<h2>今季は投球内容の良さが光る右腕</h2>

 ロッテの涌井秀章投手が、かつての輝きを取り戻しつつある。

 今季は開幕投手を任され、ここまで3勝3敗、防御率2.76。2連勝の後に3連敗を喫したのものの、4月30日の西武戦では8回2失点の好投で3勝目を挙げた。3連敗の間も、同24日の楽天こそ6回途中6失点(自責5)と乱れたが、他の2試合では7回2失点、7回3失点と白星がついてもおかしくない結果だった。

 何よりも投球内容の良さが光る。西武の絶対的なエースとして、2009年には沢村賞を獲得。ダルビッシュ有(当時日本ハム)、岩隈久志、田中将大(同楽天)らとともに球界屈指の右腕として君臨していた涌井は、復活したのだろうか。

 ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜と4球団で捕手として活躍した野球解説者の野口寿浩氏は「ピッチングフォームとしては、すごく良くなっている感じがする。西武で勝っていた時は、今の投げ方をしていたんですよ」と話す。

 涌井は2011年に9勝(12敗)に終わり、2012年には抑えに転向。2013年は極度の不振に苦しみ、中継ぎや抑えも経験した。FAでロッテに移籍した昨年も、8勝12敗、防御率4.21と苦戦していた。では、今年はいったい何が変わったのか。

<h2>昨季までの涌井に見られた致命的な“欠陥”とは</h2>

 野口氏は、涌井が本来の投球をできていなかった原因についてこう説明する。

「ステップを踏み出した左足でブレーキをかけすぎて(体重が)前に乗らずに腕を振っていた。ある程度はブレーキを踏まないと、腕は振れてこないんですけど、(ブレーキが)効きすぎて体重が乗らないで腕を振ってるから、球が軽くて長打を浴びる。ボールがシュートしてコントロールミスする。(本来は)ある程度いいバランスで踏み出せて、ある程度のブレーキをかけながらの腕の走りがあるものなので、球が切れるんです」

 それが明らかに改善されたと同氏は指摘する。

「今年はコントロールミスもあまりしない。前で(ボールを)離せているからです。(悪い時は)遠いところで離すから、ボールをいかせようとすると、リリースがぶれて、シュート回転したりする。でも、長く持てると狙ったところにいくし、しかも長く持てばキレも増す。いいことずくめなんです。

 リリースポイントは多分、真横から見たら(昨年までと比べて)20〜30センチ位違うんじゃないでしょうか。(オープン戦から)すごく前で離し始めたので、今年は大丈夫だなと思いました。明らかに違いましたから」

 では、左足でブレーキをかけ過ぎるというのは、どういう状態なのか。実は、ピッチャーにとっては致命的な“欠陥“になりかねないという。
 
「(通常は)投げる時に多少なりとも左の膝がグッと曲がっていって、最後に少しブレーキをかけながら腕を振る。ただ、(涌井の場合は)左膝が曲がらず、伸びたまま(リリースまで)いっていた。最初から体重が乗っていっていない。だから、ひと目で分かるんですよ。

 今年は随分、前でボールを離せるように戻ったなという感じです。ちょっとしたところですよ。でも、今までは(投球に)直結してしまう部分をやらかしてしまっていたんです。違うところだったら全然、構わないと思うんです。左足のブレーキをかけすぎるという程は影響が出てこないので」

<h2>今季はタイトル獲得の可能性も、「そのくらいのところにいる」</h2>

 その“欠陥”は涌井の足の運びを見ても明らかだったという。そして、ピッチングは「悪循環」に陥っていった可能性が高い。

「右投手なら、投球後に真横に右足が着くか、もしくはちょっと前くらいに着くピッチャーが多い。右足が左足を追い越すような感じです。それが(涌井の場合は右足が)全く追い越さずに戻っていた。投げた後に後ろに着いていたんです。これでは球に力が伝わらないですよね。それを『球が行かないのがおかしい、おかしい』と思って力んで投げてたんじゃないでしょうか。だから、コントロールミスして、それが棒球だから打たれ、どんどん悪循環になっていた」

 ただ、今年の涌井はこれを改善したようだ。致命的な“欠陥”が治れば、元々は圧倒的な実力の持ち主だけに、好投を続けられるのは当然と言える。涌井の持ち味といえば、球速以上にスピードを感じるとされるキレのあるストレート。ボールを前で離せるように戻ったことで、それが劇的に改善された。

 野口氏は「適正なリリースポイントは人それぞれ違うけど、あるわけなので、その適正リリースポイントで投げられれば(ボールは)いくんです。それを忘れちゃっただけなんです。それが蘇ってきている」と言う。そして「真っ直ぐありきの変化球じゃないと、効かないですよ」と、ピッチングを組み立てる上でのキレのある直球の大切さを訴える。

 今年の涌井なら最多勝のタイトルなども十分に狙えると野口氏は見ている。

「投球フォームと投げている球だけを見れば、そのくらいのところにはいると思います。あとは、配球してくれるキャッチャーと打線ですよね。ゼロに抑えても、最低1点は取ってくれないと勝てないわけですから。キャッチャーとのコミュニケーションを密に取って、どういうピッチングをしたいか。どれだけいい球を投げてても、やられる時は絶対に来ますから」

 完全復活を遂げれば、タイトル争いに絡んでくる可能性は高い。涌井の完全復活が確実に近づいている。