分離する構造になっているのがダイソンのサイクロンテクノロジー。



サイクロンを覆っていた黒色のカバー。細かいメッシュは金型で成型されているとのことですが、表面の荒れた様子やバリの残った様子から、全体的に荒い成型である印象が伝わってきます。



ゴミのフタを開けて中身をキレイにするためのボタンは、余分な機構を持たずに1個の部品だけで構成されています。シンプルな構造であると同時に、デザイン上の差し色としてもアクセントになっているとのこと。





◆ハンドル部

取っ手をつかんで掃除機本体を動かすためのハンドル部分。最も大きな力が加わる部分なので、銀色に光るアルミパイプが用いられています。また、樹脂素材もさまざまなタイプが用いられているようで、人目につく部分にはABS、目立たない部分にはPPが使われており、力のかかる部分にはガラス繊維入りPPやポリカーボネートが使われているとのこと。



しかし、目につく部分の部品でも、このように成型の跡が残っていることも。



ちなみに、部材の厚みはほぼ全ての場所で2.5mmに設計されているそうです。



一方で、プラスチックの強度を高めるための「リブ」は1.5mmになっているとのこと。



しかし、厚みのある部品を樹脂成型すると、素材の収縮で凹凸が生じる「ヒケ」や表面に不要な模様が残る「フローマーク」といった成型不良が起こる可能性があります。そんな場合でも、成形時の温度を調節したり、金型を改良して溶けた樹脂の流れ方を調節することで問題を解消することはできるのですが、実際の製品を見てみるとどうやらダイソンはあまりそのあたりにはこだわっていない印象が伝わってきます。



なお、この状況は2015年に販売されているモデルでも垣間見ることがあります。見た目のきれいさと、機能とコストのどちらを重視するのか、善しあしは別として企業が重視するポイントがよく表れているといえるのかもしれません。

◆ホースと掃除機本体

最後に最も大きな本体部分の分解です。写真中央の大きなパーツを主に観察します。



コードにかかる負荷を和らげ、コード切断を防ぐための構造が設けられています。なお、この製品を分解したFictivによると、ダイソンの掃除機は世界中で販売されていますが、地域で異なる電圧に対応するための電圧変換装置は内蔵されていないとのこと。その代わりに「工業用の大きなスイッチ」が使われているとFictivは語っており、その指摘が意味するところは少し不明ですが、とにかくシンプルな構造であることはわかります。



Fictivが最も目を見張ったのがこのパーツ。大きさもさることながら、複雑な構造となっているため、金型を使った成型には困難が伴っていたことが考えられます。



よく観察すると、このパーツでは左右に伸びる部分が分割されていたことがわかりました。ABS素材を用いたそれぞれのパーツを接着剤でくっつけることで、1つの複雑な構造物を形づくっていた模様。「接着」と言ってしまうと簡単な構造のように感じてしまいますが、実際にはこの部分には大きな力が加わるので、それほど単純な話しではないはず。



ホースの渦の頂上部には、銀色の塗料が塗られています。これはおそらく、蛇腹のホースを「ぎゅっ」と縮めた状態で表面に塗装を施したものとFictivは予想しています。



主構造物の肉厚は、ここでも2.5mm。



リブの厚みは1.5mmとなっていました。



樹脂のヒケがよくわかる1枚。大小3つある穴のうち、「Locator Pin」と「Ejector Pin」は金型に由来する穴なので成形時に必ず発生するものですが、表面がへこんでいる「Sink Marks」がいわゆる「ヒケ」となっています。これは、樹脂が固まる際に収縮し、この裏側にあるリブなどに樹脂が引っ張られることで表面がへこむ現象で、金型成型の精度と品質がそのまま表れる部分と言っても過言ではありません。



このように、1つの製品を分解することで、企業の技術や製品作りの哲学が垣間見えてくるのはとても興味深い点といえます。世界中のメーカーの製品を分解するとどのようになっているのか、興味がそそられてくるところです。