先ごろ、アイドルと結婚しすっかり「時の人」となった庄司智春とコンビを組む品川ヒロシの初監督作品『ドロップ』を見た。春休みとあって初回上映から満員の客席には、ヤンキー映画にもかかわらず成宮・水嶋目当て女性客が目立つ。しかし思いのほか良い『ドロップ』の出来にイケメン目当てだった女性たちも思わず「面白かったねー!」の嵐。そして記者は、品川初監督の『ドロップ』にある“巨匠”のデビュー作や、あの監督の“名作”を重ね合わせ、それ以上に高い完成度を見たのだった。

不良少年に憧れてわざわざ私立の中学へ転入してきたヒロシ(成宮寛貴)は、登校初日から「人は簡単に死なない」が口癖のタツヤ(水嶋ヒロ)と、タカシ(浪岡一喜)、ワン公(若月徹)、ルパン(綾部祐二)に手荒く迎えられる。誰彼かまわず突然噛み付く“狂犬”みたいなタツヤと”つるむ”ようになったヒロシは、タツヤの彼女みゆき(本仮屋ユイカ)の存在が気になる・・・・

成宮寛貴と、今をときめく水嶋ヒロのダブル主演とあるが、今後も『クローズ・ゼロII』や『ルーキーズ』などこの手「イケメン・男映画」が続々と公開される予定だ。先駆けとなった『ドロップ』は、ヒットしているだけあって面白い。
こういった映画を楽しく見るには未成年の喫煙や飲酒、金属バットで殴ったら“即死もありえる”事を一瞬頭の隅に追いやって見なければならない。それらをマイナスしたとしても若い子たちの心に何がしか残る映画に完成している。
登場人物のヤンキー中学生(!)たちのマンガみたいな日常や、ゆるく可笑しな会話が、お笑い芸人・品川による抜群のセンスで綴られ、場面場面が時折、高橋ヒロシ・キャラクターデザインの漫画に切り替わる所も自然だ。

この映画を見て記者は、今から20年ほど前、今は“巨匠”となったビートたけしが北野武として映画監督デビューした時、監督の残酷な暴力描写に不安を感じながらも、そのあまりに鮮烈な映像センスにビックリした事を思い出した。品川の『ドロップ』も「不良のけんか」という世間的には“負”の状況をまるでスポーツのような「圧倒的に魅力的な題材」に変え、「友情」や「自立」をも喧嘩から見出す。たとえ、「教育上よろしくない」とされていても、面白さが暴力に勝ってしまう映画。巨匠と品川のデビュー作の共通点である。

脚本の面白さ、スピード感、役者の使い方、初監督作『ドロップ』でここまでやられたら、品川の才能を認めない訳にはいかない。その中で記者が一番ビックリしたのは、喧嘩シーンのアクションだ。殺陣師や製作のいろいろな協力があったにせよ、手の込んだ仕事ぶりにびっくりした。

井筒和幸監督の『パッチギ』という映画でもさんざん喧嘩に明け暮れる少年たちを描いたが、執拗なイジメが汚らしく、肝心な最後の大乱闘シーンがカットされていて消化不良だった。暴力シーンがワンパターンな北野監督の映画にも言える事だが、暴力と男ウケする「下ネタ」の繰り返しでは映画を見ている女性が飽きてしまう。今や毎週レディースデイがあり、男性がDVDで済ます映画も女性はわりとスクリーンで見てくれる。映画を作っても女性にウケなければその作品は完全にアウトだ。賞は獲っても観客動員数が振るわないのはこの辺に原因があるのではないか。

男社会で第一線だった北野監督や井筒監督は、女・子どもを相手にしない映画を作るが、品川は違った。ヤバイ喧嘩を話術で切り抜ける成宮はさることながら、高校サッカーの選手でもあった水嶋ヒロの喧嘩シーンは身のこなしが“顔”以上に美しい。客席の女子率も高いはずだ。無免許運転の車で突っ込むシーンや、神社のお清め(手を洗う水場)にヒロシの顔がつかるシーンと。ワンパターンになりがちな少年達の戦いにバリエーションをつけて暴力シーンに抵抗がある女性にも飽きさせない。

下品な笑いは意外と少なく、成宮の前作映画『ララピポ』の役柄そのままに登場する村上とも子(森三中)や、体育教師役のFUJIWARAの藤本、うまく化けたレイザーラモンHG(住谷正樹)+RG、その他吉本の芸人やおなじみの俳優が上手い具合に顔を出す。

ヒロシを取り巻く少し大人の世界、姉のユカ(中越典子)とその恋人でやさしいアニキのヒデ(上地雄輔)がいい。日テレのドラマ『銭ゲバ』で保証されたしっかりとした演技で見せる宮川大介はヒデの仕事仲間。彼が一番大人っぽい。この3人がヒロシの“心の成長”に非常に重要に絡んでくる。

前半は喧嘩ばかりで教育上よろしくないが、後半は泣かせる。本当はぜひ「多感な年頃の子どもたち同士」で見にいって欲しい映画であるが、この映画はR12。そこが少々悔やまれる。

『ドロップ』公開中 監督・脚本・原作:品川ヒロシ  出演:成宮寛貴、水嶋ヒロ

(編集部:クリスタルたまき)

【関連記事】
安っぽい仮面を被った“秀作”映画『ララピポ』
ヤッターマン2号“愛ちゃん”をもっと出して! 映画『ヤッターマン』
曲に隠された秘密と不思議な“力”の物語。 映画『フィッシュストーリー』
成海璃子コメディ初挑戦。『罪とか罰とか』監督 ケラリーノ・サンドロヴィッチとは?
【エンタがビタミン♪】『少年メリケンサック』音楽と衣装のこだわり。

-ITからセレブ、オタク、事件・事故まで。スルーできないニュース満載-
TechinsightJapan(テックインサイトジャパン)はコチラから!