日本共産党ホームページより

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【朝倉秀雄の永田町炎上】

安保関連法反対優勢の世論でがぜん勢いづいた共産党

 およそ「言論の府」とは思えないドタバタ劇の未に国論を二分した安全保障関連法案が成立し、日米安全保障条約を基軸とした我が国の安全保障政策は大きな転換点を迎えた。力による規状変更を企てる“無法国家“の膨張主義に対する抑止力も高まったことは間違いない。

 残念なのは、民主党などの野党が「憲法違反」の主張や荒唐無稽な「徴兵制」などの不毛な議論に傾斜し、いかにして抑止力を高め、日本の平和をどう確保するのかという本質的な審議がおざなりにされ、国民の理解も深まらず、多くの誤解を残したままになってしまったことだ。法案成立後の三大紙などの世論調査でも読売新聞の「評価する=31%」「評価しない=58%」などいずれも反対が賛成を上回っている。

 そんな世論の動向にがぜん勢いづいたのが共産党だ。共産党は9月19日、中央委員会総会を開き、2016年夏の参議院選や次期総選挙に向けて従来の「当選しようがしまいがすべての選挙区に候補者を立てる」方針を転換し、「戦争法廃止」に向けて野党が一致団結し、国政選挙での候補者の一本化を含む選挙協力を行い、現実的な政策に基づく「国民連合政府」をめざす考えを打ち出した。

 民主党などとの野党連立政権を想定したものだが、呼びかけを受けて民主党の岡田代表は20日、「かなり思い切った提案で注目している。選挙区で競合を避けるのは重要で政策をどうするかなどさまざまな議論をしないといけない」と述べて前向きな姿勢を示し、近く党首会談が行われる見通しだ。

共産党は人権を踏みにじり、経済成長を阻害し、国を衰退させる

 共産党の政権構想は「現在の我が国は高度に発達した資本主義国家でありながら、国土や軍事などの重要な部分をアメリカに握られた事実上の従属国になっている」との現状認識から、現在、日本で必要な変革は「民主主義革命」であり、その次の段階で「社会主義的変革」を目指す「二段階革命論」にある。

 だが、旧ソ連の崩壊や中国の市場経済への移行など現実の国際社会は確実に反対の方向に進んでいる。社会主義の抱える矛盾により、やがて崩壊する運命にあるわけだ。それに共産党などが政権を担うようになったら、金正恩や習近平のような独裁者によって単に意見を異にするという理由だけで“粛正”され、民主主義を支える言論の自由は封殺され、国民の人権は踏みにじられ、それこそ「生きた心地のしない国家」が出現する。中国の「キツネ狩り」でもわかるように、ごく少数の党幹部が私利私欲に耽り、汚職も蔓延する。企業は厳しい規制の網を掛けられて国際競争力を失い、税収は減り、経済成長は大いに阻害され、国家が衰退の一途をたどることは間違いない。まさに「亡国の政党」だと言っていいだろう。

「護憲」を唱えながら憲法秩序に反逆する共産党の矛盾

 共産党は「護憲、護憲!」と騒いでいるが、1946年11月3日の現行憲法制定時に政党として唯一反対したのが共産党だ。そんな政党が「護憲」などとは片腹痛い。憲法は第29条で「私有財産権」を、第22条で「営業の自由」を保証していることから、自由な市場原理に基づく「資本主義経済」を想定していることは間違いない。共産党は最終的には「社会主義的変革」を目指すというのだから、憲法秩序に真向から反逆しようとしていることは明らかだ。そもそも世界第3位の経済大国で、世界に誇れる民主国家である日本に「変革」など必然性がないし、経済を衰退させてGDPの2倍を超える財政赤字をどうするつもりなのだろうか。

 安倍内閣が安全保障関連法案で内閣支持率を落としたことは間違いないが、その反作用として民主党の支持率が上がっているかといえば、相変わらず党勢は低迷したままだ。岡田執行部が「票欲しさ」に共産党の“甘い餌”に前向きになるのもわからなくもない。だが、イデオロギーを異にし「変革」などという物騒で時代錯誤もはなはだしい網領を掲げ、1993年の8党会派による非自民政権でも蚊帳の外に置かれた“異端児”の共産党と他の野党が政策の擦り合わせができるとは筆者にはとうてい思えない。

 これまで多くの野党が離合集散を繰り返し、やがて消滅していったのは、単に「数集め」の野合が多く、党内の意見の集約ができなかったからだ。保守系から旧社会党系まで政治信条の違う者の寄り合い所帯である民主党には、保守系議員を中心に共産党に対するアレルギーが強い。実際、ある保守系議員は「共産党などとの協力は反対だ。根本的な考え方が違う」と連携には反対している。最大の支持母体である連合傘下の労働組合も共産党には警戒心を怠っていないから、下手をすると、党内に亀裂を生じさせ、思わぬ分裂の火種にもなりかねない。

 それに共産党との選挙協力が必ずしも票を増やすとは限らない。共産党は一小選挙区当たり平均約2万4000のコアな票を持つが、共産党支持者というのは熱狂的な“新宗教の信者“のようなものだから、たとえ党の方針でも素直に民主党に投票するとは思えない。反対に無党派層が多い民主党支持者のほうにも共産党と連携する民主党への投票にはかなり抵抗があろう。

 また民主党は有権者の年齢が18歳に引き下げられたことから若者票を目当てに安保法制反対デモに参加した学生団体とも連携する方針のようだが、人生経験の乏しい学生は気紛れだから、こちらも目論見通りにゆくかどうか、はなはだ疑問だ。いずれにせよ共産党の票などをアテにするようになったら「責任野党」としてはおしまいだ。民主党はいま確実に自滅に向かっているとしか思えない。

朝倉秀雄(あさくらひでお)ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中