『星の恋物語』原作 石井ゆかり/幻冬舎コミックス

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ノベライズとかコミカライズとかいう言葉がある。
ドラマや映画を小説化するのがノベライズ、小説やドラマや映画を漫画化するのがコミカライズだ。
漫画の映画化、小説のドラマ化なども含めて、原作をどう置き換えるかが「〜〜ライズ」の肝。そっくりそのまんまやるか、あえて外すか、同じ部分と違う部分をどれくらいのさじ加減にするか、別の形に移し替えるにあたってはいろいろな可能性を秘めている。
星占いのコミカライズ「星の恋物語」(幻冬舎コミックス)は、その可能性を存分に試し尽くす漫画家たちのイマジネーションにあふれていた。

「星の恋物語」の原作者は、フォロワーが19万人以上もいる、占い記事で絶大な人気を誇る文筆家・石井ゆかり(本人はライターと自分を定義している)。
彼女がTwitterで発信する占いを毎日、心のよりどころにしているひとも多いのではないだろうか。

12人の漫画家が参加


彼女のベストセラーのひとつ、2015〜2017年の占いを記した「3年の星占い」(WAVE出版)には、プロローグとして、各星座のこの3年の状況をちょっと抽象的に描いたショートストーリーが書いてある。

占いを生業とするひとたちのなかで群を抜いて文才をもつ石井ならではの手練感ある短編で、それを元に12人の漫画家が漫画を描き、「星の恋物語」というアンソロジーにまとまった。

参加漫画家が下記のとおり豪華で、各自、8〜16ページくらいの短編を描いている。

牡羊座 山田デイジー
牡牛座 谷川史子
双子座 日阪水柯
蟹座 天乃咲哉
獅子座 海野なつみ
乙女座 稚野鳥子
天秤座 種村有菜
蠍座 糸井のぞ
射手座 ウラモトユウコ
山羊座 志村貴子
水瓶座 藤原薫
魚座 天堂きりん

実際、谷川史子は牡牛座、海野なつみは獅子座、稚野鳥子は乙女座・・・とおそらく、ほぼ全員、その星座生まれと思われる。
彼女たちがめいめい自由に、石井ゆかりの書いたショートストーリーからイマジネーションを沸かせて描いたラブストーリーを読んでみて、驚いた。
石井ゆかりの書いた小説をまったくなぞってない。
ざっと見た印象では、ほんとうに読んだうえで描いたの? 自分の星座は自分のほうがわかるとばかりの勢いで描いたのはでは? などと疑ってしまうほどだった。
これはじっくり検証しなくては。私は水瓶座なので、水瓶座の「3年の占い」と漫画「千年の孤独」をじっくり比べてみた。
石井ゆかりの短編は、ひとり旅している主人公が教会を訪れ、そこで星をながめながら、出会ったひとに、自分の3年の星まわりについて示唆を受ける、というもの。
それを藤原薫が描くと──教会とふたりの主な登場人物という点は同じだが、文字と絵の尊いまでの闘いがはじまる。
時代も国も未知な感じ(「感じ」って石井さんがよくTwitterで使うので使ってみました)で、登場人物のバックボーンを短いなかに匂わせる漫画の力が炸裂。この透明感、宇宙感は、まさに水瓶座ならでは? と思ったら、Wikipediaだと藤原薫は牡羊座だった! という裏切りも含め、発想の暴走が凄まじいにもかかわらず、教会の十字架に星というキーの部分だけは燦然と残っているところが震える。

希有なコラボ


12話、全部を比べてはいないが、こんなふうに相違があったほうが断然刺激的だ。
石井ゆかりの占いは、運勢が良い悪いと断じず、だからラッキーグッズとかもなく、読んだひとが彼女の言葉と言葉の空間に自由にビジョンを見て、それを肯定できる勇気をもらえるというものなので、漫画家たちも、縛りを感じず、のびのび描けたのではないだろうか。
石井の短編は、3年間の星の動き縛りがあるが、漫画にはそれがないという点において普遍性をもち得たのだろう。

この希有なコラボによって、わたしの星座──◯◯座の恋の形ってこんななのね、と迷っているひとは人生を定義してもらえ、そこそこ自覚しているひとはその考えに背中を押してもらえる。
厳然とした星占いだと、自分以外の星座の運勢はどう考えても関係ないなあと距離をとるしかなく、どんなに文章が巧みでも読み物としてはどうしても限界があるが、漫画化された途端、他者の物語も楽しめるし、好きになれる。
驚異のベストセラー占い本の便乗本かと思いきや、こんな境界を超える体験ができるとは意外な拾い物だった。
この漫画をまた独自の発想で映像化するクリエーターが現れないかな。
(木俣冬)