日本対イングランド戦に先立つ5月29日、カメルーンがスロバキアとのテストマッチに臨んだ。会場はオーストラリアのクラーゲンフルトである。イビチャ・オシム前監督に率いられた日本が、07年9月に3大陸トーナメントに出場したスタジアムだ。

カメルーンはエトー、カメニ、イドリスを除いてほぼベストの布陣だったが、序盤から動きに精彩がない。ワールドカップの参加国は最終調整の過程であり、試合に合わせたコンディション作りを行なっていないことは前提としなければならない。カメルーンも例外ではないだろう。それにしても、開幕戦の対戦相手をチェックしようと意気込んでいた者からすると、少しばかり拍子抜けしてしまうパフォーマンスだった。

プレーはパワフルかつしなやかで、個人で局面を打開できる選手が揃っている。ただ、どちらもすでに分かっていることであり、率直に言って驚きはなかった。前半から数多くのシュートを浴びせたが、そのほとんどはペナルティエリア外からのミドルシュートである。しかも、確率の高いプレーを選び抜いた末ではなく、ほとんどが力ずくや強引なシュートばかりだった。

シュートを打てば何がおこるか分からない。打たなければ何も始まらない。決定力について語られるときに、しばしば引用されるフレーズだ。どちらも正論ではあるが、分かりきったシュートは対処しやすいのも事実である。ペナルティエリア外からの強引なミドルシュートを連発した反動として、サイドからクロスが供給されるシーンは数えるほどだった。スロバキアの守備陣を完全に崩した場面は、見当たらないと言っていい。82分にエヨンが記録した同点ゴールも、相手CBがクロスをかぶるというミスを冒したからだった。

この試合の展開とスロバキアの試合運びは、日本にとって参考になる。前半5分に先制点を奪ったスロバキアは、1−0でハーフタイムを迎えると後半からシステムを変更する。4−2−3−1から4−5−1へ変更したのだ。ノーマルな状態では前半と同じ4−2−3−1だが、ディフェンスの局面では1トップを残して中盤の5枚が横並びでブロックを敷く形が徹底されていた。欧州予選では4−4−2のカウンターサッカーで首位通過を果たしたスロバキアは、さらに現実的な方向へシフトしている。

カメルーンがベストメンバーでなかったように、スロバキアも調整過程にある。欧州予選でチーム最多の得点を叩き出し、“カウンターストライカー”の異名を持つセスタクが先発から外れていたのは、この試合がテストの要素を含んでいたと示唆している。

先の韓国戦の敗退を受けて、岡田監督もここに来て現実路線へ舵を切った。日本人だからできるサッカーは部分的、もしくはかなりの部分において封印されることになるだろう。非公開練習というカーテンの向こう側では、実効性を追求したトレーニングが繰り返されていると想像する。

重要なのは、相手の良さを消すことが自分たちの強みを発揮するための下地になるのかどうかだろう。守備に軸足を置いた後半のスロバキアも、決定的なチャンスはつかんでいる。まず負けないためにディフェンスを重視した試合運びをするなかで、勝ち点奪取への足がかりをつかめるのか。イングランド戦でみたいのはそんなゲームであり、そのためのキャスティングである。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖