幸せの教室<br />© 2011 Vendôme International, LLC.  All Rights Reserved.
 「第84回アカデミー賞」にもノミネートされた『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2月18日公開)では、9.11の米同時多発テロにより愛する妻(サンドラ・ブロック)と息子を遺してこの世を去る父親を演じた名優トム・ハンクス。その彼が、製作・監督・脚本・主演のすべてを手掛け、ジュリア・ロバーツとの豪華共演を果たした心温まる物語『幸せの教室』が11日に公開となりました。

『幸せの教室』

 仕事が生きがいのラリーは、ある日突然学歴を理由にリストラされてしまう。そこで、再就職のため短期大学で知識を得ることにするが、学校で出会った教師メルセデスは、威圧的で無愛想な教師だった。しかし、そんな最悪の出会いがふたりを大きく変えていく。

リストラされた学生/トム・ハンクス

 本作でトム・ハンクスが演じるのは、バツイチながらもスーパーでの仕事に生き甲斐を覚える50代男性ラリー・クラウン。彼は、ある日突然に長年務めたスーパーからリストラを告げられます。理由は、大学を卒業していない彼に、これ以上の昇進は不可能だからという、理不尽なものでした。落ち込みながらも気持ちを切り替えて再就職先を探しますが、なかなか思うようには見付からず、隣人の薦めもあって短期大学でスピーチと経済学を学ぶことに。そこで出会うのが、スピーチの教師メルセデス・テイノーでした。

情熱を失った教師/ジュリア・ロバーツ

 ジュリア・ロバーツ演じる教師メルセデスは、売れない作家である夫との結婚生活の破綻から、いつしか仕事への情熱までも失ってしまいます。受講者が10人に満たないと平気で授業をキャンセルしようとしたり、生徒たちの無邪気なジョークにも仏頂面を返したりと、教職に就きながらも“幸せ”とは言い難い状況にあります。世間一般の価値観で判断すれば、バツイチで失業中のラリーよりも、夫のいる教職者のメルセデスの方が“幸せ”と思われるかもしれませんが、二人の表情を見ればどちらが“幸せ”かは一目瞭然。最初は散々たる内容だった授業も、勉強熱心なラリーがムードメーカーとなって、教室の雰囲気は徐々に良い方向へと変わり始め、その影響はクラスメートだけでなく、やがては教師であるメルセデスをも変えていきます。

人の数だけ異なる、自分にとっての“幸せ”

 入学当時はシャツをINする“冴えない中年”丸出しのラリーでしたが、スクーター(1983年YAMAHA リヴァ180)登校や経済学の授業で知り合ったクラスメートのタリア(ググ・バサ=ロー)の改造計画によって、見る見る内に“チョイ悪オヤジ”へと華麗な変身を遂げていきます。親子ほど年の離れた学生達の輪の中に一人飛び込み、同じ目線で若者の文化を教わったり、時には自宅に彼らを招待するラリーの姿。自分の知らないことに対して常に正直であり、貪欲に何かを学習しようとする柔軟な姿勢は、年齢に関係無く大切なことだと強く感じさせると共に、自分がその気になりさえすれば、いくつになっても人は変われるのだという自信を観る者に与えてくれることでしょう。学業の傍らで、以前に海軍でコックを務めていた能力を活かして、レストランでコックのアルバイトをして生計を立てたりと、環境の変化にも柔軟に適応して、日常の中から自分の生き甲斐を見出していく能力もまたラリーの持ち味の一つと言えます。

 原題は、トム・ハンクスの役名である『ラリー・クラウン』でしたが、『幸せの教室』という邦題は、まさに本作を象徴するに相応しいタイトル。日常に生き甲斐を見出せない人や、人から見た自分の姿に不安を感じる人なども、ラリーやメルセデス、そして彼らを取り巻くクラスメート達の姿を通じて、人の数だけ異なる自分にとっての“幸せ”の形に気付かされ、明日が好きになるでしょう。友人や家族などに囲まれて過ごす学校や職場、家庭など、“幸せの教室”は、あなたのそばに。

幸せの教室 - 作品情報

映画は芸術ハラの所見評価

メッセージ性:★★★★★
映像美:★★★
サウンドトラック:★★

映画は芸術ハラの「編集部的映画批評」一覧