宮城県塩釜高等学校(宮城)

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 塩釜は昨年、春夏ともに4強入りした。しかし、新チームでスタートした昨秋は地区予選で敗れ、県大会に出場することができなかった。今春は敗者復活戦を勝ち上がって県大会に出場。準々決勝で仙台育英に敗れたが、8強入りを果たした。県大会後、野球に対する気持ちを再確認し、スパートをかける塩釜に夏の意気込みを聞いた。

昨年、1984年以来の県大会出場を決めてからステップアップ

 鮮マグロの水揚げ日本一を誇る、海の街・塩竈市。古くから人々の尊崇を集めてきた鹽竈(しおがま)神社は街のシンボル的な存在で、初詣には50万人もの人が参拝に訪れる。

 この街にある塩釜は元々、男子校だった。目と鼻の先にある塩釜女子と統合され、男女共学の塩釜としてスタートしたのは2010年4月のこと。生徒数が多く、宮城の公立校としては最多で1000人を超える。塩釜の校舎を西キャンパス、塩釜女子の校舎を東キャンパスとし、2つの校舎に分かれて授業は行われている。西キャンパスにあるグラウンドは、サッカー部や陸上競技部と共有。そのため、フリー打撃はバックネットに向かって打つなど、練習では工夫を凝らしている。

笑顔で、全力でアップをする塩釜ナイン(宮城県塩釜高等学校)

 そんな塩釜は昨春、1984年以来、29大会ぶり(※2011年は震災のため中止)となる県大会出場を決めた。県大会では、準々決勝で利府を下し、4強に進出。3位決定戦は、古川学園に1点差で敗れ、東北大会出場はならなかったが、周囲が驚く旋風を起こした。また、学校にも活力を与えた。学科や学年により、2つの校舎で勉学に励む塩釜は、全校生徒が集まる機会がないのだが、3位決定戦では全校応援を実施。野球部が学校を1つにした。

 勢いは夏も続いた。伊具、仙台西、仙台商、泉松陵を下し、春に続いて準決勝に進出。利府、佐沼、気仙沼とともに4強入りした。宮城は昨夏、準決勝に進出した4校が12年ぶりに全て公立校で、仙台市以外の学校が残ったのは史上初。宮城は盛り上がりを見せ、どこが代表になってもおかしくない状況だった。しかし、塩釜は佐沼に3対8で敗れ、初の甲子園出場とはならなかった。

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 新チームで、前チームから試合に出ていたのは、相澤 友彦主将、久保 京太、水間 幹也、千葉 文月の攻撃陣。彼らが残ったからといって、簡単に勝てるほど、甘くはない。昨秋は中部地区予選で敗退となり、県大会に進むことができなかった。相澤主将が「3年生(1学年上)に頼り過ぎていました」と振り返れば、4番の水間は「3年生(1学年上)が夏にベスト4になり、自分たちはセンバツ大会も視野に入れていました。3年生(1学年上)が残してくれたものがあったのに負けてしまって…。悔しいし、申し訳なかったです」と唇を噛む。

 佐藤 純二監督はこう話す。「秋は負けるべくして負けた、という感じです。練習試合の勝率は良く、順調に仕上がっているように見えて、実はこのチーム、弱いなと感じていました。能力は高いのですが、強さに欠けていました。競った時、調子が悪い時にガクンと落ちる。一冬かかるなと思いましたね。やる気はあるけど、のんびり屋が多く、相手にかかっていく感じではない。相手にやられて、やっと火がつく。でも、火がついたときには苦しい状況になっている。本人達は一生懸命やっているつもりでも、力の出し方がわからない。そんな状態が春の大会まで続きました」

 今春は中部地区予選の敗者復活戦を勝ち上がり、2年連続で県大会に駒を進め準々決勝で仙台育英に敗れた。2勝してベスト8入りしたが、チーム状態として万全ではなかったようだ。

厳しいことを言い合えるチームになるために

佐藤 純二監督の話を聞く外野陣(宮城県塩釜高等学校)

 6月のテスト期間でチームは一度、「解散」している。「みんな、自分のことだけで精一杯になっていました。1回、解散して、もう1回、やりたいやつだけ集まってやろう、と」と佐藤監督。テスト期間で全体練習ができない自主練習の間で、それぞれが野球に対する気持ちを整理し、目標を再確認したのだという。

「野球部の関係が、仲間というよりも友達感覚で、厳しいことを言えませんでした。そんな関係をフラットにしたかったので、そういうことも話しました」と水間 幹也。夏本番を迎える時、互いにモヤモヤした気持ちでは戦えない。仲間とはどうあるべきかを考え直した。また、相澤 友彦主将は「1人では何もできないことを理解できた」と話す。仲間がいてこそ、野球ができる。いつも一緒にいると薄れがちな思いを、「解散」という非常事態で再確認した。

 また、テストが終わった6月19日、午後1時から午後7時まで佐藤監督は選手一人ひとりと面談した。一人ひとりの思いと向き合い、これからどうしていくべきかを確かめた。それは、監督にとっても、選手にとっても“スッキリ”して夏を迎える機会になったようだ。「甲子園に本気で行きたい、という気持ちで集まりました。今、1つになりつつあります」と相澤主将は胸を張る。もう、なんとなく目指す「甲子園」ではない。

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 こうして、2015年の夏本番に向かう塩釜。「みんな、ですが」と前置きした上で佐藤 純二監督は投手陣をキーマンに挙げる。米倉 健太、小野 翔太、中山 剛志と春にマウンドを経験したサウスポーが3人。そこに右の鈴木 大斗が加わり、さらに千葉 文月、相澤 友彦も投手ができる。佐藤 純二監督は「夏は9日間で6試合を戦うことになります。1人が完投して勝っていくことは厳しい。春を経験した3人がどれだけ、春の経験を活かせるか」と見据える。

 春以降、米倉はサイドハンドに転向した。「春に左投手3人が投げたわけですが、『みんな、同じだね』と指摘されました。確かに、球種も似ているし、そうだなと思ったんです」と佐藤監督。米倉がサイドハンドで練習し始めた頃、鶴岡東との練習試合があった。鶴岡東には左のサイドハンド投手がいた。米倉にはその試合をじっくり見させ、どう打ち取っているかなど勉強させた。「何もわからない中だったので、目指す形が見えて参考になりました」と米倉。イメージを持って、練習に励んでいる。

ノック前に集合(宮城県塩釜高等学校)

 攻撃では、やはり、昨年からの経験者に期待がかかる。高打率を残し、打点も稼ぐ大黒柱でもある4番の水間 幹也は「ライナー性の打球を安定して打てるようにしたい。試合の流れを考えて、今、何が必要かをイメージしてやっていきたい」と話す。

 50mのタイムが6秒1と俊足の久保は「春はここぞの場面で打てることが少なかったので、夏は得点圏打率10割を目指したい」と意気込む。今春の中部地区予選が不調で、県大会は背番号11となり、1度、Bチームにも落ちた千葉も復調している。佐藤監督は「相澤にも長打が出てくるようになった。清野(泰広)も勝負強い」と打線に手応えを感じつつある。

仙台育英に勝たなければ甲子園の道はない

 春の大会を終えてもなお、チームとして間違っていると感じたことを正そうとし、夏を万全で迎えようと努力する塩釜。今夏の初戦は12日、登米総合産業と迫桜の勝者と戦う。甲子園に向けて、一丸となって―-。

「春はベスト4を目標に戦いましたが、届きませんでした。準々決勝で負けた仙台育英に勝たなければ、優勝はないと思っています。仙台育英の打線をいかに抑えるか。抑えて、接戦に持ち込めば勝機はあると思います」と相澤主将。後半で登板機会が多かった小野は「3アウトを取って、ゲームセットとなるまでが勝負です。最後まで粘って投げきりたい。やっぱり、野球をやっている以上、優勝することが目標です」ときっぱり。

 日々の活動の中では、様々な出来事が起こる。毎週、リーダーを変えたこともあった。冬には守備に特化した「守備合宿」も行った。6月には「解散」もあった。様々な出来事により、成長してきたことだろう。塩釜の海にも負けない、鮮やかなブルーのユニホームが今年も躍動することを楽しみにしたい。

(取材・文=高橋 昌江)