3歳世代の頂点を決する日本ダービー(5月31日/東京・芝2400m)。今年、その主役と目されているのは、ドゥラメンテ(牡3歳/父キングカメハメハ)だ。

 とにかく圧巻だったのは、牡馬クラシック第1弾の皐月賞(4月19日/中山・芝2000m)。ドゥラメンテは4コーナーで大きく外に膨れながらも、驚異的な末脚を繰り出して並み居る強豪を蹴散らしてしまったのだ。当初、今年の3歳牡馬世代は「混戦」と言われていたが、直後にドゥラメンテの「一強」と称されるほど、衝撃的な走りだった。おかげで、ドゥラメンテに対して、今度のダービーはもちろん、凱旋門賞(10月4日/フランス・芝2400m)制覇も期待できる、との声まで上がっている。

 だがそれは、かつて日本競馬の悲願である凱旋門賞制覇に近づいた、三冠馬のディープインパクトやオルフェーヴル(※)に並ぶ、あるいは超える存在だということ。はたしてドゥラメンテは、本当にそこまでの"器"なのだろうか。
ディープインパクト=2005年の三冠馬(皐月賞、ダービー、菊花賞)。2006年に凱旋門賞挑戦。3着に入線するも失格。オルフェーヴル=2011年の三冠馬。2012年、2013年の凱旋門賞に参戦し、ともに2着。

 そんな疑問を関係者に問うと、日刊スポーツの木南友輔記者がこんな話をしてくれた。

「皐月賞が終わってしばらくして、GIをいくつも勝っている、ある調教師が『(ドゥラメンテの)あの勝ちっぷりは、ディープインパクトとか、オルフェーヴルとか、そのクラスじゃないか』と、ポロッと漏らしていました」

 ライバルとも言える他の厩舎から、ドゥラメンテをそこまで絶賛する声が上がったことには、木南記者も驚いたという。

「その調教師の方は皐月賞も現場で見ていて、レース直後にそんな話をするなら、まだわかるんです。でもその方は、レースからある程度時間が経ったあと、改めてレースを見直して、冷静に振り返ったうえでそう話したんです。つまり、現場の専門家が(ドゥラメンテは)相当な"器"であると感じていることは間違いないですね」

 さらに最近、ドゥラメンテの関係者が「オルフェーヴル級」と評する記事がスポーツ紙を賑わした。トレセン内外では、すでに歴史的な"怪物"クラスの評価がなされていることは疑いようがない。木南氏が続ける。

「確かにドゥラメンテは、デビューからこれまで5戦して、すべてのレースで出走メンバー中、最速の上がりタイムを記録しています。これは、ディープインパクトと同じで、オルフェーヴルを上回るものです」

 しかも皐月賞に限れば、勝ち時計(1分58秒2)は史上2番目の速さ(1位は2013年のロゴタイプ。1分58秒0)で、上がりタイム(3ハロン=33秒9)とともに、ディープインパクトの記録(1分59秒2。上がり34秒0)を上回っている。馬場、展開などレースの条件が違うとはいえ、現時点での能力は、競馬界屈指のスターホースに勝るとも劣らないと言っても過言ではないだろう。

 実際、JRAが発表した重賞・オープン特別競走のレーティング(能力を指数評価したもの)において、ドゥラメンテは皐月賞で過去最高の119ポンドを獲得。118ポンドを記録したディープインパクトとオルフェーヴルを上回った。

 また、歴史的な名馬たちに共通する特徴として、それまでのデータやジンクスを打ち破るという点がある。実はドゥラメンテも、ここまでにいくつかのデータを塗り替えて、「史上初」という実績を刻んでいる。

 まず、臨戦過程。ドゥラメンテは共同通信杯(2着。2月15日/東京・芝1800m)から直行で皐月賞を制したが、同じ過程で皐月賞を勝った馬は皆、共同通信杯も勝っている(2012年ゴールドシップ、2014年イスラボニータ)。同レースで敗れながらの皐月賞制覇は、1984年のグレード制導入以降は初めてだ。

 そして、ドゥラメンテはキングカメハメハ産駒として、初の牡馬クラシック制覇を果たした。キングカメハメハは、今やディープインパクトに並ぶ大種牡馬で、これまでも数々の名馬を輩出してきた。しかし、牝馬クラシックではアパパネらが制したものの、牡馬クラシックだけは無冠だった。ローズキングダム、コディーノ、トゥザワールド......など、数多くの有力馬が挑戦しながら、あと一歩及ばなかった。その"ジンクス"を、ドゥラメンテがついに打ち破ったのだ。

 加えて、ドゥラメンテの母系(アドマイヤグルーヴ)は、曾祖母にオークスを制したダイナカール、祖母にもオークス馬のエアグルーヴなどがいて、日本屈指の"血筋"を築いているが、牡馬のクラシックを制した馬はこの一族にはいなかった。そのジンクスさえ、ドゥラメンテは覆(くつがえ)してみせた。

 ちなみに、ドゥラメンテを管理する堀宣行調教師は、関東を代表する名トレーナーだが、同氏も3歳馬で安田記念を制したことはあったが(2011年、リアルインパクト)、クラシックには縁がなかった。ドゥラメンテは、そんな堀調教師にも初の栄冠をもたらした。

 こうしてみると、皐月賞の衝撃的な勝ち方も含めて、はやドゥラメンテを、ディープインパクトやオルフェーヴルに並ぶ"器"と評したくなるのはわかる。名馬となる"資質"も十分にある。だが、ドゥラメンテはまだ、クラシックの一冠目を手にしたに過ぎない。希代の名馬たちに並び、日本馬が果たせなかった凱旋門賞制覇を託すことができる馬かどうか、すべてはダービーで証明される。

土屋真光●文 text by Tsuchiya