現時点でどの選手が戦力になり得るかを知るためのメンバー選考だったが、日本は未勝利かる最下位で大会を終えることに。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 現状の日本代表は、別次元のノルマ(目標)をふたつ抱えていると考えるべきだろう。
 世界へ出れば挑戦者の日本は、アジア内ではターゲットになる。ワールドカップでベスト8を目指しながら、アジア予選は確実に突破しなければならない。世界を相手に番狂わせを狙うチームが、同時にアジア内で引いた相手を崩すテーマに取り組む。それは本来非効率であり、矛盾を孕んでいる。
 その点でまず東アジアカップは、大会そのものの位置づけが非常に曖昧だった。確かにブラジル・ワールドカップでアルジェリアを率いたヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、試合の性格に即して戦術もメンバーもガラリと変えて成功した。しかし日本にも同じような適応力があるかと言えば、やはり疑問符が付く。
 結局東アジアカップは、ワールドカップとアジア2次予選の中間的なレベルで比較的拮抗した試合が続くこともあり、ハリルホジッチ監督も単純に欧州組を外したベストメンバーを集めて大会に臨んだ。日本代表としては、目新しい選手が多かったが、別に「若手」を抜擢した印象はない。五輪代表組の遠藤航や浅野拓磨を除けば、3年後のロシア・ワールドカップへ向けて大きな伸びしろを期待されたというよりは、現時点でどれだけ戦力になるのかを確認したい選手たちが招集されたことになる。
 はっきりしたのは、指揮官がまだまだ日本やアジアの情勢、さらにはチーム作りについても、手探り状態にあるということだ。以前から「右SBには問題を抱えている」と話しており、今回は専門外の遠藤と丹羽大輝を試したわけだが、逆に本職の米倉恒貴は最終戦になって左SBでの起用に止まった。つまり、すでにJリーグで実力を確認済みの米倉より、右SBが未知数の遠藤や丹羽を試すことを優先したわけで、必ずしも連覇達成が最優先課題ではなかった。もちろん東アジアカップは、創設の目的や開催時期からして、優勝争いより新人発掘やバックアップメンバーの確認の意味合いが強いわけだが、それにしてもやはり実験と結果が効率的に両立したとは思えない。今大会では、アルジェリアとは異なる日本の実情や、アジア内でいかに日本の弱点が研究し尽くされているかなどを、ようやく確認したところかもしれない。
 元々、ハリルホジッチ監督は、欧州組と国内組の配分を五分五分に近づける意向を漏らしていた。現実に国内組の強化が進まなければチームの底上げは進まないし、実際アジアの2次予選でシンガポールやカンボジアを倒すために、毎回欧州組を招集するのはナンセンスだ。むしろ日常的にハイレベルなレギュラー争いを続ける欧州組の立場を考えれば、2次予選までは国内組でも、さらに若いメンバーに経験を積ませながら乗り切るくらいの大胆なビジョンが欲しいくらいだ。
 そういう意味でも、最大の収穫は改めて山口蛍がボランチの一角として定着していく能力を示したことだ。攻守の展開を先読みしながらの広範で果敢な動きは際立っていた。長谷部誠、今野泰幸らの年齢を考えても、今後は山口を軸に世代交代を進め、柴崎岳との組み合わせ方などと合わせて、最適探りの実験が継続されていくはずだ。
 また内田篤人の故障や長友佑都、酒井宏樹、酒井高徳の不安定な状況もあり、意外に混迷の度合いが深いSBは、左サイドで起用されながら米倉がアグレッシブにアピールをした。対戦相手の中国がSBの攻め上がりに無策だったためフリーで仕事ができたこともあるが、持ち味のスピードを活かして、縦への突破、左足の予想以上の精度、カットインからのシュートなども披露。もし欧州組の不振が続くようなら、太田宏介とともにレギュラーに近づく可能性を見せた。
 さらに前線では、初招集の武藤雄樹が新境地のトップ下で効果的なフリーランを繰り返し、浦和同様にチームに活力をもたらした。同じポジションを争うのは香川真司や本田圭佑なので代表定着のハードルは高いが、タイプとしては岡崎慎司のバックアップも含めてユーティリティな活用法は見込めるかもしれない。一方で指揮官は、トップ下にはパスの供給に特長を持つ柴崎より、パスを引き出しスペースを作るセカンドストライカー型の武藤を優先させたわけだが、やはり日本の人材を考えれば、今後は2トップも視野に入れていく必要がありそうだ。例えば3戦連続して右サイドで先発した永井謙佑にしても、広いスペースに飛び出して、大胆にプレッシングに出て行くシーンでは可能性が仄見えた。
逆に1トップは適任者発掘が難航しているし、どのタイプをはめ込んでいくのかも依然として不透明だ。
 自信に満ちてスタートしたハリルホジッチ体制だが、今後も戦術の選択、使い分け、そしてメンバーの洗い出しから組合わせまで、試行錯誤が長引くことは間違いなさそうである。