本年のBBWAA（全米野球記者協会）選出の野球殿堂入り投票結果は、みなさんご存じのとおり17年ぶりに該当者ゼロというものでした。

今回の投票は、基本的にはバリー・ボンズ、ロジャー・クレメンス、サミー・ソーサの薬物疑惑「御三家」（古い？）に対する「評決の日」と目されていたので、その報道においても殿堂入りゼロという結果に対しては「クスリで作られた記録に厳しい裁定が下った」風の記事が目につきました。

しかし、今回該当者がゼロになった理由は「御三家」の記録に投票権を持つ記者たちが「Noを突き付けたから」だけではありません。
ある意味では、それ以上に殿堂理入り投票の特性が大きく作用しているのです。

それは、「殿堂入り投票は相対評価である」ということです。
投票においては、569名の記者たちは10名連記で投票します。そしてその75%の記者から得票を得ると殿堂入りが決まります。
言い換えれば、限りのある票というパイの奪い合いなわけで、ある元選手が残した業績が殿堂入りに相応しいかどうかというだけの絶対評価ではないのです。

したがって、一見誰から見ても殿堂入り資格に議論の余地なしとも思われるクレイグ・ビジオが68.8％の得票率で涙を呑む結果になったのも決して不思議ではありません。
今回は、御三家やビジオだけでなく、通算254勝のジャック・モリスや捕手として史上最強者マイク・ピアッツア、通算808盗塁のティム・レインズなど、少なくとも数字だけで判断すると殿堂入り間違いなしとも言えるメンバーが目白押しだからです。
日本ではほとんど話題になりませんでしたが、エドガー・マルチネス、ラリー・ウオーカー、フレッド・マグリフら、世が世なら殿堂入りして少しもおかしくない面々も名を連ねていました。

その意味では、一部メディアが「ビジオは疑惑者への評価が分かれたあおりを受けた」と報道していたのは正しくありません。
ビジオが当選できなかったのは「他にもライバルが多すぎた」せいであり、やや意地悪な見方をすればビジオの通算3060安打という成績の価値が（ビジオの価値はそれだけではありませんが）、強打者が跋扈した90年代、00年代においてそれ以外の投手優位の時代に比べ価値が低いと言うことです。

したがって、ビジオは不運だったとは言い切れません。
昨年、BBWAAとは別の殿堂入りルートであるベテランズ委員会は60年代を中心に活躍した故ロン・サントを選出しました。
彼の通算成績は2254安打、342本塁打でしかなく一般的に殿堂入りへのパスポートと言われる3000本安打や500本塁打には遠く及びません。
しかし、彼が活躍した60年代においては十分に傑出した成績であり、その点が評価されたのです。

私は選手の評価は絶対評価ではなく「その時代における他の選手にくらべどれだけ傑出していたか」という相対評価であるべきだと思っています。

その意味では、現在の投票制度は完璧とは言いませんが、それなりに理に叶ったものであると言えるでしょう。
通算493本塁打を放ちながら20.7％の得票しかなかったフレッド・マグリフは不運だったと言うよりは、あの時代で493本くらいではそもそも殿堂入りは容易ではない、と考えられるべきでしょう。

今回該当者がゼロだったのは、御三家へ厳しい評価が下されただけではなく、ビジオの3060安打や霞み、マグリフの493本塁打が見落とされてしまうほどスーパースタッツ保持者がひしめいていたからなのです。

ちなみに、通算355勝のグレッグ・マダックスや305勝のトム・グラビン、521本塁打のフランク・トーマスらが被投票資格を得る来年は、一層この傾向が強まるはずです。