これで経営危機を乗り越えることができるか。千葉のローカル線・いすみ鉄道は、鉄道名および駅名の命名権=ネーミングライツを募集することを明らかにした。

これは、今月3日に同社のホームページ上で発表したもの。新たな安定収入源を確保するためとして命名権を販売し、来年4月より実施する。

命名権を募集するのは鉄道名および駅名で、応募にあたっては会社登記を一年以上有する法人であることが条件となる。鉄道名は年間3000万円、契約期間が最低五年間で販売される。また駅名は乗降客の多い大原駅と大多喜駅が年間200万円で、その他の駅が年間100万円となる。なお、大多喜駅は既に命名権購入を申し出た社があり、販売が内定しているという。

もっとも、「いすみ鉄道」という名前が完全になくなってしまうわけではなく、会社名が頭に追加される形となる。例えば「TechinsightJapanいすみ鉄道」のように表示されるということだ。各種印刷物や看板はもちろんのこと、時刻表などの公式な媒体や案内板にもこうした名称が掲載される。


★いすみ鉄道の「黄色い電車」(撮影:鈴木亮介)

いすみ鉄道は、千葉・房総半島の東端から内陸部に敷設された旧国鉄木原線を引き継いだ第三セクターの路線として1988年に開業。いすみ市の大原駅から大多喜町の上総中野駅までの26.8kmを結ぶローカル線だ。沿線は里山の豊かな自然やのどかな田舎町の風景が広がり、ドラマやCMなどの撮影に多く使われている。

春は菜の花が咲き誇り、地元・大多喜町のレンゲ祭りの開催と合わせて多くの観光客が訪れる。また、秋には養老渓谷の紅葉を楽しむこともできる。

しかし、こうした観光客の多くは車で訪れるため、鉄道の収益には結びつかないのが現状だ。また、沿線住民もマイカーでの移動が主流となっており、本数の少ない鉄道路線を利用する人は稀だ。

現在、いすみ鉄道の利用者の大半を占めるのは沿線の大多喜高校などに通う学生である。平日の朝夕は通学ラッシュで賑わうものの、昼間は一時間にわずか一本のダイヤであってさえ、ほとんど乗客がなく、車内は閑散としている。

こうした状況でいすみ鉄道の利用者は年々減り続け、慢性的な赤字に悩まされている。これに加えて、車両や鉄道施設の老朽化から経費の増加が見込まれ、一度は廃線の危機に瀕したこともあった。

昨年のいすみ鉄道対策協議会では今後二年間猶予を与え、2009年度の決算で収支の改善が見込まれない場合は路線を廃止することが決定された。いすみ鉄道は今、存続をかけて崖っぷちに立たされている。


★沿線の名所、大多喜城(撮影:鈴木亮介)

そんな崖っぷち路線・いすみ鉄道は、改革の手始めに社長の一般公募を行った。今年2月、325名の応募の中から元・リクルート社員でタクシー会社代表取締役の吉田平氏(48)が社長に就任。前職などの経験を活かして経営改善に取り組む事となった。

その後、8月には新駅が開業。応援ソングCDの発売やオリジナル煎餅の発売、ホタルの観察や紅葉巡りなどのイベントも数多く企画した。中には、グラビアアイドルと鉄道を融合した「グラ鉄」というマニア向けの企画もあった。

だが、それらの取り組みは宣伝不足のためか、いずれも根本的な収益改善の材料としては乏しい。やはり厳しい言い方をすれば、地元住民のいすみ鉄道への愛情が足りないということが、如実に表れているのだろう。

かつて、前身の国鉄木原線が廃線の危機に立たされた時、沿線住民がそれを阻止すべく、国鉄の調査日を狙って用もないのに乗り降りを繰り返し、乗降客数を水増ししたことがあった。正確な調査の妨げになるとして問題視されたが、裏を返せばそこまでしてでも残したいという強固な意志があったということだ。

とは言え、沿線の学生たちは本気だ。JR外房線・大原駅を降りていすみ鉄道の乗り場に向かうと、まず目に飛び込むのは沿線の小中学生が描いた綺麗なポスターだ。黄色い電車のイラストとともに、支援を呼びかけるメッセージが書かれている。

また、大多喜高校演劇部は「走る芝居」と称して、なんと電車内で演劇を行った。同校OBによるオリジナル作「新撰組大多喜上陸作戦」など地元にちなんだ劇を披露。スペースも時間も限られる中で、派手なアクションに本格的な楽器の演奏にと盛りだくさんで、設けられた四十四席は全て埋まり、観客=乗客を魅了した(千葉日報・1月7日付け記事による)。

こうして沿線の学生たちがいすみ鉄道を盛り上げているが、せっかくの取り組みも、県内外の多くの人に知られなければ、その効果は薄い。千葉県内には同様に存続が危ぶまれた銚子電鉄があるが、こちらはぬれ煎餅のインターネット販売で全国規模の注目を集め、結果的に多くの寄付が集まった。

いすみ鉄道の場合、こうした対外的な宣伝に関して銚子電鉄とは明暗がくっきりと分かれている。もっとも、いすみ鉄道は電車の運行に関して「通学時間帯中心のダイヤ編成にする」という姿勢を示しており、観光客による収益増に対しては消極的だ。

今回の「ネーミングライツ」で挽回したいところだが、今のところメディア各社はこの発表を報じていない。果たしてスポンサーは集まるのか。今後の動向が注目される。


◆いすみ鉄道 オフィシャルサイト
http://www.isumirail.co.jp/
◆中高生いすみ鉄道存続プロジェクト
http://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/challenge/19gaiyou/19-20ootaki.pdf

(編集部 鈴木亮介)

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