■感謝の気持ちにあふれたホーム最終戦

仙台の白幡洋一社長は、試合後行われた感謝セレモニーでこう語った。「3月11日、記録的な震災で試合(本来は3月12日名古屋戦が予定されていた)中止を決め、全員の安否を確認しておりました。雪の中を徒歩で家に帰る道すがら、まさか今日の最終戦のこの日をこのような形で迎えられるとは思いもしませんでした。本当に感無量です」これはあの震災を経験した仙台の関わる全ての人達も同じ思いだろう。ライフラインが全て止まり、津波が街を襲い、とてもサッカーどころではなかったあの日から8ヶ月以上の月日が経った。日本全国のみならず世界中の支援に支えられた仙台は、様々な困難を乗り越え、無事今シーズンのJ1リーグ戦を終えた。順位は4位。J1で過ごした2002〜2003年、そして2010年は全て下位に甘んじ、J2で過ごしたシーズンも長かった仙台は、信じられないような好成績でリーグ戦を終えることができた。

震災後、選手や監督の口から出たフレーズは「希望の光になる」。あらゆるものを失い、希望を失いかけている宮城・東北の人達の「希望の光」となるべく、仙台は最終節まで全力で戦い続けた。残った結果はチーム史上最高の成績だった。選手会長の渡辺広大はセレモニーの挨拶で「皆さんに一つ聞きたいことがあります。今シーズンの我々は、皆さんの希望の光になれましたか?」とユアテックスタジアム仙台の観客に問いかけた。すると、大きな拍手がスタジアムを包んだ。この拍手が今シーズンの仙台の戦いがサポーターの感動を呼んだ、何よりの証拠であろう。

セレモニーでは、今までの日本全国・世界各国からの支援に対する感謝の思いが表現された。スタッフ・選手、ユース・ジュニアユース・ジュニアの選手、ベガルタチアリーダーズらが次々と世界各国の言語で感謝の言葉が書かれた横断幕を掲げて行進を行った。また、最終節の対戦相手であった神戸への感謝も忘れなかった。試合前から仙台・神戸双方のサポーターがエール交換を行う友好的なムードで、試合前には「親愛なる神戸 神戸は僕らの目標だ 優しさと強さも持って 僕たちは必ず復興するんだ 神戸のように」という阪神・淡路大震災からの復興を遂げた神戸をリスペクトする映像が流された。セレモニーでは奥山恵美子仙台市長や選手会長の渡辺からも神戸への感謝を伝える言葉があった。

仙台の歴史に残る2011シーズンのホーム最終戦は感謝の気持ちに包まれ、温かい雰囲気に満ちあふれたものとなった。

■苦難のシーズンを支えたサポーターに勝利をプレゼント

神戸戦の試合自体は天候に大きく左右された。ユアスタはこの日未明から激しく降り続いた大雨により、ピッチ上の至る所に水たまりができていた。手倉森監督は「いろいろ神戸のストロングポイントやウィークポイントをスカウティングした中での戦い方はミーティングの中で整理したが、急遽ピッチのコンディションを見て、『もうキックアンドラッシュだ、陣取り合戦だ』という話を(選手達に)した」と試合後の会見で語った。監督の頭の中には別のゲームプランがあったようだが、あまりの悪コンディションを見るやいなや、あっさりとゲームプランを変更した。

また、手倉森監督はこのピッチコンディションによる相手の心理を「アウェイのチームの方が意外と白けるものだろう」と読み取った。「闘争心に対して火をつけられれば、こっちは今日のゲームは間違いなく有利に進められる」と感じた指揮官は球際勝負で相手を上回ることを徹底させた。かくして前半から、仙台が球際の部分で相手に勝り、DFラインの裏へハイボールを放り込み、そこに向かって赤嶺真吾や太田吉彰を走らせるキックアンドラッシュサッカーを徹底させた。サッカーとしては古典的なやり方ではあるが、このピッチ状況、相手の心理状況を考えれば、最も効果的なやり方だった。